第17話 駄目だこの人たち…なんともならない…

 大会議室での騒動の後、転生者の監視はセクレタに引き継がれ、場所は館の敷地の外、門を出て道を挟んだ反対側に来ていた。

遠くには、転生者達が巨大丸太小屋建築の為、木々を伐採したかつて森林の跡地がある。

そこにいくつかの弓矢の的が設置されていた。


「え~とりあえず、魔法の適正検査については協議中ですので、先に弓の適正検査を行います」

「とりあえず、弓がちゃんと使える程度を見るだけなので…無理せずに…本当に無理せずに行ってください」


猟友会の方々が説明する。

転生者達は各々弓を手に取り、その感触を確かめる。


「やはり、こういうもの実際手に取ると、異世界を実感できるな」

「本当は剣がいいんだが…まぁ弓でもいいか」

「弓か…暗殺にはもってこいだな」


満更でもない顔をしている。


「では、始めて貰えますか」


担当の合図に転生者の一人がピシッ!と矢を射る。

矢はスコンと的に刺さる。


「おぉ、初めてにしては上手いね。合格ですよ」


矢の命中に担当者が感嘆の声を上げ、命中した転生者の受付書類に合格の判を押す。

その様子を見て、次の転生者がギリギリと力強く弓を引き絞る。

放たれた矢は先程の転生者のものより力強い音をたて、的に深々と刺さる。


「ふっ、ちょっと軽く引いただけだが、威力が大きくなってしまったようだな」


その言葉に順番待ちの転生者が唇を引き締める。


ギリギリギリ…プチン!


次の転生者の引き絞った弓の弦が千切れる。


「やれやれ、俺も手加減しながら引き絞ったのだが、弦が俺の力に耐えきれなかったようだ」


その様子を見て、次の転生者が弓を引き絞る。


ギリギリギリギリ…バキッ!


今度は弓が二つに折れる。


「ふぅ、俺は空腹と寝不足で力が全くでないのだが…この弓は脆過ぎるな」

その言葉に他の転生者たちもギリギリと力強く弓を引き絞っていく。

「次に弓を壊した人には、一週間厩舎で飼い葉を食べながら過ごしてもらうから」


セクレタの声が響く。

その瞬間、弓を引き絞る転生者の動きが止まり、暫くしてから普通に矢を放つ。


パス!パス!パス!


矢は普通に命中していく。


「ふぅ、本当に困った人たちだわ…」

「やぁ~なかなか癖の強い人たちですな」


担当者の一人がセクレタの所にやってくる。


「えぇ、本当に困っているの」


そう答えるセクレタに紙切れを渡す。


「正式な書類は後で渡しますが、借りのものです」


セクレタはその紙切れに掛かれた内容を察し、内心拒否したいと思いながらも受け取る。


「あの魔法道具の金額を見た後だと、可愛らしく思える額ね」

「申し訳ないと思うのですが…」

「いいのですよ。こちらが壊したのですから」

「ご理解頂けて幸いです」


そこへ他の猟友会の人々がやってくる。


「よろしいですか?」

「なにかしら?」

「魔法の適正検査の事なんですが」


セクレタはまた魔法道具を壊されて請求される事を考える。


「あの…その検査は免除することはできないのかしら?」

「そういうことを一度でも許すと色々と問題でして」

「いやー決まりなので…」


その言葉にセクレタは小さくため息をつく。


「そうよね。私が貴方達の立場でも同じ事をいうと思うわ」


そして頭をさげる。


「勝手な事を言って、ごめんなさい」

「いえいえ、頭を下げんでください」

「そうです。我々も貴方と同じ立場なら同じ事を言うと思いますので」

「そう言って頂けると助かるわ。でも…」


セクレタは転生者達の方を見る。


「同様の方法では、また同じ事を仕出かすのではないかと心配で…」

「我々の方も、すぐに同じ検査機を用意することはできません」

「だから、別の方法を提案しに来たのですよ」

「あら、何かしら?」

「別に検査機で計らなくても、獲物を倒せるだけの魔法力がある事が分かればよいので」

「そこいらで適当に魔法を撃ってもらえれば良いです」

「ちょうど、そこに開けた場所があるので… ちょっと前には森林があったはずなんだが…」

「当方としてもそちらの方が助かります。壊れる物がないので」


セクレタはチラリと森林と巨大丸太小屋の事を考えたが、そんな事より転生者に壊される物が無い事に興味を引かれた。


「では、そう言う事で行きましょう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 弓の試験が終わった後、転生者達は元森林だった所を前に、猟友会の人員から説明を受けていた。


