第42話 転生者会議:男の娘について

「なぁ~ なぁ~って なんで毎回毎回、あんたらのアレな事の相談会議に、うちが出席せなあかんの? もう、あんたらだけでやればいいやん。 なぁ~ 聞いてんの? なぁ~って?」


「うるさいなぁ!もう! カオリンが言い始めた事だろうが!」


転生者の一人が立ち上がり、面倒くさそうにするカオリに言い放つ。


「いや、うちはフェン君が男の子やでって、言っただけやん」


カオリは檀上でやる気なさげに、へたりながら答える。


「だから、カオリンが問題の始まりなんだろうが!」


「えっ、何それ、うちは事実を言うただけで、責任を取らされるの?」


「当たり前だろ! 見てみろ! 俺たちの様子を!!」


 そう言って、会場の転生者達を指し示す。そこには幾つもの派閥に分かれて、互いに威嚇し、罵り合っていた。


「俺たちは今までも、イキリ派、ヤレヤレ派、復讐派、中二病派、ハーレム派等と幾つの派閥に分かれていたが、しかし、いつも心は一つだった! でも、今はばらばらになってしまった!! 全てはカオリンのせいだ!」


「うちはあんたらの事、少しは分かってきたつもりでおったけど、なんでフェン君の事で、こないにバラバラになるんや…分からへんわ…」


そう言って、カオリはバカバカしくなって、檀上の上に顔を置いてへたり込む。


「なに、へたり込んでんだよ! さっさと会議始めて、事態を収拾しろ!」


「はいはい、分かったって… ほな、えっと… 第9回転生者会議はじめんでぇ~ みな、静かにしてやぇ~」


「くそ! やる気ねぇな」


「うちにどうやってやる気を出せと?」


こうして、やる気のないカオリと派閥に分裂した転生者達で会議が始まった。


「先ずは本当にフェンちゃんに、男の娘棒が、あるのか無いのかが分からないと、何もはじまらん!!」

「いや、あんな可愛い子に、男の娘棒がついているわけないだろ!」

「何言ってんだよ! 男の娘棒がついているから可愛いんだろ!」


転生者達が各々の派閥で立ち上がり、フェンの男の娘棒について、熱く語り出す。


「その、男の娘棒って言うのやめぇーや」


「では、医学的名称や一般名称を使ってよいと?」


「ごめんさい」


「素直でよろしい」


カオリが素直に引き下がる。


「とりあえず、あんたら何が言いたいんやな? うちには何が問題か分からんから、それぞれの主張言ってみ」


罵り合う転生者の意見をまとめる為、カオリはそれぞれの主張を言わせる。


「まず、基本の俺たち原理主義派はフェン君は『女の子の恰好をした男の子』だと思うのだが」


「まぁ、そやな」


そこに別の派閥の者が立ち上がる。


「いや、それだけでは不十分だろ。本人の意志がどうなのかが重要だ。俺たち理想主義派は『女の子になりたい男の子』だと思うぞ」


「相対認知派としては『周囲に女の子として扱われる男の子』が正しいと思う」


「ギャップ理論派としては『本人が否定している』方が、こう来るものがあるのだが…」


「進歩的原理主義派としては『性の分化がまだ始まっていない中性的な男の子』だと思う」


「とりあえず、あんたらはちゃんと男の子って認識しとるわけやな」


檀上でへたばった体制のままのカオリが言う。


「で、他のやつらはどうなん?」


「倒錯的原理主義派としては『とりあえず可愛ければ』良いと思うぞ」


「いや、超現実派としては『男の娘』という第三の性別にすべきだろ」


「お前たち何言ってんだよ!あんな可愛い子が男の子である訳ないだろ!」


「原理否定派は黙ってろよ!」


「もう、なんらかの手段で、本当の女の子にしちゃえばいいじゃん」


「原理強行派のお前! 何言ってんだ! それだと普通の女の子になっちまうだろ! 男の娘だからこそレアリティ―があるんじゃないか!」


 白熱した転生者達が、各々立ち上がり、互いを否定しあい、もはや収拾のつかない状態に陥ってくる。


「あぁ~ほんま、あほらし。こいつらのあほ話になんで、うちが付き合わなあかんのや~」


そう言った後、カオリは欠伸を噛み殺す。


「そもそもやで、フェン君は今は10歳やけど、大きいなったら声変わりもするし、髭も生えてくるし、もっと歳とったらおっさんにもなるんやでぇ」


『ぎりっ!!』


 カオリがそう呟いた後、会場全体から歯を食いしばる音が鳴り響き、その後、沈黙が会場を支配する。


