第47話 何が出るかな?エルフガチャ☆

「ほんま!? ほんまにエルフがきたん!?」


 カオリが久しぶりに喜び騒いでいる。ちなみにもう袋は被っていない。というか、また倒れられても面倒なので、私が被らないようにお願いした。ぐずっていたので、私がトーヤに頭を下げて、一緒に説得するようにお願いもした。


「えぇ、前に出していた募集を見たようで、こちらに連絡がありました」


 募集に応じる連絡があった事をカオリに告げる。


「ようやく、異世界名物のエルフに会えるんや! やっぱり耳長いんかなぁ~ 別嬪さんなんかなぁ~」


 エルフが来ることに浮かれるカオリであるが、私にはちょっとした疑問があった。それというのは、当家では財政難の為、平均的なメイドの給金にちょっと色を足した程度の金額でしか、募集を掛けていない。


 しかし、エルフの女性なら引く手数多であるはずなので、この様な金額では、本来応じるはずは無いのだが…なんでだろう?


「珍しいわね… エルフがこんな低賃金でメイドの応募に応じるなんて…」


セクレタさんも同様の意見である。


「まぁ、カオリさんもあんなに喜んでいますし、とりあえず面接してみましょうか」


私は一抹の不安を抱えながらも、そう答えた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「なぁ、マールはん。うちが頼んどいて、こんな事言うのはなんやけど、ほんまエルフなん? ドワーフとちゃうの?」


 カオリが小声で私に聞いてくる。私はカオリの言葉にもう一度、書類を見直す。確かに書類には純血のエルフと記されてあるが、見た目というか体格はどう見ても、樽に手足を生やした様なドワーフみたいである。


「しょ、書類には純血のエルフと記されていますね…」


私は小声でカオリに答える。


「そやかて、手足も身体も水風船みたいにぱんぱんになっとるで? エルフってもっとすらっとしたもんやろ?」


「これでも、ここに来るまでにかなり痩せたっす…」


 エルフの娘が突然、答える。カオリは私にだけに聞こえる声で言っていたのだが、さすがエルフ、長い耳は伊達ではないらしい。


「え、えぇっと、リーレン・リットさんで、よろしいですか?」


「はい、そうっす」


エルフの娘は答える。


「こちらに応募されたのは、どういった理由でしょうか?」


私は気まずさを誤魔化すために、応募理由を尋ねてみた。


「食べる金欲しさに…」


エルフは、ポツリと答える。


「なぁなぁ、マールはん。この娘、応募理由やのうて、犯行動機みたいな事言うとるで」


私にそんな事を聞かれても困るので、本人に直接、尋ねてみる。


「えぇっと、それだけだと、事情がよく分からないので、詳しく説明してもらえますか?」


彼女は小さくうなずくと、今までの経緯を語りだす。


「まず、私はエルフの森に住んでいたっすけど、人間が時々、交易に来てたっす。そこで、初めて人間世界の食べ物を食べて、すっごい感動したっす」


「乳製品とかですか?」


「はいっす! チーズ大好きっす! それと肉も好きっす!」


エルフのリーレンは鼻息を荒くしてこたえる。


「森におったら、肉もたべれるんちゃうの?」


カオリが肉食について尋ねる。


「森の獣は、森の一部なので狩猟禁止っす。事故や病気で死んだものも、食べずにそのまま埋葬するっす」


「そういえば、マールはんに前に聞いたなぁ~ほんまやったんや」


「森での食事は、木の実やキノコ、葉っぱばかりっす…だから、人間の食事が忘れられなかったっす…」


健康的で良いとは思うが、一生それではきついであろう。


「だから、金目の物をかき集めて、森をでたっす」


なにか達の悪い、家出少年の様な事を語り始めた。


「最初は、人里の物、全てがもの珍しくて、また、人間の男性もすごい親切で、色々な物を食べさせてくれたっす」


段々、話が読めてきたような気がする。


「所が、私が太りだすと、親切にしてくれていた人間の男性が、一人また一人と減っていって、気が付けば誰もいなくなったっす…」


あぁ…なるほど…そうなりますよね…


「そのうち、路銀も尽き始めて… 一時期は身売りでもしようかと考えったっす… でも、どこも断られて…」


ダメだ…この娘… 色々、ダメすぎる…


となりのカオリも呆れた顔をしている。


「そ、それで、うちの募集を見て、ここに来たんですね?」


「そうっす!」


私の問いに、最後の頼みの様に必死な顔で訴える。


「なぁ…マールはん… 言い出しっぺ、うちやけど… ほんま、どうするの?」


「どうするって言っても、この人、ほって置いたら碌な事なりませんよ…」


私は、はぁ~っと溜息をつく。


「もう、100人も面倒を見ていますし、あと一人増えた所で変わりませんから… これも何かの縁です。うちで面倒をみましょう…」


「うちが言うのも変やけど… おおきになぁ、マールはん。 うちもこの娘はほっとかれへんわ」


 私の言葉に、カオリも同意する。確かに彼女リーレンの身の上話を聞けば、保護せざるを得ないであろう。


私たちの言葉に、リーレンは満面の笑みで微笑んだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「くそ!期待していたのに…」

「エルフガチャ…はずれたか…」

「あれはあれでいいんじゃない? ぬいぐるみみたいで」


夕食時、食品を補充するリーレンの姿を見て、転生者達が不満の声を漏らす。


「はずれとか言ったりなやぁ、想像してたのとは違うけど、あの娘はあの娘で可愛いやん」


カオリは独り言の様に呟く。


「しかし、エルフのメイドとはまた珍しい物を…」


トーカが物珍しそうに呟く。


「次から次へと…ここは面白い…」


トーヤは口元に笑みを浮かべる。


 猫に、男の子に、エルフ… まともなメイドがいない現状に、私は、何故こうなったと思うところはあるが、他人や部外者にとっては奇妙で面白いのであろう…


 私はリーレンの働きぶりを上座より見ているが、彼女なりに頑張っているので、そこは安心できるのだが… 


 パンやスープ、スクランブルエッグ等を補充するたびに、ものすごく物欲しそうな目で凝視している。また、フェンに習って、お茶の給仕もして回っているのだが、ずっときゅるきゅるとお腹の虫を鳴らしっ放しで、食事を凝視するので、給仕されている方はたまったものではない。


「なぁ… マールはん… うち、犬に待てした状態で、ご飯食べてる様な気がして、心苦しいんやけど…」


「奇遇ですね…私もですよ…」


ほんと、私も食べづらい。となりのトーカも同意するようにコクコクとうなずく。


そんな話をしていると、転生者達も数人、私の所にやってくる。


「マールたん… ちょっと、お願いがあるんだが…」


珍しく切実な顔で、頼んでくる。


「はい? なんでしょうか?」


「あのエルフのメイドの娘… 腹の虫鳴らしっ放しだわ、食事を凝視するわで、落ち着いて食事が出来ん… なんとかならんか?」


 普段は図太い神経を持っている転生者達も、さすがにリーレンのあの姿は耐えられないようである。


「はぁ~ 分かりました… 私もそうなので、何とかします…」


 こうして、当家には、誰よりも早く食事を採るメイドが誕生した。



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