第七節:その後

 やはり、物静ものしずかなどこか違和感いわかんおぼえる私とジーンさんであった。



 私もさっきと同様の違和感いわかんを、ここでも感じていたのである。



 それからしばらく経つ、確かに二十分後位の時間であった。


 一応病院の受付には、特例とくれいで「ディシマイカル・Fフリュー・グリッド侯爵があとから来ますので病室二〇〇一号室のほうへ、おとおしてください」と失礼の無い様に話はしてあった。



“コンコン”



 とドアを、ノックする音がした。


「お待ちください今開けますので」とジーンがいう。


 私は、隊長のすぐとなりすわっていてくれとジーンさんからいわれたのである。


 鍵を開け重厚な扉じゅうこうなとびらを開ける。


「電話にて、話させていただきましたジーン・クレファレンスともうします」


「これは、ありがとうございます、支部隊隊長いえアスカ・ジークレフ侯爵こうしゃく容体ようだいはいかがでしょう」といって一応診れる用意はしてきたらしかった。


「今は、休んでおりますがかなり大量に出血しゅっけつした様ですのでいつ目覚めざめるかは分からないと言うところです」とジーンが答えた。


「こちらです」


 部屋の角を曲がってディシマイカル侯爵がやって来た。


 開口一番「ワルキューレ済まなかった」といったのである。


「ワルキューレも、手伝いましたの」とワルキューレじょうが答えたのであった。


「それで、そんなに……」とディシマイカル侯爵がワルキューレ嬢の服に付いた血痕けっこんを見ていったのである。


 私のほうを見て、「こちらの方は?」と侯爵がいった。


 すると私は立ちあがり礼儀作法にのっとって御挨拶ごあいさつを行った。


わたくしは、斑鳩イカルガ旗下キカアラワニ国のレスト・アラ・ニス公爵こうしゃくが娘アスカ・アラ・ニスです」と私が言うと、「公爵御令嬢こうしゃくごれいじょうでしたかおうわさは聞きおよんでおります」といったのである。



 私の服の血痕けっこんを見て、「ジークレフ侯爵を、応急処置おうきゅうしょちした時のものですお気になさらないでください。当たり前のことをしただけの話なのですから」と私はいったのであった。


「どんな状況じょうきょうであったかを、お聞きしてもよろしいでしょうか」とディシマイカル侯爵がいったのである。


「分かりましたお話しましょう」と私が話はじめた。



……



「休暇で、外出した折に、三人組の少し厄介やっかい暴漢チンピラからまれているワルキューレさんをお見かけしたので、隊長と私で助けに入ったのです。私はあまり役に立てなくて結局けっきょくのところ、隊長のワザに救ってもらった次第にございます」といって。



「そのあと隊長の応急処置をしている最中さいちゅうに、その三人組がつかまりまして」と間をぶっ飛ばしたので。



「その、三人組はどうしてその場にいたんですか?」という見事な返り討ちかえりうちらったところであった。


「私も魔剣士ですので『加重』くらいは覚えておりますので三人の暴漢チンピラが近寄った際に三人の銃に同時に加重を垂直方向下向きに一万九十八キログラムをかけたので暴漢チンピラのナイツが見事に転び、飛んでいた暴漢のメイジも落ちてきて、隊長が張ったアンチマジックシェルの中に落下し動けなくなりもう、一人は力の強いただのノーマルの様でしたからその場で動けなくなったようですが十分程延長えんちょうしてかけましたので十分は動けなかったようです。隊長の怪我ケガは背中に集中しておりました、鏡面二重分身キョウメンニジュウブンシンをしたうえで私たちの上におおいかぶさって下さった様であと、貫通痕かんつうこんが無かったのがさいわいでした貫通痕かんつうこんがあったら私でも応急処置は間に合わなかったでしょう。魔法が使えない範囲はんいの中にりましたから。つかまった者たちはレーザー銃をフルオートモードにして三方向から撃ったのだと思います。着弾ちゃくだんひどキズから処置して行きましたがギリギリだったと思います、応急処置があと十秒でもおくれていたら、ワルキューレさんが手伝てつだってくださらなかったら……」


