第40話 留守の報告と新しいメイド?
私は、館の執務室で、館に残っていた者から、留守中の報告を受けていた。
「大変申し訳ございませぇぇぇん!!お嬢さまぁぁぁ!!!!」
執事長のリソンは真っ青な顔になってプルプルと震えている。同じような光景を見たことがあったような… そうか、豆腐寮の最初の時である。まぁ、今回は木造建築を飛ばして、いきなり白い建物であるが…
「リソン、頭を上げて下さい。転生者達の監視についてはカオリさんの役目ですし、今回の事件も水害の発生を未然に防いだので、転生者達もその監視役のカオリさんにも、責任を問うつもりはありません」
私の言葉にリソンは少し、ほっとした顔になる。
「でも、採掘場が水没したのは、痛いわね」
セクレタさんが呟く。
「そうですね…豆腐寮の木材の資産分、猟友会の賠償、日々の転生者達の生活費… かなり、赤字を補填してくれましたからね…」
「うちや、あいつらにも手伝わさせるから、なんとかならへんの?」
私の言葉に、カオリが申し訳なさそうに聞いてくる。
「ここは農業と畜産が主な収入手段ですからね。もう農場の作付けと、家畜の種付けも終わってますから、直ぐに収入を増やすのは難しいですね」
「そうかぁ~難しいんかぁ~ ほな、何とかして採掘場は復帰させなあかんな~」
「できるのかしら?」
セクレタさんが問う。
「あいつら、仕事もさせんとブラブラさせたら、また余計な事するから、何かさせなあかん。うちがよういうとくわ」
カオリが胸をどんと叩いて、自信気に言う。
「掘り尽くしたのなら兎も角、まだ掘れるならありがたいわね。余計な事をさせないものいいわ」
「そうですね。人手が余っているなら復帰作業もよいですね。それと平行して、余った人手で農地や牧場を広げる為の開墾などの開発もおこないますか?」
「そうね、最低100人分の食料の増収が必要ね」
私とセクレタさんで、今後の方針を話していく。
「それやったら、道具とかも必要ちゃうん? あいつらの一人が鍛冶場欲しいって言うてたけど」
カオリが割って入ってくる。
「鍛冶場の話ですか… でも費用がかなり掛かりますね…」
「でも、あいつらの言う話では、設備は残っている建材をつこて、燃料の木炭の代わりに、あいつらの魔法でなんとかするらしいで?」
カオリの言葉にセクレタさんの瞳が輝く。
「ちょっと、詳しい話が聞きたいわね。それは鉱石からの製錬もできるのかしら?」
「どやろ?許可さえあれば、やりよるんちゃうかな? でも、材料の鉱石が高いんとちゃうの?」
「燃料を魔法で賄うというなら、なんとかなりそうね。クズ鉱石でも使えそうだから」
「魔法つこたら、クズ鉱石でもなんとかなるん?」
カオリがセクレタに尋ねる。
「クズ鉱石だと、鉱物が採れる量少ないから、燃料使って製錬するには割が悪いのよ。でも燃料がタダなら、クズ鉱石でもいいわね。クズ鉱石もタダ同然だし…」
「そういう事でしたら許可しましょうか。お金も掛かりそうにないですし」
セクレタさんが悪い顔で微笑んでいると言う事は、採算が取れるのであろう。私は素直に許可を出す。
「おおきにな、マールはん。あいつらに採掘場の復帰と、鍛冶場と製錬場の設置の事言うとくわ」
「こちらこそ、ありがとうございます。場所についてはリソンと相談するようにお願いします」
留守の報告とこれからの方針が終わったかと思ったが、侍女のファルーから申出があった。
「あの、お嬢様。財政が厳しい所、申し訳ございませんが… マニーから人手が足りないと言う事で、メイドの募集を掛けていたのですが…」
ファルーが申し訳なさげに言う。確かに採掘場や鍛冶場等が今後、どうなるか分からないし、現状では収入が下がる。しかしながら、転生者達の生活水準が下がり、何か仕出かすのも問題である。
「分かりました。募集はそのままかけて下さい」
私がそう答えると、ファルーの顔がぱっと明るくなる。
「実は、一人応募が来ておりましたので助かります。サツキやメイの件で、募集が来ずに困っておりましたので…」
