第十一節:無節操な狼とそうでない狼

「今度はこいつでどうだ、これ以上の譲歩は難しいぞ」と画面内の大男がいった。


「ダメだ、全然ダメじゃねーか。腕以外見るべきところがない」とはっきりといった。


「指揮命令系統を守らない腕利きなんていらない、それよか新兵を回せ。そっちの方が見込みのあるやつが混じっているかもしれない」と全身刺青いれずみの男はそういった。


 獣脂の焦げるにおいが鼻を突く、薄暗い天幕の中で刺青の男が叫んだ。


「別の方面から新兵を回してくれ!!」と。


「仕方がない」と画面内の大男はそういうと新兵のリストを魔導転送機に投げ込んだ。


「これで最後だ、こっちも手が回らん。次はないぞ」と大男はいった。


「最終局面てことか……」と刺青の男はいった。


「当たり前だ、回すやつ回すやつ次々と投入すれば結果は少しは上がるだろうが、それ以上にならないからな。それで分かったことといえば、剣聖が来るかもしれないという大きな穴じゃねえか。あんなもんに来られたら一人で数百機束になっても勝てる見込みねえぞ!」と大男が画面内で怒鳴った。


「剣聖なんて、そっちで抑えていればいいだろう」と刺青の男は投げやりに言った。


「抑えられる奴なんかいるか、距離が近いってだけでアレを抑えられる奴なんかいないぞ!? 分かっていっているのか? この俺ですら無理だというのに……」と大男は一瞬立ち上がったがまた座り込んで酒を飲み干すと、そのままその瓶を画面に向かって投げつけた。


 ケイ素系だが透明な破片を巻き散らして、赤い残りカスを垂れ流す画面に向かっていった。


「その程度で壊れるかよ!!」と刺青の男が嘲笑あざわらった。


「壊れなきゃいいんだよ!」と酒を飲みほした大男はそういって強化剤を数本ぶちまけた。


「それだと、先に兵が壊れるぞ!」と刺青の男は冷静に極めて冷徹にいった。


「薬をやってる常習犯ジャンキーか、もう効かなくなって数本まとめて飲むような奴しか残ってねえよ!」と苛立ちを画面に向かって投げつけたようだった。


「それ以上、酒は飲むなよおまえ自身が壊れる」と刺青の男は大男に向かっていい放った。


「ったく、こっちの苦労も知らずにポンポン兵を投入するから、最近じゃ人族レース主義者の連中も金回りが悪くなっているんだぞ! 分かってるのかあいつらも俺らもどっちかがコケりゃそれで終わりなんだぞ! 金の切れ目が縁の切れ目ってなよくも言ったもんだぜ……人族主義者どもは自分さえよければ他の事は一切構わないやつらだからな、今は俺らの金蔓だがそのうち出ていきそうな感じもあるんだ」と大男は顔を覆って「もう、うんざりだ!」と叫んで沈黙した。


「しかし奴らには出ていく場所なんてないじゃないか、出て行ってもつかまりゃ投獄されて、もう一生そこから出られなくなるだけだろうに」と刺青の男はいい放つ。



 そこに三画面目が現れた。


 ひげ面の傷だらけの顔を持つ、体も傷だらけな男であった。



「なんだ、上手く行ってないのか、そんな調子じゃ応援を頼もうかと思っていたんだが無理のようだな……」と傷男はいった。


「今更何か用か? エテリウムに引っ込んで以来一切音沙汰無しだったじゃねえか」と刺青の男が絡んだ。


「鉱脈はあるのか?」と追加で聞く。


「あるにはあるが、掘る機械がねえ! こっちは人手こそソコソコいるが人力では限界があるんだ!」と傷男が叫んだ。


「MMは無いのか?」と刺青の男が聞いた。


「あるわきゃねえだろ! そんな上等なもんがあったらもうとっくに掘り出してらぁ!」と傷男が叫ぶ。


「数機送ってやるから人手をよこせ、ナイツをよこせ!」と刺青の男が交渉しようとした。がそんなに現実は甘くはないらしい。


「ナイツなんて俺以外に居るかよ! 他は皆ノーマルしかいないんだぜメイジすらいねえ!」と傷男が叫んだ。


「後、人族主義者だけは数が多いから、金の奪い合いで火がついて内乱が起きてやがるんだ、どーしろってんだ!」と追加で叫んだ。


「まだ顔会わせられるだけマシさ、シルヴァの連中とは一切話せてないんだぜ、悪魔召喚に失敗したって話しか聞かないしな。それ以降悪魔の巣窟そうくつダゼあそこは、別の意味で手が出せねえ」と刺青の男が冷静にいう。


「チッ、どこもかしこもダメなところしかないじゃねえか、一番真面なのが俺らのところとかきたもんだ」と沈黙していた大男が話し出した。


「グランシスディア連邦の山中に潜んでいる俺と、グランシスディアの国境線上にいるサイガお前が一番真面だぜ戦力としてみるならな。新兵とはいってもナイツであることに違いはねえ!」と大男が刺青男を名指しで叫んだ。


「バッティーンところはノーマルしかいないうえに内乱で崩壊しかけているようだしな」と大男が続ける。


「他にも五人指揮官は最低でもいるはずなんだが、音沙汰がないってことは捕まったか、滅んだか滅ぼされたか? じゃないのか」とサイガと呼ばれた刺青男はいった。


 そして、その問いに誰も答えられなかった。



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