……


 怪我を負ったのは隊長で私とワルキューレじょうかばって、レーザー銃を三方位からフルオートで被弾ひだんしたというものであった。


 しかも、鏡面二重分身にガードしたというのだ、ディシマイカル侯爵もそんなことが可能なのかというような状態で私の話を聞いていた様である。


 運の悪いことに、隊長は鏡面二重分身をしてまで銃撃じゅうげきを受けたため一時意識不明いちじいしきふめい重体じゅうたいにまで怪我の段階ケガのダンカイが上がってしまったのである。


 貫通痕かんつうこんが、無かったのが唯一ゆいつすくいであったと私は語った。


……


 即座そくざに、ワルキューレじょうかばっていた私が近寄ちかよった三人の持つ銃に『加重』をかけおもくして居なければげられてしまっていたところであった。


 誰かの通報つうほうによりけ付けたナイツポリスと普通の警邏けいらとが犯人を逮捕タイホしたが、私のその機転きてんによるもので三人は即逮捕そくタイホされたという。


 そして、応急処置が終わる頃に救急車がやってきて三人ともが都市病院に一緒に運ばれるということが起きさらに自体がややこしくなったのである。


 さらには、隊長の応急処置は私とワルキューレじょうが行っていたため大事だいじにはいたら無かったが危険な状態じょうたいにあったのはいうまでもない、ということを語ったのである。


……


 問題もんだいはさらにここから発生はっせいする。


じつはワルキューレは私の実の子じつのこではありません」


「へ?」と、ジーンさんがおどろき、


「では、どなたの……」と私がき。


 そのかばった子(ワルキューレ嬢)はディシマイカル・Fフリュー・グリッド侯爵のところの子ではあったが「調整中ちょうせいちゅうに外に散歩さんぽに出て帰ってきてなかったEvNRエボリューションニューレースなのです」で、ようやくその違和感いわかんが分かった。


「そうでしたか不測ふそく事故じこだったんですね」と私が言った。


「はい、申し訳ありませんでした、では済まないと思いますがせめて治療をと思いましたが、先に聞いた内容ですとさらにそのあとも。神聖魔法をとなえられたのでは?」とディシマイカル侯爵がいったのであった。


「はい、そうです。ICUの中でどうやら『再生リジェネレイト』をかけたらしく、扉の外からでもお医者様がおどろいている声がはっきりと聞こえましたから。さらにはこの病室に入ってからも『状態知覚ステートパーセプション』をかけ『高位回復ハイリカバリィ』さらに『ストレスの軽減リデュースストレス』と三連続で高位の神聖魔法を使用しております。かなり激しく消費したみたいでしてはっきりとは分りませんがかなり精神力せいしんりょくを消費したものと見られます。そして今のこの状態になるわけなのですが。体のキズはもう無いでしょう、しかし精神的に重篤じゅうとくな状態になっている可能性があります……」と私は、言ったのである。


「支部隊隊長が、元神官戦士団しんかんせんしだんの一員であったとは聞いていたがまさかそんなことまでしていたとは」


「どちらの、神官戦士団しんかんせんしだんだったのでしょうか?」


「さすがに、そこまではくわしくは聞いて無かったんですが……」とジーンが詳しくは聞いて無いんじゃといった表情ひょうじょうをしていたのである。


「そこまでのことをしていますので肉体的にはともかく、精神的にはどれくらいで回復できるものかはもう隊長次第たいちょうしだいだと思います」と私がいったのであった。


……


「今日は、おそくなりましたので、私がここにります。皆様みなさまは帰って、部隊への報告ほうこく調整ちょうせいの続きなどをなさってください、ねんのためクララさんに私の着替きがえ分を四日分と適当でかまわないので持って来ていただけるように手配てはいをお願いします。多分今晩たぶんこんばんはクララさんもまるはずですので……そのむね調整よろしくお願いします。ジーンさん」と私がいったのである。


 私が気丈きじょう振る舞ふるまっているなという様子がジーンさんには分かったらしい。



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