「ん? なに? あんたら、急に静まり返ってどないしたん?」


 カオリが会場の急変に気が付き、顔を上げ会場内を見渡す。会場内の転生者達は血がにじみ出そうな程、両手の拳を握り締め、血の涙を流し出しそうな鬼の形相をしていた。


「世の中には…言ってはならぬ、触れてはならない物が存在する…」


転生者の一人がぽつりぽつりと語りだす。


「なんやの、急に?」


「お前は世界禁忌事項第12条3項 男の娘の成人後項目に抵触した! お前は許されざる大罪を犯したのだ!!!」


転生者が立ち上がり、カオリを指差しながら、激しく断罪する。


「え!? なに? なんなん? その世界禁忌事項ってのは うち、そんなん知らんで!」


「例えば、かつらをずれている人に忠告をしてはいけなかったり」


「えっ? そうなん? うち、言うてたで」


「おまっ! 何言ってんだよ! お前には良心がないのか!」


さらっと言うカオリに対して、転生者は怒りを爆発させる。


「いや、ハゲの人が…」


「ハゲって言うな! ハゲは差別用語だぞ! 頭髪の不自由な方と言え!」


「いや、その言い方の方が、傷をえぐるんとちゃう? そんなん事だけが禁忌なん?」


「他にもあるぞ! サンタクロースの正体がパパんである事だったり!」


「そんなんも歳いったら、自然と分かるやろ?」


カオリは腰に手をやり、反論する。


「子供はいつまでも夢や希望を持ち続けるもの… そこに夢や希望の無い現実を突きつけられる悲しさが分かるか?」


「それは…」


子供の話を持ち出されると、さすがのカオリも語気を弱める。


「あのクリスマスの日… オレはサンタさんに妹が欲しいと強請った… そして、興奮冷めやらぬオレは、寝たふりをしながらサンタさんが妹を連れてくるのを窺っていた… 所がオレの目に映ったのは、ゴム風船人形を枕元に置くパパんの姿だった… 40年間、信じてきたサンタさんの正体がパパんだと分かった時の…オレのショックと悲しみがお前に分かるか!!!」


「あほか!! あんたこそ、40もなった息子に、まだクリスマスプレゼントやらなあかん、おやっさんの気持ちを分かったれ!!!」


 まじめに聞いていた話の内容が愚かすぎて、カオリは怒って檀上をバンバン叩きながら言い放つ。


「そもそも、40にもなって妹が欲しいって… 還暦前後のおやっさんに何を頼んでるんやな!! 無茶言いなや!」


「くっ! お、男は何歳になっても男だから…」


「じゃあ、おかんはどやねん! 還暦で子産むの無理に決まっているやろが! あほ言いな!」


「ぐぬぬ…」


カオリに言い負かされた転生者は、うなだれて押し黙る。


「どちらにしろ、俺たちとお前とは…相容れない存在のようだな…」


「いや、最初から男の娘分からんて言うてるやんか」


「では、分からせてやるだけだ…」


転生者達が不気味な笑みを浮かべ、カオリににじり寄る。


そこに突然、会場の扉が開かれる。


「やっぱり、転生者のみなさんだ」


そこにはお茶のカートを押している、フェンの姿があった。


「フェン君! 今、ここに来たら危ないで!」


咄嗟にカオリがフェンに叫ぶ。


「大丈夫ですよ。強くて立派な、僕の憧れの転生者さんたちがこんなにおられるんですから、危ない事なんてないですよ」


フェンは眩しい笑顔で答える。その姿に転生者達の殺気がみるみる小さく萎んでいく。


「そんな事より、僕、みなさんの為にお茶をご用意したんです。飲んで頂けますか?」


 カートには100人分のカップとお茶の用意がされていた。一人で準備するのは大変であったことが伺える。


「ええ子や… フェン君、ほんまええ子やなぁ~」


「ふっ、ようやくカオリンも男の娘の良さが分かったみたいだな…」


 その後、カオリと転生者達は、今のフェンのありのままを愛でると言う事で、転生者分裂と言う危機を乗り越え、皆でフェンのお茶を楽しんだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねっ?思った以上の逸材でしょ?」


「いや、そんな事よりも、あの人達は毎回、こんな事をやっていたんですか?」


マールはあきれ果てていた。


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