第04話 母の日記

 説明会やその他の打ち合わせが終わり、寝室に戻った時には日はどっぷりと沈んでいた。

私はベッドに横たわり枕に顔を沈めていた。


 今日一日で色々なことがあった。ようやく故郷に辿り着いた事、母が亡くなっていてその葬儀に参加出来なかった事。異世界人が100人も現れた事。


そして、その異世界人を今後保護しないといけない事…


本当は悲しみに溺れたいのに、様々出来事のせいでそれが出来ない。


 ふと父が亡くなった時の母を思い出す。その時の母の姿は悲しみに暮れる事もなく私を励まし父亡き後の領地の仕事に努めていた、


『私もお母様の様に頑張らないと…』


私はベッドから降りて事務机に向かう。


 学院を退学する手続きや爵位の継承、領地経営の受け継ぎに異世界人の社会常識の講習や今後の食費・日用品や家具の経費等。仕事する為向かった事務机の上には今回の問題の原因となった遺品の本があった。


私は恐る恐る指を伸ばし、指先がちょんと本に触れる。


何も反応は無い。


次はトントンと指で叩いて反応が無いのを確かめる。


やはり反応は無い。


私は両手で本を持ち上げ何も記されていない表紙を見つめる。


そして、大きく息を吸い込んだ後、ページをめくる。


その中に記されていたのは母の日記だった。


 母がこの領地に来た所から記されており、父との出会いから互いに心を惹かれ恋人同士になり、結婚に至る様子が記されていた。


 一見恋愛小説でも読んでいるみたいだが、何分、登場人物が自分の父と母なのでモヤモヤする。でも、色々興味がひかれるのでページをめくるのが止まらない。次々と読み進める。


「えっ⁉」


そのページには驚愕の事実が記されていた。


 お母様が異世界人だったの⁉


今日来た異世界人と同様に、異世界で一度死に別の姿になってこの世界に来た事。

誰も知り合いのいないこの世界で、一人彷徨い様々な苦労をした事。

必死になって、元の世界に帰る方法を探していた事。

その中で父と出会い恋をし私を身籠った事。


そして私を産んだ事により元の世界に帰る事を諦めた事が記されていた。


母は帰れなかったのではない、帰らなかったのだ。


異世界との扉を開く魔法陣は完成していた。


それが礼拝堂で異世界人をこの世界に呼び寄せたあの魔法陣なのだ。

魔法陣のページの下には母の言葉が記されていた。


『この魔法陣は一度しか作動しない

 彼とこの子為に私は残ろう』


私の中に様々な思いが巡っていく。


異国にただ一人。胸の内に思う事しか出来ない故郷。異国で出来た大事な人。


そして大事な人と帰郷の選択とその覚悟…


私は日記を通して母の思いを受け取った気がした。そして、今日来た異世界の人々は母と同じなのだ。


 私は故郷に帰る事を捨ててまで受けた優しさを、母に報いる事が出来なかった。だからこそ、今日来た異世界人を優しく保護する事が、母に報いる代わりなのだと深く心に刻んだ。


「よし!頑張ろう!」


 言葉に出して誓うのであるが、時計を見るとかなり夜も更けていた。明日の朝も早い早く床に就かないといけないが、学院と爵位継承の件だけは今日中にやっておこう。


私は連絡用魔法陣を用意して、窓を開こうとする。


「えっ⁉」


窓の外を黒い影は走る。


何だろう?鳥?


私は窓を開け放ち外を確認する。なにも見当たらない。


きっと気のせいだ。


 私は気を取り直し魔法陣に魔法を込める。まずは学院から、次に爵位継承の為に帝都管理局。二つの青白い光球が魔法陣の上から外に飛んでいく。


 用事が済んだので窓を閉めようと思ったが、もう一人連絡したい人物を思い出す。学院に進むため家庭教師をしてもらった先生である。


母が亡くなった事と今後色々相談したい事詰めて光球を飛ばす。その後窓を閉め、ベッドに潜り込み天井を見上げた。


天井に赤い瞳があった。


「ひっ!!!」


 私は息を飲むような悲鳴をあげた瞬間、赤い瞳は影となり窓を開け放って館の外に消えていった。

次の朝、事務机の上にメモが残されていた。


 『お前の悪事は見逃さない』


一体何なの…

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