第五節:隊長の危機

 問題はメイジも同じように、レーザー銃と思われる銃を抜いたことであった。


 気配が変わったことに気付いた隊長が、バックステップした。


 こちらに向かってメイジを見ていたが、目標は隊長ではなくこの子の様であった。


 ナイツもレーザー銃を抜いた、(この不届き者めナイツにあるまじき行為)と思った瞬間ナイツが分身をかけたその数およそ十分身、この子を守るべく私がおおいかぶさる。


『しなければならないことをなせ』とは父がよくいっていた言葉である。


 なぜか、今思い出した。


 この子を、まもらないとここに居る意味はないとそう思ったからであった。


 その直後、隊長が鏡面二重分身キョウメンニジュウブンシンをかけ私の上からさらにカバーリングに入ったその直後レーザー銃から火線が放たれたのであった。


 隊長は、その身を壁にして私とその子をかばったのであった。


 三方位から、レーザー銃がフルオートで撃たれた瞬間しゅんかんでもあった。


 そのほとんどが、隊長に当たる。


 レーザー銃が当るとその部位ぶいは、焼けるか穴が開くかの二パターンに分かれる。


 上体でそのほとんどを鏡面二重分身しながら受けたため、隊長の背中側はひどく傷つき私の上にたおれたのが分かったのである。


 その直後くらいである、警察のサイレンと思わしきものが聞こえたためそいつらが近寄り顔を見合わせた。


 直後私の術が炸裂さくれつした「これでもらえ!!!」と三人の持つ銃に対して、加重方向は垂直方向に下向きかけた。


 加重量は一万九十八キログラム、しかも最大持続の十分間であった。


 まず暴漢チンピラナイツがバランスを崩してスっころび、メイジが落下してきてアンチマジックシェルの中でさらに加速して落ちた。


 もう一人は、持上げられず手も離せずその場からうごけなくなっていた。


 その状況じょうきょう確認かくにんせずに、すぐさま隊長の状態じょうたいを確認するのであった。


 医者にもなれる、このアルケミー・デザイナーに感謝かんしゃしながら隊長をた背中にかなりの出血があった。


 小さいが所持していたバスケットから、緊急処置きんきゅうしょちセットとファーストエイドキットを取り出し手早く展開てんかいして隊長の背中の治療ちりょう邪魔じゃまと、思える服の部分を切りながら即時応急治療そくじおうきゅうちりょうが必要なところから処置していく一刻いっこく猶予ゆうよもなかったのである。


 高速戦闘を意識いしきし、行動間隔アクションタイミングを絞り込むそして、コンマ一秒でも無駄むだにすることなく処置を行っていくのである。


 今の私の目には、隊長の怪我ケガ即時応急治療処置そくじおうきゅうちりょうしょちで何とかすることにしか頭になかったが、ほぼ同速どうそくで手伝ってくれる子が居たのである。


 だが今はこの子がナイツかどうかなんてどうでも良かった、処置もかなり適切てきせつで戦場がえりにしては若すぎるためやはり同族どうぞくかと思ったがその思考しこうですら流していた。


 応急緊急処置であとは輸血ゆけつのみと言う所まで仕上しあげげた時には、すでに救急FPVきゅうきゅうしゃが目の前に居たので「早く病院へ!」と私が叫んだのであった。


 私の服も、隊長の血でよごれてはいたし、手伝ってくれたその子も隊長の血でよごれていたので隊長と同じ救急FPVきゅうきゅうしゃに強引だが一緒に乗せてもらって私も最後に乗り込んだ。


「早く、一刻いっこく猶予ゆうよもないとさけぶと」救急FPVきゅうきゅうしゃは飛行し出した、緊急車両きんきゅうしゃりょうであるため都市内部でも飛行が可能なのであった。


 施術せじゅつした分の対応分を、救急車両乗員で救急対応要員に説明し始めたのである……。


 大分だいぶん長く説明したように思うのであった。


 そう思えるほど心配だったのである。


 都市病院としびょういんについて、ICUしゅうちゅうちりょうしつに隊長が入っていくのを確認する。


 出て来るまで二人で、一緒にその場に立ち続けたのである。


 少し時間が経って警察の方が、私に「身分証明できるものお持ちですか?」と問われたのでギルド証を見せ私も医者の端くれアルケミー・デザイナーであることを伝えたのであった。


