第五節:修行

 コマチが、ようやく動いたのであった。


「正気なの?」と、聞いたのだ。



 因みに、壁のほうはストレッチャーを運んできた際に、看護士さんに「グランシスディアライン正騎士団がヘマをやらかしたから、彼らに付けておいてくれ」と頼んである。


(硬い壁では有ったが、ヒビが入っていたので)



 アスカのほうは、コマチにこういったのだ。


「この方の元で、一週間程修行いっしゅうかんほどしゅぎょうをさせていただくことに相成あいなりりました。よって、この方が今から私の上司です」と、はっきりいったのである。



 コマチは、二週間は確実に動けない状態になので、返す言葉もなかったのである。

 というか、たましいここに有らずの状態になっていたのだった。



 仕方がないので、「またな」と私がいって隊舎のほうに戻ることにした。


 アスカ嬢の、パワートレーラーの件があるので、一旦パワートレーラーのほうに戻ることにしたのだ。


 そしてパワートレーラーに乗せてもらいギルド支部隊の、だだっ広い格納庫に案内したのである。


 ちょうどダイヤが、戻ってきたところだった。


 部隊通話に変えて、いった「私のそばで私の腕や何かを見極みきわめたいという話であったので、ルーティーン上私と組んでもらうことにする」と、いったのである。



 ダイヤは、悲しそうにしていた。さもありなん。


 自機のほうに、走っていく。


 アスカ嬢に、どのナンバーのマジック・マシン作業整備ブロックポートでも自由に使ってくれてかまわないと指示を出した、ここには五機しかいないのだから。



「ジーン、やってくれたな」と、固別無線こべつむせんで声をかけた。


「あとで、一杯おごってくださいよ」と、いわれたのである。


「分かった。良いのを、用意しておこう」と伝えたのだった。



 そして、自機のほうへ走っていくのである。


 年代物ではあるが、ギルデュース(ギルディアス正規騎士団のA級魔動機)ではない。


 同じA級機だが、魔導機であり『ミヒャイル』というで呼ばれている。


 伯父の乗っていた機体を受領したもので、ソコソコに古かっただが、ギルデュースより優れている点が三つあった。


 一つ、魔導機であること。


 二つ、標準機では有ったが各部が軽く動かしやすくなっていること、これは元々の乗り手の伯父のチューンナップらしかった。


 三つ、迷わなくていいこと。


 ギルデュースもいい機体であったが、様々なオプションを搭載しているため、いつどれを使うのかで迷うことがあったからである。



 正規支部隊の隊長となった時に、隊長機はギルドの正規騎士団と同じものにしてみては? といわれ比較したことがあったのだ。


 だが、元々伯父の機体のほうが魔導機でありそれを基準に支部隊を選択していたので迷わなかったのだ。


 パートナーのエヴォリューションEvニューレースNR(以下、EvNR)のクララ嬢が、マジック・マシンのセットアップに入っていた。



 固有通信で「クララ、一週間程我が隊に編入される。アスカ嬢だ、識別設定をウチの五番に入れてくれ」と頼んだ、クララ嬢は特に誰とか気にするふうでもなく。


「五番ですね、分かりました」と、固有通信を返してよこしたのである。


 同時に、シティーの管制にも、「ウチの五番に、新型が入りますよろしくどうぞ」と伝えることを、忘れなかった。



「それと、年代物の赤を一本冷やしておいてくれ」と、クララ嬢に頼んだ。


「飲まれるんですか?」と、聞かれたのである。


「贈答品だ」と、それに答えた。


「ふふ、判りました」と、返答があった。



 固別通信を切り替え、「アスカ、君の機体のコードネームはどうする?」と聞くと。


「アラワシでお願いします」と、返答があったので支部隊通信に切り替えた。


「アラワシが五番機に入ったぞ、みなよろしくたのむ」と、通達つうたつを入れたのである。


 ダイヤが下りてきた、正式なジャケットを着ている。


 挨拶あいさつの、つもりだろう。


 ちゃんと副長の、青の二本線が袖に入ったジャケットを着ていたのであった。


 それと、パートナーのプロトタイプニューレースとNR(以下、PNR)シャライラ嬢も連れてきているのだ。


 アスカ嬢も、私のところに来ていた。


 私が、アスカ嬢にこの周囲の地形ちけいや、注意ちゅういすべきところを、『データパッド(アリシア社製二九〇三九)』で地図を開いて説明の真っ最中まっさいちゅうであったためである。


