第03話 異世界人説明会

 ミズハラからの事情聴取の後、とりあえず、私とミズハラ、リソンとファルーの四人で詳細な打ち合わせを行う。他の者はそれぞれの仕事があるので、自分たちの仕事場へ戻らせる。


 その後の話し合いで決まった大体の流れは、異世界人を暫くの間、当家で預かり、こちらの世界での常識を教えながら領民として登録することである。領民と言っても何もこの地に縛り付けるものではない。この国の国民として領民経由で登録するに過ぎない。


 従って、登録さえすればこの地に留まるもよし、帝国内を彷徨うのも自由なのだ。

逆に登録をしなければ身分証明が何もないので、仕事や各種契約、法の加護も受けられないのだ。


 その他の問題は当家の受け入れ態勢である。貴族やその従者を考えて四〇人五〇人の宿泊の受け入れは可能であるが急な百人など到底不可能だ。


 相部屋はもちろんの事、雑魚寝を受け入れてもらわないといけなくなる。

幸いな事に異世界人の男女比が、男性99人女性1人なので一人部屋は一つで十分な事だ。

ただ、致命的な問題として赤ん坊が6人もいることである。

 

ミズハラが言うには、赤ん坊は体は乳児でも中身は成年男性というが、乳児の育児経験があるものはファルーと他一人だけで6人も面倒を見るのは不安である。


 特に母乳の出る者など館には居ないので、領民に募集をかけなければならない。

まだまだ課題は残っているが、現状とこれからの方針を説明する為、異世界人達がいる館の大会議室へ私、リソン、ミズハラの三人で向かう。ファルーは異世界人の食事と寝床の準備をするため別行動だ。


何故か先頭を歩くミズハラがノックもせず、扉を開けどんどん中に進んでいき私も恐る恐るその後に続く。


「やれやれ…ようやくか…」

「メインヒロイン…」

「……裏切り…腹黒令嬢か…」

「バブ―」

「ふっ魔法力、戦闘力…雑魚か」


 なんだか不穏な言葉が聞こえてくるが聞こえない振りをしながら上座中央へ進み異世界人の方へ向き直る。

そこには多少の身長差・年齢差・体格差はあるのもの黒色のシャギーで額に一本前髪垂らした同じ髪形の群衆がおり、皆私に視線が集中している。

それぞれの表情は微笑を浮かべている者・いきり立っている者、片手で顔を覆いこちらを伺う者、興味なさげに無関係を装う者、そして激しい敵意と憎悪を向ける者…


『って、なんで私に敵意と憎悪を向けているんですか⁉』


「はいはい!みんな静かにぃ~ 注目してやー」


ミズハラがパンパンと手を叩くと、すっと静まり返りこちらに向き直って注目する。


「えらいみんな素直やな、静かになるまでの先生ネタやり損ねたやん」


打ち合わせたかのように、ぴったり動くのでミズハラも驚く。


「えーほな…マールさん自己紹介お願いやで」


私はミズハラに促され一歩前へ進む。


「皆様、私はアシラロ帝国のアーフリ北部地方セネガ領を賜るマール・ラピラ・アープ子爵でございます」


一礼し顔をあげると100人の同じ髪形の群衆がこちらを注視している。

やはり怖いし何だか…そう少し気持ち悪い。


「このマールさんが帰り方も知らんしそもそも帰る場所もない、知り合いもおらん路頭に迷うしかないうちらを保護してくださるそうな」


「皆様の領民登録が済むまでの間、当家に留まっていただきこちらでの慣習や社会常識等を学んでいただきます」


「ということや、みんな非常識な事したらあかんで」


「また当家滞在に関することですが…何分急な事態ですので至らぬ所が多々ございますが、ご理解の上ご協力をお願いいたします」


「大まかな所は以上や、なんか質問あるか?」


その言葉にいくつもの手があげられる。


「領民登録すると言っているがそれは我々を奴隷化し縛り付けるということか!」


 敵意というかもはや殺意を感じる視線で問いかけてくる。相手の状況は分かるのだが、なぜ私に敵意を向けてくるのか分からない。


「いえいえ、領民登録は身元証明を行う程度のものですので奴隷化する訳でもございませんし、この地に定住するつもりがなければ他領に行き登録し直せばそこの領民になります」


次の質問があがる。


「その領民登録というのはいつ終わる?」

「領民登録は先代の母が亡くなったので、私の引継ぎが終わってからということになりますので爵位継承が終わってから私が行いますのでかなり時間がかかってしまいます」

「で、実際の期間は?」

「一か月は待って頂くかも…」


私の言葉に異世界人達はしばし考え込む。


「長いな…」

「一か月もここで足止めを食うのか」

「我々を懐柔、または監禁するつもりではないのか?」


いや、100人も養うのは大変なので、監禁どころか本当の所は今すぐにでも出て行って欲しい。


「そないな事言うたらあかんで。逆にマールはんの立場で考えてみ。見ず知らずのもんがいきなり100人も来たんや。様子を伺うのが普通やろ」


 異世界人達は、納得したようなしていないような複雑な表情をしていた。

そんなこんなで様々な質問が上がったが細かい質問はリソンやミズハラが答えある程度同意を得たところで説明会を終えた。

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