第六節:神聖魔法

 ジーンが、都市病院に行く手段に選んだのはFPVフローティング・パワー・ヴィークルであった。


 緊急車両ではないから飛行制限ひこうせいげんはあるが、いざとなったら飛べるからでもあったが。


 その判断は、間違ってなかった。


 街中は若干の交通渋滞が、起きていたのである。


 いつもの時間ならではの、帰りの交通渋滞だった。


 飛行制限ギリギリでばす、このあたりはジーンにとってはお手のものではあった。


 休暇中きゅうかちゅう申請しんせいを隊長が出したのではなく、副長に一時権限譲渡いちじけんげんじょうとをして隊をあずかってもらって飛び出してきたのである。


 なので、ギルド車ではなく自車ではあったのだが、ギルド証は持っていた。


 いざという時の、伝家の宝刀デンカノホウトウではあるからであるカラーはエメラルドになっておりそこそこの権限が有った。


 まあ国外では、身分証位みぶんしょうくらいにしか提示ていじできないのであるが……。


 かれこれ十五分すると都市病院が見えてきた、コマチも個室で入っている病院である。


 何の因果インガか、とジーンは思っていた。


 病院内では、異例イレイ事態じたい一部驚いちぶおどろいてはいたが、かなりの回復力に本当にレース人族かとまでうたがった医者もいたらしい。


 アスカじょうが電話していたころにはすでに会話可能なまでに復活しており。


 全ての電気的検査器具でんきてきけんさきぐは意味を無くしていた全ての値が正常値せいじょうちになっており、輸血ゆけつ以外は必要ない状態じょうたいになっていたのである。


 このため、特別病棟エグゼクティブフロアの個室に移されることになったのである。


 所持品からギルド証と聖印せいいんが本人に返されて、今一番必要なものであろうからとの判断では有ったがその判断は当たっていた。


 聖印を返されて直ぐに、『再生(リジェネレート)』を唱えたのである。


 これには医者のほうが目をいたという、キズついていた場所が即刻再生そっこくさいせいを始めたのである。


 一部の医者は、これだから神官様は……、と言いかけて「へ?」「神官ではなくギルドナイツの方ですよね?」と隊長に聞いていた医者もいるくらいではあった。



 まあ、そんなやり取りがあって、個室に移る準備が即実行そくじっこうされ即個室行そくこしつゆきとなったのである。


 当然とうぜん私ともう一人の子も、一緒に隊長の入った個室に行ったわけであるが。


 当然個室でも『状態知覚(ステートパセプション)』をかけ『高位回復(ハイリカバリィ)』さらに『ストレスの軽減(リデュースストレス)』がかかって、残りは本当に輸血だけの状態となったのであった。


 ジーンが都市病院の表駐車場に車を止めて、ICUに行ったころにはもぬけのカラだったという事態じたいが発生し受付で「ついさっきまでICUに入っていたアスカ・ジークレフ侯爵様こうしゃくさまは今どこに居られるのですか?」とジーンが聞いた。


 受付嬢が答えた。


「今はエグゼクティブフロアの高級個室こうきゅうこしつに入っておられます」と。


患者様かんじゃさまの、ご血縁けつえんでしょうか?」と聞かれるとギルド証エメラルドを見せ「関係者かんけいしゃも関係者、侯爵様こうしゃくさま支部隊隊長殿しぶたいたいちょうどのだ!」というに至った。



「急ぎの用があり、火急かきゅう用事ようじがある」とあせりながらさらに突っ込んだジーンが居た。

「分りました確認いたします」


「はいジーン・クレファレンスと言う方が、参られておりますがいかがしま……はい分りましたぐにおとおしします」と受付嬢が電話口で答えた。


 そして「ジーン様、二十階の二〇〇一号室へどうぞ」といった。


「ありがとよ」ジーンの心境としてはこうだった面会謝絶めんかいしゃぜつですっていわれなくてよかった……であったという。



 高速EV高速エレベーターで、即二十階まで移動EVホールの地図を見て二〇〇一号室を確認し走りこそしなかったものの早歩きで二〇〇一号室まで移動しその重厚じゅうこうとびらをノックしたのである。



