第41話 こんな可愛い子が男の子なはずない!
「へぇ~ この子が噂の新しいメイドさんかぁ… マールはんも案外、業の深い事するなぁ」
「な、なに言ってるんですか! わ、私は、そ、その… あれです! その、た、互いの利益に則った判断をしただけで…む、無理やり、その…させているんじゃないですよ!」
私は可愛らしいメイド服を着て、にこやかに微笑むフェンを前に、必死にカオリに弁明する。
「へぇ~」
今、私とカオリは一番に早く食堂に来て、フェンの事で驚かせないように紹介を兼ねた、朝食を採っている。
「カオリさま♪ お茶は如何ですか?」
フェンが可憐な花を纏わせたような笑顔で、カオリにお茶の入ったポットを差し出す。
「おおきに頂くわ。しかし、フェン君、ごっつ可愛いなぁ~ よう似合ってるけど、いややあらへんの?」
カオリがお茶を注いでもらいながら、フェンに尋ねる。
「僕の実家は農家ですから、非力な僕は汚くてキツイ雑用しかさせてもらえませんでした… だから、こんな綺麗な服を着させて頂いて、働かせてもらえるのは嬉しいです!」
私は許可しただけと言えば、聞こえは良いのだが、実際、働かせている私にとって、フェンの笑顔は眩しすぎる。
「そ、そうか…本人がええなら、それでええわ…」
カオリは理解はしたが、納得出来るような出来ないような、微妙な顔でお茶をすすった。
そこに出入口から、人が集まる音がする。転生者達である。今日もいつもと変わらない朝食が始まると思っていたが、新しいフェンのメイド姿を見つけて、少し驚いているようだ。
「おっ!新しいメイドの娘じゃん!」
「しかもロリっこ!」
「おぉ!かわいい!」
転生者達の言葉にフェンが気が付き、スカートのフリルをひらひらを周りながら、転生者達に向き直る。
「僕、新しくこの館で勤めさせて頂く事なりました、フェン・ワァイノと申します。転生者のみなさん! 不束者ですがよろしくお願いいたします!」
フェンは恭しく一礼した後、華やかな笑顔を転生者達に送る。
「ちょっ!この娘、めちゃくちゃ眩しいんだけど!」
「ようやく、異世界転生らしい女の子が!」
「おぉ!僕っ娘だ! マジ僕っ娘!」
転生者達が騒ぎ立てる。そんな中、フェンは顔を覚えてもらう為、一人一人にお茶を注いで回る。
「フェンと申します。よろしくお願いいたします! 転生者さんはすごい魔力をおもちなんですよね?」
「おぉ、そうだ」
転生者の一人は照れながら、お茶を注いでもらう。
「僕、魔力がぜんぜん無いので、転生者さんはあこがれなんです!」
「ふふふ、まだ全力は出したことは無いがな」
次の転生者は満更でもない顔をする。
「転生者さん、かっこいいですよね。とても強いですし」
「……」
次の転生者はフェンの言葉に感極まって、フェンに撫でポをする。
「あっ… こんな何も出来ない、僕の頭を撫でてくれるなんて…嬉しいです」
そういって、フェンは頬を赤らめる。思いがけない反応に撫でた転生者が驚く。
「何…この感じ…これは感激? 感動?」
思い返せば、転生者の撫でポは、私みたいに避けられたり、サツキやメイみたいに嫌がられたりすることが全てだった。ところが、フェンは初めて撫でポを受け入れ、それどころか撫でポを好意に受け取っている。
その様子を見ていた他の転生者達は立ち上がり、皆、フェンの所に行って自分も撫でポを始める。
「あぁ、皆さん、こんな僕を撫でて下さるなんて…僕は本当に幸せものです…」
フェンは転生者達の集団撫でポに、顔を真っ赤にしながら感動の言葉を漏らす。
「こ、これが俺たちの求めていた撫でポの反応だよな…」
「初めてだ…初めて、求めてやまない反応を初めて得た…」
「やべぇ…目頭が熱くなってきやがった…」
「泣くな! エンディングまで泣くんじゃない!」
