あさ、新たな冒険とふたり

シロサイが探検隊に行くと言う事は、もう私と会えなくなってしまうということ、それを私は分かっていたつもりだった。でもそれが本当に分かってきたのは博士と2人で話している時だった。

「結局お前はシロサイに探検隊に行って欲しいと思っているのでしょう?」

「それが姫の幸せならばな、隊長も立派な人だ、きっと姫も上手くやっていけるさ」

「それなら今日が最後のチャンスなのですよ、クロサイ、お前の想いを伝えておくのです

『私は本当に貴女が好きなんだ』と」

博士は私には出来なかったことですから、と自らを悔い改めるようにクロサイに伝えた

「勿論だ、だが最後じゃない、姫にはまた会える、案外そう遠くない内に会えるかもしれないぞ?」

「そうかもしれませんね、でも…


例え少しの間でも別れは永遠のものですから、本当に勇気を出せるのはあの時だけなのですよ、クロサイ」




私は

姫に好きだと伝えた

心からの愛を伝えた

これが最後になると博士は言っていた

「クロサイ」

姫が口を開いた

「私も貴女が好きですわ、クロサイ

共に生きる仲間としてでは無く、

一人のフレンズとして、あなたが好き」

姫の口から放たれたその言葉はあまりにも真っ直ぐで、正直で、隠れた気持ちなど無いような、そんな言葉だった。

「そりゃもちろん過保護な所やちょっと考え無しに行動しがちなところや、ちょっと感情的になり過ぎるところもありますけど…!」

姫は照れたように付け加える、その戸惑いすらも今の私には何物にも変え難い幸福だ

「それでも、クロサイと一緒にいた時間は間違いなく、私にとって幸せな物でしたもの、貴女もそうでしょう?」

「勿論です姫ぇぇぇぇぇぇ!!」

私は感情の任せるままに姫に抱きついた。これ以上ない幸せを私は肌で感じていた

「良かったです姫…本当に…本当に…

もう会えなくなるから最後に思いを伝える事が出来て…」

「クロサイったら…」

私は溢れかけていた涙を拭って、いつものように、姫を守る騎士の目を整えた

「失礼しました…しかしこれで!私もあの日の様に姫を送り出す事が出来ます」

「気にしすぎですわクロサイ…永遠の別れという訳でもありませんのに…ところでクロサイ?ちょっといいかしら?」

「はい?どうしました姫?」

「いえ、ちょっと気になることがありまして、

……コノハ博士、そんな所から見てないで出てきたらいかがですの?」

シロサイの視線の先には影から見守るように頭だけ出している博士の姿が見えた

「どうせ博士がクロサイに何か吹き込んだのでしょう」

ずいと身を乗り出して博士を問い詰める

「ふ、吹き込むだなんて失礼な言い草なのです」

博士と負けじと反論する

「私は警備隊のまとめる係としてクロサイに素直になるよう背中を押してやっただけなのですよ」

「素直になれって…まあお互い様ですわね」

「姫?」

「実は私、探検隊でミミちゃん助手に会いましたの」

「へ?」

博士が目を丸くする

「ミミちゃん助手言ってましたわよ?博士にはもっと素直になって欲しいと」

姫には笑顔が見えるが、あの笑顔は攻撃的な笑顔である、とクロサイは悟った

「えっいやその違うのですシロサイ」

博士が明らかに動揺しているのが分かる

「何も違いませんわ、博士、あれだけ思い合ってる人がいるのに本当の気持ちを伝えようとしないなんて助手が可哀相ですわ!クロサイだって出来ましたのに」

「姫、ひょっとしなくても馬鹿にしてません?」

「だって仕方が無いのですよ!私には警備隊のまとめる係としての仕事があるのです!そりゃ私だって……少しはミミちゃん助手と一緒にいたいと思うことはありますが?仕事があるから?」

「そんなもん他のフレンズに任せればいいのですわ!!」

「姫ー!?」

「そもそも!人の指標になるなら誰よりも幸せで無ければいけませんの!隊長さんだってそうでしたわ!沢山の方をまとめあげていてもとても幸せそうでした!なのに博士ときたら…はいこれ!これ読みなサイ!」