「はい、今開けます」と中から私の声がして鍵が開きドアが開けられ私の顔が見えた時は涙腺るいせんがヤバかったらしい。


「アスカじょうちゃん、どーしたんじゃ真っ赤まっかになって、いや赤黒あかぐろくなっとっるが大丈夫だいじょうぶか?」とジーンがビビっていった。


「これは、隊長の血です。応急処置をほどこしたさいに付いたものです」とアスカ嬢が返答した。


「なんじゃっと、隊長は…侯爵様こうしゃくさまは無事なのか…」とジーンが聞く。


「こちらで、寝ておられます」と案内するのであった。


「ゴクリ」と、つばを飲み込むジーン。


「二番隊隊長、ジーン・クレファレンスです遅れまして申し訳ありませんでした」といって部屋の角を曲がりベッドのほうに入っていった。


「今は少し、つかれたのか、寝てられるみたいなんですが」


「うーん」と少し考えて、「あちらにられる方も要救護者ようきゅうごしゃには見えんがどちらの方じゃ?」とジーンがうなった。


「あー! 忘れていました」と私がいうのであった。


 その子の前まで行き、私が礼儀作法れいぎさほうにのっとった聞き方をした。


わたくし斑鳩イカルガ旗下キカアラワニ国のレスト・アラ・ニス公爵こうしゃくが娘アスカ・アラ・ニスです。貴方あなたのお名前なまえはなんというのですか?」と私がその子に聞いたのである。



「へ?」と、理解りかいが追い付かないジーン……であった。



 そして、その子が口を開いた「私はディシマイカル・Fフリュー・グリッド侯爵こうしゃくの次女にあたりますワルキューレと申します。助けていただきとても感謝しております。申し訳ないのですがどなたかお父様に連絡を入れていただけないでしょうか?」といったのである。



 それにはジーンが対応することになった、なぜならば隊長は今寝ている起きたとしても意識がこんだくしている可能性がある。


 という理由ワケではあったがその可能性は私も否定ひていできないでいたのである。


 あれだけの出血量しゅっけつりょうだったのだ、今は輸血状態にあるとしてもその時の記憶がはっきりしているかどうかは分からないのであった。


 そして、『データパッド(サイオン社製しゃせい二九〇二〇)』をジーンが展開てんかいしていった。


「ディシマイカル・Fフリュー・グリッド侯爵への直通電話」といって音声入力する。


 すると、直ぐにこの病院からのコールナンバーが表示された。


 病院の、この個室に設置せっちされている直通電話を外線でかける「ディシマイカル・Fフリュー・グリッド侯爵こうしゃくであらせられますか?」とジーンがいった。


「そうですが、どちら様でしょうか?」


「都市病院の二〇〇一号室からで、失礼いたします、わたくしギルド支部隊しぶたい二番隊隊長のジーン・クレファレンスと申します、火急かきゅうの用がありご連絡し上げた次第しだいです」とジーンはいう。


火急かきゅうの用とは、何でしょうか」


「おたくの、ワルキューレさんを我が支部隊隊長が保護ほごしたんですが、怪我ケガをしてしまいまして今隊長はている状態なのです。詳細しょうさいわかるものが一人おりますのでもし詳細を知りたいといえばすぐに分かる様に待たせてありますので、それとワルキューレさんもこちらで保護しておりますのでおむかえをお願いしたく」といったのである。



「何ですって、ギルドの隊長殿が負傷ふしょうを!?分りました直ぐ行かせてもらいます。はい都市病院の二〇〇一号室ですね分りました。二十分もあれば行けるかと、お待たせして申し訳ありませんがワルキューレに代わっていただけますでしょうか?」とのことであった。


「分かりました、直ぐお呼びしますので」とジーンがいって。


「ワルキューレさん、ディシマイカル侯爵から代わって欲しいと」と電話を換わった。


 電話の向こう側では執事しつじを呼びすぐ出られる準備じゅんびをといっている侯爵こうしゃくの声が聞こえていた。


 そしてワルキューレ嬢が電話に出る「お父様」と侯爵をそう呼んだ可笑おかしいことでは無いのだが何かジーンは違和感いわかんを感じていた様だった。


「はい、はい、そうです、危ない所を体をって助けていただきました」というと、「電話のほうは切っても問題ないですか?」といったのである。


「問題ないですよ」と、答えたのである。

「『直ぐ迎えに行くので静かに待っていなさい』と言われましたので大人おとなしくしています」と言ったのである。



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