第25話 金髪のトド
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は机の上に倒れ伏し、長い、ながぁーい溜め息をしていた。
「マールはん、また、肺活量の検査かいな」
「もう、肺活量検査でいいですよ…」
「いや、そこは突っ込んでもらわんと…」
サツキの事件の後、堰を切ったかのように、若いメイドが辞めていき、当家は完全に人手不足となっていた。
という訳で、私とセクレタさんとカオリの三人は昼食の場で話し合いを行っていた。
「もう、反論する気力もありませんよ」
「確かになぁ、だいぶ減ったもんなぁ~」
カオリが室内を見渡しても、メイドの姿は無く、転生者達が黙々と食事をとっていた。
そこに補充のトレイを持ったアメシャが現れる。
アメシャの姿を見つけると、転生者達は自分のプレートを持って、ぞろぞろとアメシャの所に向かっていく。
最初は食品目的かと思ったが、やはり撫でポもするらしい。
「あいつら懲りてへんな」
「でも、すごいですよ! 撫でポを全てかわしていますよ!」
アメシャは補充の仕事もしている最中でも繰り出される撫でポを、頭を傾けたり、回ったり、しゃがんだりしながら華麗にかわす。
「なんか、カンフー映画みたいになっとるな」
アメシャは補充の仕事が終わると、トレイを持ってとことこと帰っていく。
撫でポをすることが出来なかった転生者達は、舌打ちをして補充された食品だけを持って、自分の席に戻る。
「かわしてはおるけど、あのままやったら大変やで。なんとかしてメイドさん増やさなあかんな」
「そうはいっても、噂が広まってしまったようで、辺りの人は誰も募集には応じてくれないんですよ」
「だからといって、給金を増やしてたら、ここに残っている人達も増やさないといけないし、財政的にも厳しいかしら…」
セクレタさんが困り顔でいう。
「そやったら、また獣人とか増やしたら… そや!エルフとかおらんの?」
「エルフですか? いますよ」
私の返答にカオリが瞳を輝かせる。
食事をしている転生者達もピクリと反応する。
「いるん! うち、一遍見てみたいねん!」
「確かに珍しい存在ですけど、そんなに見たいんですか?」
「そりゃ見たいで! 耳が長くて、髪も綺麗で別嬪でさんで」
「確かに綺麗ですね。髪の毛もキラキラですよ」
私の言葉に転生者達が顔をあげる。どうやら私達の話に耳を傾けているようだ。
「あと、寿命が長くて、魔法もうまい」
「ん?」
私は違和感を感じる。
「え?こっちはちゃうの?」
「んー 長い人もいるようですが、私達、人間と変わらない人もいます。あと、魔法は…ちょっと上手な程度でそこまででもなかったような…」
確か、帝都にいたエルフは、見た目と同じ歳を取っていた。
また、エルフが魔法が上手いと言う噂も聞かなかった。
「え~そんなん?水とか風の精霊とか上手に使うイメージやったけど…」
「あっ、精霊ですか?んー 精霊魔法というよりも精霊信仰って感じですね」
「精霊魔法と精霊信仰とは、またちゃうの?」
「そのあたりは私が説明した方がよいかしら」
カオリの問いにセクレタさんが答える。
「精霊魔法は身近にある、水や火などの自然現象に干渉する魔法なの。例えば」
セクレタさんはそういうと、コップの水に視線をむける。
するとコップの水の一部が、水玉となって宙に浮き、ふわふわとセクレタさんの顔の前に漂っていく。
それを最後にパクっと飲み込む。
「こんな感じね。周りに存在するものしか扱えず、力量によって扱える量も異なるわ」
セクレタさんの精霊魔法にカオリは感嘆の声をあげる。
「次に精霊信仰だけど、エルフたちは自分たちの暮らしている、森そのものを信仰の対象として祈りを捧げているの」
「森を傷つけるもんは、許さんとかそんな感じ」
「そうねそんな感じよ。だから彼らは開墾して農業は行わないわね。食生活は採取生活で木の実や野草をとっているわ」
「やっぱり狩りとかして肉たべてないの?」
そういって、カオリは自分の食事の肉を眺める。
「森に住む獣も、森に暮らす仲間と見なしているからそうね」
「なんか、貧相な食生活してそうやな」
「えぇ、だから森での彼らは華奢な体型をしているわね」
ん?っとカオリは何かに気が付く。
「森ではという言い方やと、森以外では違うの?」
「よく気が付いたわね。森の食生活に飽きたエルフが、外の食生活にあこがれて、人里にすみつくのだけど、質素になれた吸収効率の良い体質と、人里の食事を食べ過ぎるせいで… 人里で見るエルフは殆ど太っているわね…それもかなり」
セクレタの言葉にカオリが固まる。
「うそやろ… うちの中のエルフのイメージが… 揚げドーナツ食べとるアメリカンみたいなのと置き換わっていく…」
この話を聞いていた転生者達も、失望の顔をしていく。
「そういう事で、エルフをメイドで雇うのはかなり厳しいと思います。太っているから身体
動かす仕事に向いていないんですよ」
私が補足の説明をする。
「あぁ、イメージがさらに悪くなってく… なんかトドみたいに横たわって、ピザ食べてる姿に… 口調も相撲取りみたいにごっちゃんですとか言いそう…」
項垂れるカオリであったが、私の方に向き直る。
「森でちょくに雇うのはどうなん? 森のエルフやったら痩せとるんやろ?」
「確かに森のエルフは痩せていますけど、雇うのはもっと難しいと思いますよ」
「なんでなん?やっぱり誇り高いからとか?」
「どちらかと言うと、信仰とか社会体制の問題ですね」
「詳しく教えてもらえる?」
私は本で読んだ事や、学院で学んだ事を話し出す。
「エルフは信仰による教義で、森から離れる生活を否定しているんです。また、森の中の限られた食料資源の為、厳しい産児制限をかけていて、近年の森を出るはぐれエルフの事もあり、慢性的な人で不足なんですよ」
「うわ~ 平和で博愛的な生活していると思たけど、実際は厳しい生活してるんやな…」
「はい、そうですね。だから、森からエルフを雇うのは、厳しいというか無理ですね」
私の言葉にカオリは残念そうに溜息をつく。
「残念やわ~ せっかく異世界きたのにエルフ見れへんのは…」
残念そうなカオリの姿を見て、私は少し考える。
「なんでしたら、募集かけてみましょうか?」
「ほんま⁉ ほんまに!」
カオリは瞳をキラキラさせ、私の方に身を乗り出す。
すごい嬉しそうだ。転生者達も同様である。
ほんとカオリさんを含め、転生者達はエルフが好きなようだ。
「でも、応募が来なかったり、細いのが来るのか、太いのが来るのかは、保証できませんよ?」
「うんうん、会えるチャンスがあるなら、それでええよ」
「分かりました。出来るだけ期待に添えるように努力します」
私は笑顔で答えた。
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