第61話 第21回転生者会議
会場側の席にはお風呂上がりの為か、それとも怒気の為であるか、どちらかは分からないが、頭から湯気を放つ転生者達が座り、上座の方ではカオリとトーカがいた。
「トーカはん、なんでトーカはんまで、ここにおるん?」
カオリがとなりのトーカに尋ねる。
「なんでって言われても、私はあの人達の指導者だし、後は…なんとなくかしら?」
「なんか、乗りと勢いみたいやね」
カオリは少し呆れたように答える。
「それより、あの人達ならまだしも、貴方の方こそ、なんでマールの結婚に拘るのよ」
トーカがカオリに問い返す。
「なんでって言われてもなぁ~ なんていったらええやろ… 仲ようしとった友人が結婚したら、家に遊びに行きにくくなって、そのまま、疎遠になってまうのが嫌みたいな?」
カオリにそう言われて、トーカは少し考え込む。
「なんとなく、分かるような気がするわ…」
「分かるん? トーカはんもそんな友達おったん?」
カオリが悪気無く、聞き返す。
「失礼な事言うわね! ちゃんと私にもそんな友人がいたわよ! 学生時代に人当たりが良くて、面倒見も良くて、私の相談も良くのってくれたのだけど… 恋人が出来てから近づきにくくなったわね… 今頃、彼女はどうしているのかしら…」
トーカはそう言って、怒るのであるが、『いるわよ』ではなく『いたわよ』と言うところを見ると、友人と呼べた存在はその人物だけで、現在はいないようである。
「堪忍やで…そんなつもりで言うたんとちゃうんや、それにうちはもうトーカはんの友人、友達やで」
カオリはトーカの事を察して、慰めの言葉を述べる。
「我が妹の友人になってもらえたのはありがたいが、そろそろ始めてもらえるかな?カオリ嬢」
会場側の転生者達に混じっていたトーヤが立ち上がり、会議の開催を促す。
「堪忍、堪忍。 ほな、えっと…今回は何回目やったっけな…」
カオリは立ち上がり、開催をしようとするが、今回が何回目であったかを頭を捻って思い出そうとする。
「前回のトーカ嬢の人馬当番の件で第20回だったから、今回は21回目だ」
転生者側からカオリへ助け船がでる。
「そやったな、ほな第21回転生者会議をはじめるで」
そう言って、カオリが檀上で宣言をする。
「ねぇねぇ、さっき私の名前が出ていたんだけど、何を話合っていたのよ?それに第21回って今まで、どんな事を話し合っていたの?」
檀上のカオリに隣のトーカが尋ねる。
「それは…今はややこしいから、また、今度話したげるからな」
カオリは片眉を上げて答える。
「で、今日の議題やけど…」
カオリが言い切る前に、会場の転生者が叫ぶ。
「マールたんの結婚についてだ! それ以外に何がある!!」
「そうだそうだ!! 我らのマールたんと結婚しようとはけしからん!!」
「俺達の目の黒いうちは結婚など、絶対、許さんぞ!!!」
多くの転生者達が立ち上がり、それぞれ、思いの丈を怒鳴り散らす。
「皆の者!静まれぃ!!」
怒声が飛び交う中、一人の転生者が立ち上がり、皆を制止し始める。
「なんだよ、お前、マールたんの結婚を許すと言うのか!?」
「お前は、俺達を裏切るというのか!?」
マールの結婚に対する憤りが、制止した転生者に向かう。
「違う! そうじゃない! 逆を考えるんだ!」
制止していた転生者は、片腕を怒鳴る転生者達を制止するように伸ばし、もう片腕で顔半分を覆う。
「逆…だと…!?」
怒声を飛ばしていた転生者達が、制止した転生者の次の言葉を固唾を飲んで待つ。
「マールたんに、人妻属性とNTR属性がつくと考えるんだ…」
「人妻と…NTRだと!?…」
人妻とNTRという思いがけない言葉に、転生者達は驚愕するが、すぐに別の転生者が立ち上がり反論を述べ始める。
