第21話 猫耳メイドの登場にゃん☆ミ
「えっと、ようやくメイドの募集に来てくれたのですが…大丈夫ですかね?」
「えぇ、こちらとしても我儘はいってられないし、あの人達の要望でもあるから、大丈夫じゃないかしら?」
マールとセクレタの二人は、子供ぐらいの背丈の獣人を前に言葉を交わす。
それに合わせて獣人の頭の寝耳がピクピク動く。
「あの人達の好みの事もありますが、メイドとしての仕事もできますか?」
「どう?貴方ちゃんと出来るかしら?」
セクレタの問いにピクピクしていた耳がピンっと伸び、肉球のついてた手がシャキっとあがる。
「アメシャ、頑張るにゃん!」
獣人のアメシャは直立不動で答えるが、無意識の気持ちは抑えられないのか、しっぽが嬉しそうにフリフリ動く。
それもそのはず、低賃金で雑用しかさせてもらえない獣人にとっては、メイドの仕事とは高嶺の花であり、嬉しくない訳がない。
その姿にマールとセクレタは自然と笑みがこぼれる。
「ふふ、いい子ね」
そこに扉がノックされ、カオリの姿が現れる。
「マールはん。来たで。なんのようって、何⁉このこ!めっちゃかわええやん!!」
カオリはアメシャの所に駆け寄り、色々な角度からアメシャの姿を舐めまわすように見回す。
「そのこは新しいメイドのアメシャです」
浮かれるカオリにマールがアメシャを紹介する。
「アメシャですにゃ!」
小柄なアメシャがカオリにシャキっと挨拶する。
「いや~ん、ほんまめっちゃかわいいやん!うちの専属にしてくれるの~」
「いや、カオリさんの専属というわけでは無いので…」
カオリの反応にマールは少し気圧される。
「えぇ~そうなん~残念やわぁ~ なぁアメシャちゃん。うちカオリっていうねん。よろしゅうなぁ~」
「よろしくですにゃん。カオリさにゃ!」
「あ~も~喋り方もかわいいやなんで。うち、我慢できひんわ。アメシャちゃん!はぐぅぅ!」
「にゃ~!!」
カオリにいきなりハグされたアメシャは声を上げるが、しっぽは嬉しそうにぱたぱた揺れる。
「いや、なに⁉ 肉球もぷにぷにや~ん。もう、うちどないしよ~」
もはやカオリはアメシャにでれでれである。
「ミズハラのこの様子だったら、あの人達にいけに…メイドとして受け入れられそうね」
「いけに? とにかく、この様子でしたらカオリさんにお願いするのがいいですね」
「そうね。それがいいわね」
「うちになにさせたいん?」
カオリはアメシャに頬擦りして頭を撫でながら尋ねた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
うちはアメシャちゃんを連れて、あいつらのいる豆腐寮に向けてあるく。
小柄で小さな歩幅で、ちょこちょこ歩く姿はほんまかわいい。
「メイドの仕事ができて、ほんと嬉しいにゃん」
「なんで、そんなに嬉しいん?」
「アメシャたち獣人は、毛の事だったり、不器用と思われいるかにゃな、給金の安い仕事しかさせてもらえないにゃ」
「アメシャちゃんも大変なんやなぁ~」
「だからここで働けるのはうれしいにゃ!!」
アメシャちゃんは小さな手をあげて、子供のように喜んどる。
でも、うちはその挙げられた手を見てきがついた。
「そやけど、その手やったら仕事しずらくない?」
アメシャちゃんの手を見ると、丸い毛玉の淵に小さく指が付いているようにしか見えへん。
「アメシャちゃん。ちゃんと道具とか持てるか?」
「大丈夫にゃ、カオリさにゃ。そこがアメシャたちの誤解されている所にゃ」
そういって、アメシャちゃんは手袋を取り出し、手にはめる。
すると、すぽっとはめた手のひらにはちゃんとした指が見えた。
指先にちゃんと爪出す穴が空いてるのがポイントや。
「へぇー、毛に埋もれてるだけで、ちゃんと指の長さあるんやな」
うちは手袋をはめてない方の手をわしわしと触り、毛に埋もれた指を確かめた。
「だから、お仕事ちゃんとできるにゃ!頑張るにゃ!」
「アメシャちゃんはほんまええこやねぇ~ほんまかわいいわ」
「にゃん!」