『あぁ、あの件がまだ、尾を引いているんですか…』
私はそう考えた。と言う事はおそらくファルーは、大変な思いをして引き当てた募集なのであろう。急な財政難ではあるが、手放すのは惜しかったはずである。
「では、早速会ってみましょうか」
私はそう答えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぼ、僕、フェン・ワァイノと言います! 一生懸命働きますのでよろしくお願いします!」
10歳ぐらいの農家の子供が、その茶色のボブカットの髪を揺らして、私に大きく頭を下げる。可愛らしい子供である。
「館の仕事は、色々あって大変ですが… 大丈夫ですか?」
私はフェンに尋ねる。
「はい! 僕は重い力仕事は苦手ですが、雑用であれば精一杯頑張ります!」
フェンは子供っぽく、両手の拳を胸に引き寄せ、必死に訴えかけてくる。
「これだけの熱意があれば大丈夫かしら」
セクレタさんも納得したようである。
「そうですね。では早速頑張ってもらいましょうか。ファルー、後はお願いできるかしら?」
私も雇用を同意して、後の事をファルーに任せる為に声を掛ける。
「ありがとうございます。お嬢様。 では、フェン。仕事着のメイド服に着替えて、先輩メイド達にも紹介するから付いてきなさい」
「えっ?」
ファルーの言葉にフェンが驚きの声をあげる。
「メ、メイドの募集だったんですか?」
なんだか、風向きが悪くなってきた気がする。
「メイドだと嫌なのですか?」
ファルーが問い返す。
「い、いえ…その…あの… ここの館で働き口の募集があると聞いてきただけなので…」
私は断られるかと思い不安になる。ファルーも同様であるようで眉を少し顰めている。
「ぼ、僕… 男です…」
「「えぇ!?」」
私とファルーが驚きの声を上げる。10歳だからと言っても、女の子にしか見えなかった。声もまだ声変わりをしていない、甲高い子供の声だし、服装についても、農家の子供は、収入や農作業の関係でスカートではなく、ズボンを履く子は多い。顔つきも庇護欲を書き立てる可愛らしい顔をしている。ほんと、言われなければ、女の子にしか見えない。
「で、では… 使用人として雇用しますか?…それとも…」
ファルーが残念そうな顔で尋ねてくる。それもそのはずである。当家では基本、男性は執事長のリソンの管轄であり、担当する部署も異なる。女性はファルーの管轄で、館ないの家事が主要な仕事だ。つまり、女性の職場と男性の職場が分かれており、今は女性の職場の人手が足りない状態なのである。
「そ、そうですね…リソンに聞いてみないと…」
私は仕方なく答える。
「ちょっと、待って! そのままメイドで雇う事はできないかしら?」
突然、セクレタさんが驚きの発言をする。
「ちょっと、待ってください!男の子にメイドの恰好をさせるんですか?」
「えぇ、この際だから仕方ないじゃない。君はどうなのかしら?」
セクレタさんは、私の言葉をさらっと流し、フェンに尋ねる。
「ぼ、僕は家では役立たずで、他に当ても無いので…働かせていただけるなら、僕、頑張ります!!」
フェンは縋りつくような勢いで、セクレタさんの申出を承諾する。
「えぇぇ!!?」
驚きの声をあげる私に、セクレタさんが身を寄せて、耳打ちをする。
「とりあえず、転生者たちにあてがえば、私たちへのアレが減るわ。それに男同士なら間違いもないでしょ」
セクレタさんは結構えげつない事を言うが、私も同意せざるを得ない。確かに数は減ったもののアレは勘弁願いたい。それに男なら、流石の転生者たちも間違いを犯すはずはないはず…多分…
ファルーは現状、どうすれば良いのか分からず、私やフェンの姿を交互に見て、オロオロとしている。
「フェン。本当にメイドとして働いてくれますか?」
私はフェンに尋ねる。
「はい!僕、頑張ります!」
フェンは可愛らしい笑顔で精一杯答える。
こうして、当家に男の子のメイドが爆誕した。
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