 副長は、待機姿勢たいきしせいで、説明が終わるのを待っていた。


 アスカ嬢も、気づいてはいたが特に気にせず私の話をしっかりと聞いていた。


 そして、『データパッド(ハイライン社製二九〇三三)』でデータを受け取ったのである。


 「以上」と、私がいった。


 すると、アスカ嬢はくるりと後ろを向き、


「少しばかり、お世話せわになります。アスカ・アラ・ニスと申します」

と後ろにいたダイヤに、敬礼けいれいをしながら振り向いたのである。


 魅力が、とてもたかく、可愛く綺麗きれいなのは分っていた。


 隊長の私が見ているので、デレデレはしなかった。


「こちらこそよろしくお願いします。副長のダイヤ・カークランドです」と伝えるにとどめたのだった。


「隊長(私のほうに目を向け)引継ひきつぎよろしくお願いいたします」と、『データパッド(サイオン社製二九〇四〇)』を開いて、交代のサインを求めたのである。


 それに、いつも通りの引継ぎサインを行ったのであった。


 サインを受け取ると、くるりと振り向き自機の整備のほうに注力ちゅうりょくするべく、パートナーのシャライラ嬢と話しながらっていったのである。



 悪気わるぎで、聞いたつもりはなかったのだが。


「そういえば、君にはパートナーは居ないのかい」と、アスカ嬢に切り出した。


 すると、おどろくべきことが語られたのであった。



「はい、居りません、私のアラワシは魔業機マジックマシンですので」と隊長の私といえども、あやうく口がへの字に曲がるところであった。


 ギリギリ、押しとどめて、「魔業機で空中戦を行っていたのか、なぜそんな危険なことを……いや忘れてくれヒトにはヒトの事情じじょうがあるものな……」と、いいながら私は改めて、守らねばならないと心に強く誓ったのである。


 とそこへ、クララ嬢が下りてきた。


 クララ嬢も、『データパッド(シリウス社製二九〇四〇)』を持っていた。


「クララ何かあったのか」と言うと、


「いいえ、秘密ひみつです。こちらのデーターをお渡ししましょう」アスカ嬢の『データパッド』に、ケーブルラインの接続をお願いしていたのだ。


「何のデータでしょうか」警戒けいかいは、していないがクララ嬢の答えを待っていたようである。


「ここ数年間の隊長のモーションデータを、採っていたものですから」


「それで、秘密だったのか、いつの間に……」と、私はつぶやいた、今までそんな素振そぶりは見せ無かったのだから。


綺麗きれいな、モーションでしたので忘れることができませんでしたのでつい」と、ずかしそうにいったのである。


 それには、私も面食めんくらった。


 アスカ嬢は、それを了承りょうしょうしてケーブル(簡易通信で無く、重たい大量のデータを受け渡しする際には『チップメモリ』スロットと共通規格きょうつうきかくになっているケーブルをつなぐのが、一般的になっている)をデータパッドに繋いだ。


……


「ありがとうございます。クララさん」とにこやかに、笑ったのだ。


 それを見た上で、「先に上がってるぞ」と、クララに声をかけて、ワイヤードアンカーで一気にコクピットまで登った。


……


 ミヒャイルも一般的なコクピットシェルを持ち配列はいれつはタンデムになっている。


 一般的にはタンデム配置はいちが多いものの、並列へいれつ配置や分離式ぶんりしきも、ある程度ていどは存在する。


 先に入り、上部の搭乗口は開けておく。


 各種かくしゅスイッチを入れ、クララ嬢を待ったのであった。


 マジック・マシンは、通常パートナーと二人で運用することが前提ぜんていにはなっているが、先の魔業機マジックマシンだけは別だ、パートナー無しでも動かせる反面、装甲はんめん、そうこうが無かったり、パワーが少なめだったり、とほとんどいいところは無いのである。




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