第16話 また、やっちゃいました?わざとでしょ!

「猟友会の皆さん驚いていましたよね」

「そうね。同じ髪形の人間が100人いるからね。驚かない方がないわ」


食後に私とセクレタさんは執務室で仕事をしている。


「午前中に急ぎの仕事は済ませてしまいましょう」

「午後から用事でもあるんですか?」


私の言葉にセクレタさんがこちらを向く。


「あの人達を監視しなくても大丈夫なの?」

「急いで仕事を終わらせます!!」


仕事といっても領地の帳簿との睨めっこである。

穀物相場の低迷。

穀物取引の補填のあてにしていた木材用森林の喪失。

昨日の密猟の賠償。

今日の狩猟免許取得の経費。

よくもまぁ、僅か二日でこれだけの出費を出してくれたものだ。


「セクレタさん」

「なにかしら?」

「よくある話で、放蕩息子とか酒乱男とかが家に帰ってきて金目のものを探してお金にするのってあるじゃないですか。このままじゃ私も家の中から金目のものを探さないとダメですかね…」

「難しいんじゃないかしら?普通の貴族は何か時の為に宝石や貴金属を買い貯めるのだけど、貴方のお母さんのエミリーは余分なお金があるなら、ここで働いている領民に還元する人だったから、あまり換金出来るものはないと思うわよ」

「ですよね…まぁ、いざという時になったらの話です」

「そうね、そうならない事を祈るしかないわね…」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そうこうしているうちに適正検査の時間になった。

大会議室上座の檀上には猟友会の皆さんがあつまり、魔法道具を持ち込んで検査体制を整える。

私はセクレタさんと共に検査の邪魔にならないように上座の端の方に座る。


「それでは狩猟免許の適正検査を執り行います。検査といっても難しい事もしませんし、高い数値を出さないといけない事もありません。ただ野生動物を倒せるだけの魔法力、又は武器を使った攻撃力などを調べるだけです」

「この狩猟免許は単なる適法に獣を狩れるという訳でなく、害獣駆除の依頼にも使われます」

「そう言った訳で取得していると何かと便利ですので皆さん頑張ってください」


猟友会の方々の言葉に転生者達が騒めく。


「害獣駆除!クエストか⁉」

「つまり、冒険者ギルドのギルドカードの様なものか…」

「ついに念願の第一歩となるのか」


皆、妙に楽しそうだ。もしかしたら、害獣駆除業者として働き口かあるかもしれない。

早々に独立又は就職してもらえたら我が家の財政は安定する。


「皆さん!頑張って免許取得してくださいね!」


私は応援の声を送った。


「ふっ、メインヒロインからの期待…攻略のイベントフラグか」

「最強の俺様の姿を見たいようだな」

「やれやれ、あまり目立ちたくはないのだが」

「兵器としての適正を見るつもりが!腹黒め!」


なんだか私の意図が伝わっていない気がするが、やる気はあるようだ。


「ではみなさん。受付書類を持って並んで頂けますか」


その言葉に転生者達は書類をもって、上座の受付にぞろぞろと並んでいく。

一番先頭にはカオリの姿があった。


「ほな、よろしゅう頼みます」


カオリは書類を渡す。


「じゃあ、お嬢ちゃん。この水晶に手をかざして魔法を込めてくれるかな?」


カオリは言われた通りに水晶に手を当て、力を込めていく。


「はい。いいですよ。合格です」

「えっもうええの?まだ力入れたばっかしやで?」

「あはは、嬢ちゃん余裕だね。一般人でも合格できる一定量の魔力があるかどうかの検査だから、力を出し切らなくても大丈夫だよ」


受付の人はぽんと合格の判を書類の上に押す。


「全員が終わったら、次の検査があるからそれまで待っててくれるかな」

「分かりました。おおきに」


カオリは書類を受け取り、私の姿を見つけるとこちらに向かってくる。


「お疲れ様です。カオリさん」

「うちも免許とれそうやな」


カオリは椅子を持ってきて、私の隣に腰掛ける。

その間に次の転生者が適正検査を受ける。


「やれやれ、あまり目立ちたくないのだが」


そういって、涼しい顔をして水晶に手を当て力を込めはじめる。


「はい、いいよ。合格です」


受付の人は水晶につながれた金属部品が一定値を超えたので声をかける。

しかし、転生者はそれでも魔力を送り続ける。


「いや、もういいから!もういいから!」


その言葉に転生者は涼しい顔を装いながら、気付かれないように米神に青筋をたてる。

その瞬間、パリンと大きな音をたて、こなごなに砕ける。


「またオレ何かやっちゃいました?」


転生者はやれやれと言った感じでへらへら言う。


「やっちゃいました?じゃないでしょ!!」


私は立ち上がり転生者に叫ぶ。


「いや、俺自身は軽くやったつもりだけど、俺の魔力が強すぎたようだ」

「おじさんがもういいって言ってましたよね!!!その後力こめてましたよね!!!」

「無意識の力だから、仕方ないよ」

「何が無意識ですか!!!私、貴方がこめかみに青筋たてている所みているんですよ!!!」


私は平静を装う転生者を指差して猛烈に批難した。

すると転生者は目を泳がせた後、私から目をそらす。


「あっ!!、今、目を反らしましたよね!!反らせましたよね!!!」


その後ろでカオリとセクレタの二人が言葉をかわす。


「これ、あかん。またマールはんが倒れるパターンのやつや」

「そうね。まずいわよね」


「マールはん」

「あっ!カオリさん!カオリさんも見ましたよね!!!あの人目を反らせましたよ!わざとですよ!!わざと!!」

「うんうん、そやね。うちが後でよう叱っとくから、マールはんはあっちでミルクでも飲もか」

「えっ!?カオリさん?なんで私を羽交い締めにするんですか!?それよりあの人!!あの人わざとやったんですよ!!! こめかみに青筋たててたんですよ!! 私が言ったら目を反らせたんですよ!! あっ どこつれていくんですか! ちょっと私はあの人に言わなくちゃいけないんです!! ねぇ!! カオリさん? あの人!! あの人わざとなんですよぉぉ!!」


マールは会場からカオリに引きずられて行き、徐々にマールの叫びは小さくなり、最後には静まり返った沈黙だけが残る。問題の転生者は気まずそうに俯く。


「ふぅ、困ったわね…」


セクレタはため息をする。

猟友会の人がセクレタの所に向かってくる。


「やはり、弁償になるのかしら?」

「えぇ、高価な魔法道具なので…」

「お幾らぐらいになるのかしら」

「専用の検査器具ですから、これぐらいかと」


猟友会の人は手で金額を示す。

セクレタははぁっと息を飲み、そのまま大きな溜め息をする。


「本当に困ったわ…」

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