「えー検査機での検査ができないので、別の方法で検査を行います」

「魔法で獲物を倒せるかどうかを見ますので、目の前の開けた場所に魔法を打ち込んでください」

「それを見て合格の判断をします」


魔法を撃てると言う話を聞いて、浮つく転生者達により、すぐに試験は開始される。


「攻撃魔法が撃てることが分かればいいので、気張らんでもけっこうですよ」


しかし、担当者の言葉をよそに転生者は言葉を紡ぐ。


「地獄の底で燃え盛る闇の炎よ!我が意志、我が魔力に応じ、我が眼前を燃やし尽くせ!ヘルズファイア!!!」


激しく燃え盛る火球が撃ち出され、轟音と共に着弾地点に爆発と荒れ狂う火柱を生み出す。

それを皮切りに転生者達が競い合うように魔法を撃ち出す。


「我の内に潜みし闇の力よ! 無数の矛となりて 我が前に立ちはだかるものを穿ち尽くせ!! ダークネスデストロイドバルカン!!!」

「古代神魔解除状況確認!神魔盟約条項21条によりこの右手に宿りし古代破壊神の力を一部開放!唸れ!エターナルゴッドサンダーストーム!!!」

「いや、ちょっとでいいんだよ!ちょっとで!!」


担当者は激しい衝撃波に頭を庇いながら叫ぶが、そこ声は轟音に掻き消されて届かない。


「ちょっと、あの人達はなんで恐ろしい魔法を使っているんですか!!」


猟友会の人員が叫ぶ。


「いえ、こちらでは火球や魔玉、雷などの基本魔法しか教えていないはずだけど…」

「ではあの怪しげな呪文らしきものは!?」

「私、あの様な呪文は聞いた事も無いし、あの呪文自体から魔力も感じないから… 単なる気分を高揚させる掛け声じゃないかしら?」

「それでは…あの魔法は単なる基本攻撃魔法だと?」

「えぇ…威力は桁違いだけど基本攻撃魔法の様ね…」


セクレタと猟友会の人員は魔法の撃ち込まれている場所を見つめる。

そこは轟音が絶えず鳴り響き、爆発・業火・衝撃波・真空の竜巻など、ありとあらゆる破壊事象が顕現し、まさに地獄が地上に出現したようになっていた。

そこに貴族の少女が駆けてくる。


「セクレタさん!!」

「あら、マールちゃん」


振り返ると肩で息をしたマールの姿があった。


「一体何がどうなっているんですか!? なんでこの人達はこんな事しているんですか!!!」

「魔法の適正をみるためのものなのだけど…」

「こんなにする必要があるんですか!!」

「いえ、ないけど」

「じゃあ、どうして止めないんですか!あそこ大変な事になってますよ!!あぁ!もう火の海ですよ!!真っ赤に燃えてますよ!!ねぇ!止めないんですか!」

「…止められると思う?」


セクレタはもの静かに答え、指し示すように転生者達の方へ振りむく。


「ははは!!!どうだ!俺の魔法は!燃えろ!燃え尽きろ!!」


業火に照り返す転生者達の顔は、何かに憑りつかれた様に狂気に満ちている。

そして、よく見ればセクレタの足が小さく震えている事にも気付く。


「あの狂気に支配された者を止める術は知らないわ…私は…」


その言葉にマールは驚愕する。


「私…思い知らされたわ…私達はあんな恐ろしい人達と一緒に生活している事を…」


そういった後、セクレタはゆっくりとマールに向き直る。


「そして、あの狂気がいつ私達に向けられてもおかしくない事を…」


マールは破壊と業火が支配する地獄を見つめながら押し黙る事しか出来なかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あれ?お花摘みにいってる間に、マールはん、おらへんようになっとる。どこ行ったんやろ?」



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