転生者達が口々に感動の言葉を漏らす。その中、転生者の一人が感極まって、フェンの身体を抱き締める。
「あっ…」
フェンはその突然の抱擁を抵抗もせず受け入れる。
「転生者さんの胸板って… とても逞しいんですね…」
フェンは抵抗するどころか、素直に好感の言葉を告げながら、その身を任せる。
「もういいよね! ゴールしてもいいよね! ここまで来たら間違いとか有ってもいいよね! というか間違い有りまくりでいいよね!」
抱き締めた転生者が感極まって、感動の声を上げる。
「あほか! ええことあるかい! あんた!何口走ってるやな!」
カオリは立ち上がり叫ぶ。
「ここまで好意を向けられて、手を出さずにいられようか?いや、ない!」
「何、漢語の反語風に言うてんねん! あるか! そもそも10歳の子供やで!!」
「愛さえあれば歳の差なんて…」
フェンが抱き締められたままで、満更でもなさそうなので質が悪い。
「あほ! あるわ! おおいにあるわ!! おっさんと子供やろぅが!!」
「ふふっ、男は大きくなっても、大きな子供。いつまで経っても少年の心のままなのさ…」
「いや、確かにあんたらが、精神的な成長を全然してないのは分かるけど… いやいや、ちゃうちゃう! 精神年齢の事やのうて、分別ある大人かどうかや!」
いくら言ってもフェンの態度は変わらないので、カオリは分が悪いが、必死に抵抗する。
「今までさ、異世界転生したというのに、ヒロインフラグ立たずじまいだったのに」
「フェンちゃんみたいな反応が新鮮で、また感動するよな」
「俺たちはこの日の為に異世界転生したんだよな」
もはや、カオリの説得の言葉は転生者達に届かない様子であった。
「もう、こないになったら、アレ言うしかないんか?」
カオリは困った顔をして、頭をかきむしる。
「あんたら、その子に入れ込むのもええけどな。フェン君はなぁ…」
カオリが一度、唾を飲み込む。
「男の子やで」
カオリの言葉に、フェンを中心に騒いでいた転生者達が一斉に固まり、また今まで、眺めていただけの転生者が立ち上がり、フェンを注視する。
「なん…だと…」
「お、男の娘!?…」
「実在していたのか!?」
「なんで、さっきまで興味なさそうやった奴まで、さわいでんの?」
カオリが予想外の状況に首を傾げる。
「こんな可愛い子が男の子なはずない!」
「いや、だが男だ!」
「くそ!情報が足りない!」
騒いでいた転生者達が一斉にフェンに向き直り、視線が集まる。
「そ、その…触って確かめてもいいか?…」
その言葉にフェンは顔を耳まで真っ赤にして、もじもじしながら両手で下腹部を隠す。
「ぼ、僕… そんな…急に困ります… それに心の準備が…」
「こ、心の準備が出来たらいいんだな?」
「ええことあるかい! あんたら、何言うてんねん! 元の世界であかん事はこっちでやってもあかんやろが! 事案ものやで!」
すんでの所でカオリに怒鳴り散らされて止められ、転生者達は舌打ちをする。
「じゃあ、今晩、転生者会議をするから、分かってるよな。カオリン」
「ちょっと、待って! また、うちが出なあかんの?」
「当然だろ」
「じゃあ、さっさと飯食って仕事してくるか」
「そうだな、はやく仕事を終わらせて決着をつけよう」
呼び止めるカオリの声も虚しく、転生者達は食事を終えて仕事に向かっていった。
そして、いつの間にか私の隣に来ていたセクレタさんが、私に耳打ちをする。
「ねっ、私の言っていた通りに、フェンは素晴らしい囮をこなしてくれたでしょ」
その言葉に私は、セクレタさんに向き直る。
「あの子、絶対に逃がしたらダメよ」
私は納得は出来ないけど、セクレタさんの言葉を理解した。
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