第08話 朝食一般公開席
朝、朝食の時間。私は昨日の大会議室上座で食事を採っていた。その目の前には多くの異世界人達が私に注目しながら同じく食事をしている。
学院時代の私は目立つことが好きではないので食堂の隅で食事をしていた。だから、この様にさらし者になりながら食事をするのは初めてだ。
何故このような状況になっているかというと、私達と異世界人達で出来るだけ交流の機会を増やす為だ。
しかし、自分が言い出した事ではあるが、この状況は食べづらく中々食事が喉を通らない。
会議室を様子を見ていると、いくつかある出入口からポツポツと異世界人達が入って来て、きょろきょろ辺りを見渡す。壁際の食事の並べられている場所を見つけ、食事を載せるプレート等を手に取り、暫くパンなど食品を眺めた後自分のプレートに載せていく。
で、ここからが奇妙な事がはじまる。
皆空いている座席を探す為、会議室を見渡す途中で、上座に座る私の姿を見つけると、必ずと言っていいほど私の所にやってくる。
「おはようございます」
私は挨拶をするが相手の視線は私の顔ではなく、私の朝食を見ているようだ。
そして、やれやれと仕草をして自分の席を探す。
「おはようございます」
次の人に挨拶する。また私の朝食を見ると、ふっと鼻で笑ってどこかに去っていく。
「おはようございます」
また私の朝食を見てこの程度かという見下したような顔で去っていく。
「おはようございます」
挨拶する。でも今回の人は私の朝食を見ず、微笑を浮かべたまま私を見つめたまま立ち去ろうとはしない。
『えっ?何だろう?これは?』
「おはようございます」
私は挨拶が聞こえなかったのかと思い、もう一度笑顔で挨拶をする。すると何か満足をしたかのように立ち去った。
ほんと訳が分からない。はぁとため息をついた私に人の影がかかる。
どうやら次の人が来たようだ。
「おはようごっ!ご、ごごご」
挨拶しようとした私の前には、殺意の瞳を宿した異世界人が私を見下ろしていた。
「ひぃ!」
私は小さな悲鳴を上げたあと身動ぐ。
殺意の異世界人は私を見下ろしたまま口を動かす。
どうやら声に出さずしゃっべっているようだ。
『お ま え を ゆ る さ な い』
最後にきっと睨んで立ち去る。
お前をゆるさないって、何を許さないですか⁉
私、貴方に何かしましたか⁉
怖い。怖すぎます…
「マールさん。おはよーさん」
震えている私に声が掛かる。声の先を見るとミズハラがいた。
「あっ、おはよーさんじゃなくて…お、おはようございますっす! 何か考え事しているみたいっすから。他のいきますね」
「いえいえ!遠慮なんてなさらずに私の隣へおどうぞどうぞ!」
私は隣の席を手でたたく。
「え、えっ? いや、偉い人の隣にやなんて… ほんま… いや、本当にいいんっすか?」
「そんなことは気になさらずとも結構です。気さくにささ」
あぁ、意思が通じるって素晴らしい!会話が成立するって素晴らしい!
「えーっと、ほなおおきに。遠慮せんと、よっこいしょっと」
こうして思うと昨日の交渉や説明会、今の彼女との会話の成立は奇跡とよんでいいのだろう。
「しかし、マールはん。なんかあったみたいやけど。どないしはーたん?」
「いえ、この世界と貴方が居た異世界の間で、意思疎通・会話・交流にこんなに大きな隔たりがあるとは思いませんでしたよ…」
「えーそんなあらへんよ。向こうもこっちも同じようなもんやで あっこのパン全粒粉や」
ミズハラはパンをひと千切りして口に入れもぐもぐする。
「でも、先程も挨拶してもやれやれって感じで立ち去っていったり、
ふっと鼻で笑ったり、この程度かって態度されたり、
意味の分からない笑顔をずっと向けられたり…
最後には殺意を向けてお前を許さないとかって…
本当に何が何だか分かりませんよ…」
「あ~ あの人らアレやからなぁ~ やっぱりこっちのスープ薄味やな」
「アレって何ですか?」
私は首を傾げて尋ねる。
「アレっていうのはアレやねん。えーっと、なんていうか昨日の晩もそやったけど、なんか色々なもんを拗らせているっていうか… アレとしかいいようがないねん。マールはんもそのうちそのうち分かるわ」
「はぁ…」
私は理解できず、一言で答える。
「まぁ、あいつらがアレなだけやから、ほんとはちゃんと会話通じるで」
「そういえば、国も世界も異なる私とミズハラさんも言葉と会話通じていますよね」
「あーそれはやな~ 私らがこっちに来るときに神様的なもんがなんかかぁー!って言葉通じるようにしてくれたんやと思うで。多分…」
神様的なもんってなんだろう?
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