第20話 たたたん♪たた~たたん♪た たた~たたん♪たんたんたん♪

「はぁ~期待していたものの、あてが外れると、その後の落胆が大きいですよね…まぁ、最初からあまり期待していませんでしたが」

「でも彼らなりに歩み寄ってきたのだから、その点だけは認めてあげないとね」

「まぁ、そうですね。何か機会があれば役立つかもしれませんし」


マールとセクレタの二人は仕事に一区切りがついたので、執務室でお茶をしていた。


「話は変わりますが、帝都の件も気が進みませんね…」

「あら、今朝来ていた爵位の本継承の事?またどうして?」


マールの言葉にセクレタは少し首をかしげる。


「一か月後と言う事ですが…」

「まだまだ先だから、落ち着いて臨めばいいんじゃないかしら」

「私の事じゃなくて、あの人達の事ですよ。一か月先でも落ち着いている未来が見えなくて…」

「…確かにそうね…」

「そんな状態で往復二週間も出かけたら…帰って来た時には私の席どころか館ごと無くなってそうで…」


セクレタは静かにカップを置き、窓の外の青く晴れた大空を眺める。


「その時は二人で旅をするのもいいわね…ほら、空はあんなに広いわ」

「いやいや、そんな事言わないで下さいよ」

「ふふ、冗談よ。朝食を食べていないのに夕食の心配をしても仕方ないでしょ?」


セクレタはマールに向き直るとふふと笑う。


「まぁ、そうですけど…」


その時に扉がノックされ、カオリの姿が現れる。


「あら、カオリさん。どうしたんですか?」

「ミズハラさんもお茶どうかしら?」

「いや、うちはええわ」


カオリは手を振って断る。


「それより、うち報告があってきてん」

「報…告?」


マールはごくりと唾を飲み込む。


「あいつらの巨大丸太小屋が巨大豆腐になってるみたいやねん」

「「豆腐?」」


マールとセクレタの声が重なった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 マール、セクレタ、カオリの三人は館の玄関の外にいた。

そこには昨日まで丸太の外壁で、館を覆いかぶさるように圧迫していた巨大丸太小屋が、白く平坦な外壁となった長方形の立方体になっていた。


「な?巨大な丸太小屋が巨大な豆腐になっとるやろ?」

「豆腐って、真っ白な立方体って意味だったんですね…」

「これで悪目立ちはしなくなったけど…」


巨大豆腐を見上げていたマールは確かめる為、ゆっくりと豆腐へ足を進める。


「これ…漆喰ですよね」


マールが白い外壁に手を振れる。


「この前の猟友会の請求があるから、発注は差し止めたはずだけど」

「あの人たち…また、やらかしてくれたんですかね…」

「分からないわ。まぁ、圧迫感のあった空間が小マシになったけど」

「確かに、これでもう悪目立ちの心配はありませんが…」


すると、中から出てきて、二人の会話に気付いた転生者がメロディーを口ずさみながら近づいてくる。


「たんたん♪たんたん♪たんたん♪た~♪」

「ちゃらん♪」


別の転生者が同様に近づいてくる。


「たた、たんたん♪たんたん♪たんたん♪た~♪」

「ちゃらん♪ちゃら~♪」


気が付けば多くの転生者がメロディーを口ずさみながらやってくる。


「んたーん♪たーん♪たーん♪たーん♪」

「んたーん♪たーん♪たーん♪たーん♪」

「たた…」


「BGMはええって」


私の後ろからのカオリの声だ。


「えーこれからがサビの良い所なのに」


何故だか転生者達が悔しがる。


「何の曲なんですか?」

「えぇっと、うちらの世界のこんな時の定番の曲なんや」

「はぁ、そうなんですか。カオリさんの世界はほんと奇妙な風習がありますね」


カオリの説明にマールは少し呆れる。


「それより、これ、どうしたんですか?」


マールは転生者に向き直り尋ねる。


「丸太のままでは、雨風はいってくるから。隙間を防ごうと」

「いや、それ丸太の段階で分かることですよね? 製材して、木材にしてから作れば、隙間もなくなるし、使う木材の使用量も削減できるから、森林が消える事もなかったんですよね… あの、カオリさん。羽交い締めはいいですから」


カオリは両腕をさげる。


「いや、その件に関してはすまない事をした。マールたん」


転生者たちは珍しく申し訳なさそうにする。

マールはその態度に少し溜飲を下げる。


「なんだか現代知識品評会の時から妙に素直ね」


セクレタが少し気味悪るがる。


「それより、マールたん。中もいい感じなんだ。見てみるかね?」

「えっ?んー では、少しだけ」


マールは転生者達に促され、スカートの端を少し摘まんで階段を昇り、元巨大丸太小屋の中へ進む。

案内された中は以前の丸太剥き出しの小屋の装いではなく、白い土壁が塗られたちゃんとした住居になっていた。


「へぇーすごいじゃないですか」

「あんたらにしてはマシなもん作るな」

「そうね、中までちゃんと漆喰ぬっているのね。山小屋みたいな野暮ったさが消えているわ」


階段を昇ってきたこの場所は、ちょうど馬車の通り道の上にあり、長椅子やテーブルが置いてある広間になっていた。

しかし、中は少し臭う。そう先日の猪ニンニク石鹸の臭いだ。

マールは出来るだけ口で息をする。


「そうです。忘れかけていましたけど、この漆喰どうしたんですか?」

「これだけ巨大な建物に中まで塗っていたら、相当な量になるわね」

「また…やらかしたんじゃないでしょうね?」

「勝手に注文したりしてへんよな?」


マールたちの疑りの言葉に、転生者はぎこちない態度で否定する。


「いやいや、してないしてない。現地調達しただけだ」

「現地調達?」


マールの頭に丸太の時の事が過る。


「魔法を撃ちまくった森林の跡地に、なんだったかな?そう!石灰岩というのがあったみたいで」

「あら、石灰岩が見つかったの?」

「あぁ、俺たちの中でそういうのに詳しい奴がいて、それを跡地の灰とかを混ぜて作った。後は作った漆喰を塗っていって、水魔法で水分を抜いたり、風魔法と火魔法で温風を作ったりして乾かした」

「へぇーそのへんの岩から、そんなことできるんや」


転生者の説明にカオリが少し感心する。


「元々森林だった事はともかく、跡地から出てきた材料を使っただけなので、私は誰にもお金を払わなくてよいと?」

「あの土地がマールたんのものということであれば」


転生者が答える。


「あーよかった。これだけの量だから、また凄い金額を支払うのかと恐れていたんですよ」


マールが胸を撫でおろす。


「マールはん。よかったな。また、あははのはのお花畑の少女にならんで」

「なにそれ。滅茶苦茶みたい」


カオリの言葉に転生者達が鼻息を荒くする。


「もぉ~やめて下さいよ。あの時は仕方なかったんですよ」

「あはは、ほっぺた膨らすマールはんもかわええな」


「ところでちょっといいかしら?」


カオリとマールが和んでいるところに、セクレタが転生者達に声をかける。


「はい。なんでしょう?」

「その石灰岩はまだあるのかしら?」

「えぇ、まだまだ一杯あったので、次は何を作ろうかと言ってたぐらいです」


その返事にセクレタが少し微笑む。


「これはいい事を聞いたわ…」


セクレタはそう呟いた



その後、この巨大な白い建築物は『豆腐寮』と呼ばれるようになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇

※サブタイトルの鼻歌メロディーがあっているかどうか自信がないです。

間違っているよ、正解はこうだよと思う方は、コメント、ご感想をお願いします。

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