「騙されるな! みんな! 俺の友人はリアル彼女をNTRられて、ガン泣きしながらマジ吐きしたんだぞ!! 薄い本とかとは違うんだ!」
そして、別の転生者も立ち上がる。
「そもそも、人妻ものについても、円満家庭の人妻を騙したり、脅迫したりしてものにするか、ご無沙汰で欲求不満な人妻に応じるのがよいのであって、我らのマールたんが、肥え太り欲望にまみれた貴族の人妻になるのは、良しとしないはずだ!!」
二人の転生者の言葉に、他の者たちはハッと我に返る。
「そうだよな…薄い本の中なら許せるけど…リアルは…」
「そもそも、俺、NTRは受け付けないんだよ…」
「俺もかわいそうなのは…」
「バブ―…」
転生者達はマールと自分たちに迫る現実を受け、項垂れる。
転生者達の様子を見守るカオリの袖を、トーカがクイクイと引っ張る。
「貴方達、こんな話を20回も続けているの? それに貴方達の貴族観って、なんであんな感じなのよ? あんな貴族聞いた事ないわよ」
「いや、全部が全部って訳やないけど… 大体はこんな感じやなぁ~」
カオリは苦笑いしながら答える。
その時、沈黙を守っていたトーヤが突然立ち上がる。
「みんな! 聞いて欲しい!!」
転生者達の視線がトーヤに注目する。
「僕は、肥え太っても、欲望にまみれてもいない、君たちの味方の貴族だ!」
トーヤは自分自身が清廉潔白な貴族であることを宣言する。
「あぁ、トーヤはん、あいつらの貴族観、気にしとったんやな…」
カオリが呟く。
「その貴族である僕が告げる! 君たちは100人もいて、大事な姫君が他人に奪われるのを、黙って見ているのかい!?」
転生者達はトーヤの言葉に衝撃を受ける。
「そうだよ! 俺達がその貴族を止めればいいんだよ!」
「バブ!バブ!バブゥゥ!!」
「いや、それだけでは駄目だ! 第二第三の貴族が現れる!」
「根本の問題を解決しないとならない!」
「では、そもそもの問題というのは…」
「跡継ぎを作る事…」
転生者達が一斉にごくりと唾を飲む。
「跡継ぎを作ると言うと…あれだよな…」
「マールたんについては愛娘キャラとして見ていたが…」
「今まで、子供だと思っていた子が、いつの間にか女の雰囲気醸し出しているやつだな…」
一部の転生者達が不穏な空気を醸し出す。
「待て! お前たち! 我々は、紳士協定でマールたんをいかがわしい目で見ないように決めたはずだ!」
「そうだ! 紳士協定を破れば、俺達は血で血を洗う争いになる!」
「だから、逆の発想をするんだ!」
不穏な転生者達に、紳士協定派の転生者が叫ぶ。
「跡継ぎ…それはつまり、子供の事だ…」
転生者達は何かに気が付いて、発言した転生者に注目する。
「俺達がマールたんの子供になればいいんだよ!」
その転生者の言葉に、皆が全員立ち上がり、拍手を始める。
「そうだよ!マールたんを全員の嫁にすることは出来ないが、俺達全員がマールたんの子供になる事は出来る!」
「だな、それなら奪い合いは発生しないな!」
「マールたんママ…いい響きだ…」
「バブー!!」
「はは、赤ん坊のお前には負けないぞ!」
「俺の赤ちゃんプレイを見せてやる!」
転生者達は自分たちの目指すべき道を見つけ、互いに語り笑いあう。
「ふふ、漸く、自分たちの進むべき方向を見つけたようだね…」
そんな転生者達を見守りながら、トーヤはそう呟く。
「あぁ、お兄様が… お兄様が… あの人達に染まっていく…」
トーカは兄であるトーヤのそんな姿を見て、机の上に崩れ落ちる。
「トーカはん…諦め… 男は大なり小なり、あんなもんや…」
カオリはトーカの方に手を置き慰める。
その時のマールは、これから自分に襲い掛かる、転生者達の所業を知らずにいた。
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