第28話 メイドなおかん

 私は飲み終えたカップをテーブルの上に置き、改めてカオリの顔を見る。


「で、新しいメイドの方はどんな感じですか?」


カオリも難しい顔をしながら、私から視線を反らし、カップを置く。


「いやぁ~ 仕事は頑張ったはるで、仕事は…」

「まぁ、ファルーの推薦で、親戚でもありますからね。無理言って前の務め先から、呼び寄せたそうですから」

「そやな。あの人の仕事ぶり見てたら、実家にいる様な安心感があるわ」


 今、こうして話をしているのは、新しく雇い入れたメイド、マニーの事である。

マニーは、サツキとメイが辞め、それに続く若いメイド達の大量退職で、立ち行かなくなった当家の為に、侍女のファルーが、先方のお屋敷に無理をお願いして、呼び寄せたのである。

 マニーはファルーと同じぐらいの年齢を重ねているだけあって、若いメイドとは異なり、効率よく働き、細かい所もよく気付き、何事にもへこたれない強い精神力を持っている。

そのことは、偶にしか目にしない私でもよく分かる。

ただ、所謂、おばさんと言う事で、あの転生者達に受け入れられるかどうかが、心配なのである。


「では、別の問題があるんでしょうか?」


「せやなぁ… 昨日あった話でもしよか…」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「えー ほな、第6回 えっ? ちゃうの? 7回目? そうなん? では、第7回転生者会議を始めたいと思います。今回もうちが司会やるけどええの? そこはええんやな」


うちは、司会の件を確認すると、今回の議題についての書類に目を通す。


「え? なに? 今回の議題、マニーさんなん? 今回も性的にどうとかとちゃうやろな? え?なんて? ババアはアウトオブ眼中やて? あほ! そんな失礼な事いいなや!」


うちはバンバンと檀上を叩く。


「あんたら、身の回りの事で世話になってるんやろ? そやのにババアとか言うたらあかんで。 えっなに? なんて? なにをぐちゃぐちゃ言うてんのやな? もうええわ、席で座って、ぐちゃぐちゃ言うとらんと、しゃっきっと立って物言い、ほら!」


うちはそう言って、ぐちゃぐちゃ言うとった奴を立たせて、ちゃんと発言するように促す。


「え、えっと…あのババアは…」


「ババアちゃう!マニーさんやろ! うちがさっき言うたやろ?」


うちが途中で言葉を遮って言い直したので、ちょっといじけながら、そいつは話をつづける。


「あの、マ、マニーさんは…その…掃除の後…本を机の上に置くんだよ…」


「あんたらが、ちらかしてるから、ちゃんと本を机の上に置いてくれてるんとちゃうんか?」


あいつらが、片付けできんと部屋散らかしているんは、容易に想像できるから、うちはつっこみを入れてやる。


「ちげーよ! ちゃんと…ちゃんと…そのベッドの… ベッドの下にしまってたんだよ!」


こいつは下手な言い訳しよるな。


「ベッドの下においとるって、それしまってる言わへんやろ。ほら、マニーさんも片付けする時に、その辺おいとるって思て、ちゃんと机の上おくやろ!」


「いや…それは…」


「なに自分が始末悪いのを、人のせいにしとるんやな。そんなん言うとったらあかんで」


うちの言葉に男がぽつりぽつりとなんかいいよる。


「その…大切な資料だから… 日の当たる所に置かれると…困るんだよ… その…日に焼けたりするから…」


「そないに大事なもんやったら、余計にちゃんと本棚に入れて、大事にせなあかんやろ?」


うちがそう言うと、他の男がぼやきよる。


「くっそ!くっそ!」


なんか悔しそうにしとる。


「なにがくそやねん。なんか文句あるんか? 言うてみ? ほら? 言うてみ?」


うちがそう促しても、目を反らして、立ち寄らん。


「いや…その…」


「ないんかいな。ないんやったら文句いいな。 そもそもやで、あんたら脱いだら脱ぎっぱなし、食べたら食べっぱなし、読んだら読みっぱなしで、後片づけせいへんやろ? あかんで」


あいつら、目をそらして押し黙りよる。


「そもそも、あんたらおっさんやろ?子供みたいなことしとったらあかん」


うちはそう言うて、みんなの様子を窺う。


「マニーさんもぼやいたはったで、あんたらの部屋のティッシュの減りが早いって、言うたはったで。あんたら何ぎょうさんティッシュ使ってんやな、ティッシュもお金かかってんやで、無駄遣いしたらあかんでって、なに? なにあんたら下むいてんの? ん?なんや? どないしたん? なんか特別な理由があるんか? あるんやったら、うちに言うてみ、ちゃんとマニーさんに言うてあげるで、ほら、理由があるんやろ? うちに言うてみ?」


うちは手前におった男の顔を覗き込むように尋ねる。


「お、お、俺に聞くなぁぁ!!」


そいつはぷるぷると震えて汗流しながら、顔反らして叫びよる。


「お前!わざとだろ!!! 絶対! わざとやってるだろ!!」


別の男が顔真っ赤にして叫んどる。


「なにがわざとやな! うちが心配して聞いてやっとんのに、なに切れてるんやな」


「くっそ!くっそ!」


「まぁ、ええわ、ティッシュの事は、うちからマニーさんに、やむにやまれん理由があるって言うとくから、あんたらもマニーさんに文句たれたらあかんで、ええな?」


 男たちが押し黙ったまま、項垂れた。


うちはそれを了承としてとらえた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「というわけなんや」


「……」


「はぁ」


私は、カオリの説明内容がいまいち分からず、生返事で答えた。


「まぁ、なんかあいつらぐちゃぐちゃ言うとったけど、自分らの始末が悪いということで、マニーさんには問題ない」


「私としても、そう言う事でしたら特に言う事はありません。チリ紙の件にしても消耗品の事ですし、大した金額にはならないので特に問題ありませんよ」


「……」


「そうか、それならええんや。で、なんでさっきからセクレタはん、黙ってんの?」


「…私に聞かないでくれる…」


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