第四節:公爵家

 この部隊の、地位層は私が下級貴族(子爵)の出身で一番高く、次いで元支部隊隊長ジーンも同様(男爵)で、ダイヤだけは一般市民の出身なのだ。


 公爵家が、いかに遠い存在かも知っていたのである。


 だから、手の届かない存在である事も、よく分っていたのである。


 それ以降、ダイヤから返信は無かったのだから……。



「封鎖するぞ……」と、いって。


 私が、無線封鎖しようとする。


 その瞬間であった。


「そのお嬢さんを、ウチであずかれねえか、交渉してみる!」と休憩中のジーンが、通信に割り込んできたのであった。



「さっきの話は聞いてたか? 恨まれるぞ絶対」と、無線を切る前に少しいったのである。



「少し伝手つてがあるんだ、任せちゃぁくれないか」というのである。



「任せたが、食い下がり過ぎるなよ」と、返答するしか無かった。


 どんな、伝手なのかは分からないので、任せるしか無いわけだ。



 そして、病室前に戻って来た。


 先程から、すでに十分程度じゅっぷんていど経過けいかしていた。


“コンコン”


 とノックをする。


「どうぞ」と、部屋の主が答える。


 部屋に、入るとアスカ嬢が居ないのを確認した。


 すると、もう帰ってしまったのか……早いなと思い、花瓶をベッド脇の小テーブルを兼ねた収納棚しゅうのうだなの上に置くのだった。


「何か、電話でね、呼び出されたみたいなの」と、コマチ嬢が心配そうにいった。


「そうなのか」、近くの空いている椅子イスに腰かけ、まだ鞘袋さやぶくろと、その中の太刀が置いてあるのを、確認したのであった。


「すれ違わなかったから、国際電話のほうか」と、つぶやくのであった。


「上層部かな」と、続けたのである。


「たいちょうー、何かやってるんじゃないでしょうね、あの子を巻き込んだら……」と、すごにらまれているのは分かる。


 痛いほどに。


「あの子はノーマルなんですからね」と、明後日あさってのほうに目をのがしていた私が、コマチのほうに振り向いた。


「なんだって? ノーマルの太刀さばきでは無かったぞ、それにあのバランスのとり方も……あれはナイツの?」と、いう。


 すると、コマチが泣き出しながら小さい頃の話をしてだしていた。


 概要がいようはこうだった、ノーマルだが剣線けんせんを見せられた公爵が武人ぶじんに手ほどきをこうじて見たところ。


 武人のほうが「天性てんせいのものです。私ではかなわないでしょう」といったそうなのである。



 私にも、少しは覚えがある、ノーマルなのに太刀筋が良く、かなわないとまではいかなかったが、筋が良かったヤツのことを。


 そうして、十五分ほどすると、コマチは泣き止んだが、顔になみだあとが残っていたので、顔を少しいてやった。



 すると、少し強めに


“ゴンゴンゴン”


 とノック音がした。


 アスカ嬢では、なさそうだったので直ぐに席から若干離じゃっかんはな太刀袋タチブクロを体でカクしに行った。


 それを確認した、コマチ嬢が、


「どうぞ」と、部屋の主として返答をする。


 すると、正騎士団グランシスディアラインのナイツが三人程来ていた。


「珍しいじゃねーか、こんなところに来るなんざ!!」と私のほうから話しかけた。


 ほぼ牽制のつもりで、おくすることもせずにいったのだが。


 それは、無視された様だった。



「公爵家の方が来ているとのホウを受けたのでご挨拶アイサツに参ったのだがもう出られたのか?」と、無視ムシついでに、のたまったのだ。


「大統領の腰巾着こしぎんちゃくは、帰りな!!」と威嚇いかくに切り替えた。


 すると、ようやく反応があったのである。


中級貴族ちゅうきゅうきぞく愚弄ぐろうすると、目にもの見せてくれるぞ小僧コゾウ」と、いったが、その次の瞬間しゅんかん



“ドバン!!!”



 と、いういい音がして。

 正騎士団が三人とも、横壁よこかべにたたきつけられ動けなくなっていた。



「ぐぬぬ」と、隊長格が、頭を上げ様とするが上がらない。


 他の奴らは、ピクリとも動かなかった。


「我が隊の、隊長を愚弄ぐろうすると、貴様きさまらをはりつけにするぞ!!」と、すでに病院の壁にはりつけにしながらアスカ嬢が静かに扉を開けたのだ。



「これは、斥力せきりょく……」と、アスカ嬢のほうを見た、するとアスカ嬢の側から、


「一時期お世話になりまする」と、ていねいに一礼される。


 私に、向かっていったのだ。


 コマチは、口をパクパクと金魚の様に動かしているのみだった。


 いつ倒れても、おかしくないなと私は思ったのである。



「わかったよろしく頼む」と、アスカ嬢のほうに向き直して、いったのであった。


 グランシスディアラインの連中は、皆指一本も動かせない状態でいたのだ。


 三分経過がする。



 正騎士団最後の一人、隊長格が気を失ったのを確認してから、ナースコールを押した。


 ストレッチャー三つと共に、である。



「流石だな」と、私がいった。


「いいえあれ位の芸当げいとう、言うにおよびません」と、眉一まゆひとつ動かさずにいったのであった。




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