そう言うと姫は懐から封筒を博士に差し出した

「なんですかこれは…手紙?えーと…

拝啓、アフリカオオコノハズク様

探検隊隊長、○○より折り入ってお願い申し上げます…これは招待状ですか」

「そうですわ!ミミちゃん助手は博士にも探検隊に来て欲しいからとわざわざ用意していたんですのよ!」

「…そうですか……分かったのですよ、では…と言いたい所ですが、その前にそこでぶっ倒れてるクロサイを何とかしてやるのです」

「へ?」

シロサイが視線を向けるとクロサイは確かにその場、悔いの無いような笑顔でぶっ倒れていた、

「クロサーーイ!!?」

一度その場はお開きになり、クロサイは警備隊のベットに運ばれ、それから何時間かが過ぎた


「いや…すみません姫」

目を覚ましたクロサイの開口一番の言葉がそれだった

「最後まで私は姫に迷惑をかけてばかり…」

「気にしなくていいんですのよクロサイ、いつも助けられてるんだからこれくらいさせてくださいまし」

「面目ない…安心したのと驚いたのとびっくりしたのと仰天したのがごっちゃになってしまって」

「後半は全部同じ意味ですわ…」

そう言いながら姫はナイフを持ち、慣れた手つきでリンゴの皮をめくっていた

「姫…いつの間にそんな技を」

「今日探検隊で隊長さんに料理を頂きましたの、これもその時教えてくれたものですわ」

「へえ…ヒトとは本当に器用な動物ですね、姫にもふさわしい…そうだ姫、最後に一つだけ、お願いを聞いて貰ってよろしいですか」

「お願い?一体どうしましたの?」

クロサイは布団から体を起こして言った

「私とつきあって欲しいのです」

「“つきあう”ですか、でもクロサイ、体は…」

「大丈夫です、姫の看護を受けたならもうこの通り!」

そう言ってクロサイはいかにも元気!というポーズをいくつか取って見せた。

「では姫!外に出ましょう!」

クロサイはシロサイの手を握り、走り出した


外は暗闇、クロサイが四体のラッキービーストを連れてきた。ラッキービーストの目が光り、クロサイとシロサイは薄い膜のようなもので包まれた。

「私が姫にしてあげられることは…これくらいしかありませんから」

クロサイはそう言って乾いたように笑い、槍を構えた

シロサイも同じように槍を携えた。

それはこれから“突き合う”のだと、2人に分からせる、最後の思い出を作るために




次の朝、隣のベッドから姫は消えていた。最後に私が姫に投げかけた言葉が「いつかまた会いましょう」だった事は覚えている。小綺麗に片付けられたベッドと整えられた寝室はその部屋にいた者が如何に品性の整ったけものであるかを知らしめる、だが今の私には、愛する人がそこにいたという証明だけで充分であった。


「え〜っと、そういう訳だから今日から私がまとめる係になります、あとシロサイが探検隊の方に行っちゃったので、チーム姫騎士はひとまずがおがおこんこんと合併って事で、最近は平和だからセルリアンとかは居ないと思うけどぉ〜、もし何かあったら一人では動かずに必ず二人以上で行動してね、じゃあ解散!」



「新しいまとめる係にライオンを選んだのは良いですけど、上手くやっているでしょうか、今更ながら不安になってきたのです」

「ライオン様なら上手くやってくれますわ、これまでも立派に警備隊を支えていましたから

それに…ふふ、」

「どうしたのですか?」

「いえ、クロサイがちゃんと、私に素直な気持ちを伝えてくれたのが嬉しくて、“また会いましょう”って、私を迎え入れてくれる人がいるということは、こんなにも心強いものですのね」

「確かに…そうかもしれませんね」

「そう言えばミミちゃん助手も言ってましたよ、博士のことが大好きだって」

「…………………そうですか」

ふたつの白が朝のサバンナを歩く

向かう先は新たな出会いと新しい冒険である



クロサイ

シロサイは元気にやっていますわ

暫くは会えない日々が続くかもしれませんが

きっと忘れてしまうことは無いでしょう

だってあなたと同じように

いや

きっとあなたよりも


あなたに恋をしていますから







おしまい

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