アメシャちゃんは微笑んで答えた。
そうこうしとるうちに、うちらは豆腐寮の前まで来とった。
「ここがアメシャちゃんの働く場所やで、中に先輩のメイドさんもおるから、その人に仕事教えてもらうんや」
「はいにゃん!」
可愛く答えるアメシャちゃんを連れて階段を昇り、うちらは豆腐寮の中へ入っていく。
すると扉を開けたとたん、例の猪石鹸の臭いがする。
うちは出来るだけ口で息をする。
よう考えたら、マールはんとセクレタはんが、うちにアメシャちゃんの案内任せたんは、これのせいやなと…
「カオリさにゃ。ここ猪の臭いがするにゃ」
「せやな、臭いけど、堪忍やで」
しかし、臭い事やけど、男臭さと猪石鹸の臭いが混じって、そのうち野獣の臭いになるかもしれん。
早いうちに、なんとかせんとアメシャちゃんや、ここで働くメイドさんも大変や
「カオリさにゃ」
「なんや?」
うちが考えてるところに、アメシャちゃんが声をかけてくる。
「ここの壁、至る所に手の跡がいっぱいついてるにゃ。どうしてにゃ?」
アメシャちゃんの言うように、ここの壁には呪いの館か心霊屋敷みたいに、壁一面、至るところに手形がついとる。
というても、呪いや心霊現象でもなんでもない。
「それはやな…」
うちがそう言いかけた時、通路の先に転生者とメイドさんの姿がみえる。
『ドン!!』
転生者が壁に手を付き、メイドさんの行く手を塞ぐ。
そして、覆いかぶさるように近づく。
「サツキちゃんは、今日も可愛いねぇ~」
そういって男は、空いてる手でサツキちゃんに撫でポを繰り出す。
「や、やめてください! 仕事の途中ですので!」
「ふっ そんな事いいながら、君のハートは僕の魅力で鷲掴みだろ?」
『ドンドンドン!』
そこへ部屋の中から壁を叩く音が鳴り響く。
「うるせー! 静かにしろ! 後、サツキちゃんはお前のもんじゃねぇーから!」
声も部屋の中から鳴り響く。
「アメシャちゃん。壁の手形はあの『ダブル壁ドン』のせいや…」
「わかったにゃ。ここの人は面白いにゃん」
事の次第を見守ってたけど、そろそろサツキちゃんを助けたらなあかん。
「ちょっと、あんた! ええ加減にしぃーや! サツキちゃん困っとるやろ!」
うちの声に気が付いたサツキちゃんは、うちの所に逃げてくる。
男はチっと舌打ちしよる。
「あんた。そんなに鷲掴みが好きやったら。うちがあんたの心臓、鷲掴みにして、そのまま握りつぶしたろか?」
うちの言葉に男は気圧されて去ってく。
「ありがとうございます!カオリ様!」
サツキちゃんは勢いよくお辞儀をする。
その頭は、撫でポされ過ぎて滅茶苦茶になっとった。
しかも、よく見たら頭皮の地肌がすこし見えるところがある。
「いやいや、かまへんよ。それより今日は新しいメイドさんをつれてきたんや」
「アメシャにゃ!よろしくにゃ!」
「こちらこそ、よろしくです」
そういって微笑むサツキちゃんの顔は、生気がなくやつれとった..
サツキちゃん…もう持たへんかもしれんな…
その後、アメシャちゃんをあいつらに紹介するために、皆で寮の広間に集まった。
「アメシャですにゃ!よろしくですにゃ!」
アメシャちゃんは子供がするみたいに勢いつけてお辞儀をする。
ほんまかわええな~
「新人のアメシャちゃんや。いけずとかしたらあかんで」
「…」
「…」
うちが紹介しとるのに、あつら押し黙っとる。
「アメシャちゃん、ちゃんと挨拶しとるのに、なんで返事せーへんの?」
「…いや…その…よろしく…」
難しい顔した一人がぽつりと返す。
「なんなん?その態度は。 あんたらの要望しとった獣人のこやで」
「まぁ…獣人だな…」
「ちゃんと、あんたらの好きな猫耳もついとるで。しっぽも」
「あぁ…猫耳だな…うん、俺、猫耳大好きだ…」
「そやのに、なんでそないに微妙な態度してんの?」
「だって…」
「だって、なんやねん」
「だって、アメシャちゃん。直立した猫そのものじゃん」
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