第09話 恐怖!撫でポ襲来!!
私はミズハラと一種に他愛無い会話をしながら食事の続きをしていた。
当然の如く後から来た異世界人が自分の食品を選んだ後、私の食べている物を伺いにきた。ただ、先程と異なるのが無言で去ろうとする異世界人にミズハラが注意をする。
「ちゃんと挨拶ぐらいかえしぃーや」
「あぁ、そうだな…おはよう」
ちゃんと挨拶を返す習慣があるのだと再確認した。
その後、食事を終えミズハラと二人でお茶を飲む。
「今日のお茶は昨日のと比べてあっさりとして飲みやすいお茶やね」
「すみません。昨日のお茶は来客用の高級品で毎日の食事毎には出せないんです…」
私は小さく詫びの言葉を発する。
「いやいや、堪忍堪忍。別にええお茶せびってる訳ちゃうよ」
「富豪や上級貴族の方なら毎日飲んでいらっしゃるかも知れませんが、辺境の下級貴族で農業と畜産をやっているこの私では…」
「マールはんも色々大変なんねぇ…」
そんな会話をしていると会議室の出入口にメイドのメイが大きなトレイで食品の補充にやってくる。
その姿を見つけた異世界人達はざっとメイの所に殺到する。
男性の方々なので私と違い食事の量が足りなかったのだろう。あっという間に人混みでメイの姿が見えなくなる。
「異世界人の方々は朝から沢山召し上がるのですね。私は朝は食が細いので羨ましいです」
「いや、そんなことあらへんよ。こっちの食事が珍しいんちゃう? あと異世界人っていうのはちょっとやめてほしいかなぁ~」
「えっ?何でですか?ミズハラさん」
「いや、異世界人異世界人って言うてたら、もう帰られへんのにいつまでもこの世界に馴染まへんのちゃうかなって…」
ミズハラはぽりぽりと鼻を掻く。
「では、どのようにお呼びすればよいですか?」
「そやな… 転生者って呼んでもらえる?」
「転生者ですか…分かりました」
「あとぉ~うちのことも、名字のミズハラじゃのうて、名前のカオリで呼んで欲しいなぁ~ あっ ちょっと慣れ慣れしぃかな? やっぱりミズハラでええわ」
「いえいえカオリさんと呼ばせてください!」
私はカオリの手を握る。
意思疎通や会話が成立する唯一の転生者だ。大切にしないといけない。
「ほんま!うち嬉しいわ!なんか友達できたみたいやおおきにやで マールはん」
互いに友好を確かめ合っていると向こうの室内が騒がしくなってくる。
「すっ!すみません!あっ許してくだっ」
人混みの中を掻き分けるようにメイが、何かから逃れるように飛び出してくる。
「マ、マール様ぁ!!!助けて下さいぃ!!!」
メイは私の姿を見つけると駆けだして来る。私は立ち上がるとメイは私の背に隠れカタカタ震える。
「コ、コワイ… コワイデス…」
私はなにがあったかと思いメイの逃げてきた人混みの見る。
転生者たちが微笑のままこちらを見ており、その後、ゆっくりと一斉にこちらに近づいてくる。そして、私の前までやってきて、微笑のまま平手を被せるように私の頭に伸ばしてくる。
私はその手を逃れるため一歩退く。
微笑の転生者たちが一瞬固まるがすぐに一歩進んでくる。
私も一歩退く。
「どうして、私の頭を撫でようとするんですか?」
「どうして、撫でるのから逃げるんだ?」
私と微笑の転生者たちが同時に言う。
「「えっ⁉」」
また同時になった。
「いやいや、女の子は頭を撫でられたいものだろ?」
「えっ⁉ここではそんな風習はありませによ? カオリさんの世界ではあるんですか?」
私はカオリに振り返り尋ねる。
「いやいや、うちの世界でもそんなことあらへんよ」
「いや、そんなことはないだろ。女の子はニコッと微笑まれたらポッとなったり、頭撫でたらポッとなったりするものだろ?」
カオリの言葉に首を傾げて転生者がいう。
「いやいやあらへんあらへん。そんな娘どこにおんねん」
「ゲームやアニメ、本の中では当たり前だぞ?」
「あほか!そんなん二次元だけの話や!リアルでそんな娘おらへんで」
カオリが呆れたように言い返す。
カオリの言葉に転生者達は微笑を解き、円陣を組んで小難しい表情で相談を始める。
「どう思う?」
「いや、ニコぽ撫でポを喜ばない女の子はいないだろ?」
「だよなぁー」
「じゃあミズハラの発言はどうなんだ?」
「あいつはニコぽ撫でポを喜ばない異端者だったから、30のババアになったんだろ?」
「あんたら、本人目の前に異端者扱いやめーや! あとババアちゃうでぴっちぴちや!ぴっちぴち!!」
カオリの言葉に一同は、憐れむようにふっと鼻で笑うとすぐに相談を再開する。
「なに!その態度!めっちゃ腹たつなぁ!!」
ミズハラの憤慨を他所に転生者達は相談を続ける。
「メイちゃんはどうなんだ?」
「メイちゃんは俺たちの中の一人を選択する事に怯えているだけだ」
「だよな」
「…チガイマス…」
メイは私の背中の影で小さくつぶやく。
「ではマール嬢は?」
「マール嬢はメインヒロインっぽいから難易度が高く設定してあるだろうか?」
「そうかもしれないな…簡単に落ちたら面白くないし」
「そうだな。そうにちがいない」
「よし!これからもニコぽ撫でポで頑張るぞ!」
転生者達はおー!と一同に掛け声すると一斉に私に向き直り小難しい顔からいつもの微笑にニコっと表情を変える。
私はその様子に一歩後退りびくっと肩を震わす。
しかし、転生者達はその後なにをするでもなく立ち去っていった。
「一体なんなんですか?あの人たち⁉」
「あれがさっき言うてたアレや…」
私はカオリの言うアレを体験したのであった。
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