 今はブラックオニキスのカードが、すごく重かったのである。


「私にもあの時、魔法が使えたら……」と呟いたが、それは見に来た警官に伝わった様で「大丈夫ですよ」と「ここの医者は救急医療に定評ていひょうがあるんです」ともいってくれたのである。


「もう一人の方は、無口むくちな方ですがお連れ様ですね」と言われてしまった。


 同じエルフであると、見たのであろう、今見ると不思議ふしぎ感覚かんかくおそわれるのだが。


 ギルド証が、らない世話せわまでしたようではあったが。


 ICU前で座らずに立ち尽くす私たちに気を使ってか、「我々は一旦署いったんしょに戻ります何かありましたら、お電話くださいけ付けますので……」といって彼は去っていった。


 もう一人が、「犯人逮捕はんにんたいほご協力ありがとうございました」といって去っていった。


 ヤツラは逮捕タイホされたらしい、魔導光剣まどうこうけんを持っていればすぐに片付いたかもしれないのにと私が落ち込んでいると。


 まだ名前も知らないその子が、そばまで来て心配してくれている様だった。


貴方あなたには、怪我ケガはなかった?」と聞くと「ううん」と首を横に、振ったのであった。


 どうやら、その子には怪我は無さそうだった、かばったかいがある。


 動きに不自然なところは無い外傷では無いのか元々こういう性格なのか、どこから来たのか聞こうとしたその時であった。



 ICUで動きが有った、隊長が覚醒かくせいしたらしいさっきまでおぼえている時間を振り返ってみる。


 もう、隊長がICUに入ってから二時間が経過けいかしていたのである。


 流石さすがナイツの生命力と、思わせるものが有った。


 ノーマルと違い生命力は格段に優れており身体能力も、そこらの普通のナイツよりはあると思わせるだけの訓練くんれん日々欠ひびかかさないことといい充分じゅうぶんに生きている保証ほしょうはあったのだがやはり心配でたまらなく……なっていたのである。



 ふと何かを、思い出す『報告・連絡・相談ホウレンソウ』隊長のことしか頭になかったが部隊への連絡をすっかりと忘れていたのである。


 急いで、隊長詰め所に連絡を……違った今の時間で対応できる部隊はいつもなら「二番隊!」二番隊の待機時刻たいきじこくであるはずであったことを思い出すのであった。


 そく、二番隊の詰め所つめしょに連絡を入れる。


 呼び出しコール音が二度ほど鳴って「はい、こちらジーン」といったところで「私ですアスカです、隊長が撃たれて……今病院のICUに隊長が入っているところですが目を覚ましたみたいで……」と私が矢継やつはやに言うと「どこの病院びょういんだって」、「都市病院のICUとしびょういんのシュウチュウチリョウシツです」、「分った直ぐに行く、アスカじょうちゃんに怪我ケガは?」、「私には怪我ケガはありません、隊長がかばってくださって無事ブジでした」という会話がなされた。


「分った、何かあったら固定ではなく通信でって休暇中か……兎に角とにかく分かった直ぐに行くっ」と言われて固定電話は切れた。



 ヤツラ撃つときにフルオートあたりに設定していたらしい体への重篤じゅうとく貫通かんつうが無かったのはそのせいではあったから、その分数多く止血しけつしたように思われたが。



 数多く止血しけつした理由ワケおおいかぶさってくれた時に隊長の顔が四つあったのが原因ゲンインではないかと思われた。


 私はまだ使えないが鏡面二重分身キョウメンニジュウブンシンを使った結果なのだろうと思った。


 アレは瞬間的にだが四人の実体に成れるスゴワザの一種で使い手の少ない希少レアな技なのである。


 私にも覚えはある鏡面分身キョウメンブンシンが短い時間だが使えるのである。


 すでに、『加重カジュウ』の時間効果はとおに過ぎているのでもうレーザー銃も軽くなったことであろう。


 アレは、長くても十分くらいまでしか引きばせない代わりに射程シャテイが長いのである。


 『荷重』をかけなくてよかったと思った『荷重』の場合射程が短い代わりに時間単位で継続ケイゾクさせることが出来るからである。


 ジーンさんが、来るまでに考えていたことはこれだけであった。



第三章 第六節へ

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