深夜、たまにはふたり
サバンナでの夜、クロサイが恋を知ってから数時間後の事。
ふたつの影が音も立てずに飛び回り、ふたつの音が同時にずさりと鳴った、地面に足を着いたのだ。今や線路を通る列車もない。なら彼女らを阻む物など何も無いと言わんばかりに風が吹いている
「久しぶりですね、博士。私が探検隊に行く時見送ってくれた以来ですか?」
一人が軽く会釈し、言葉を交わしながら近寄っていく。
「久しぶりですね、助手、いやなに会いに行こうと思えばいくらでも時間は作れたのですが」
「分かってますよ、嫌われてないことくらい。『会いたい』なんて手紙で送ってきて、博士は相変わらず素直じゃないのですよ」
「余計なお世話なのですよ、全く…」
「…?」
今日の博士はいつもより振り切ったようである、と助手は少し眉を細めた
「博士…何かいい事でもありました?」
「分かりますか、つい先程迷える子羊の背中を押してやったのですよ、博士は警備隊のまとめる係ですから、助手がいなくたって一人でやっていけるのです」
「そうですか、それはよかったのです、」
「ええ、そうです助手、ジャパまんでも食べますか、リラックス味の。ライオンの分からちょいしてきたのですよ」
「奇遇ですね博士、実は私もマイペース味のジャパまんを用意してあるのですよ、ツチノコが酔いつぶれて寝てるとこからくすねてきました」
「ふふっ」
博士が少し口を開いて笑った
「ふふっ、我々は本当に似た者同士ですね」
助手もつられて笑った
「キャラがどん被りとはよく言ったものなのです」
2人でジャパまんを手渡し、各々が口に運ぶ。そこに会話こそ無かったが、とても楽しい時間であったことは言うまでない
「ふう、ごちそうさま、なのです」
「ごちそうさま、なのですよ」
「助手」
?
改まって助手の名前を呼んだ
「探検隊での暮らしはどうですか、警備隊より楽しいのですか?」
「ああ…悩ましい所ですね、一長一短でしょうか、探検隊は今まで見たことも無い道具やフレンズ、文化を知る事が出来ます。ですが…」
「ですが?」
「私の元に博士がいてくれないのが残念ですかね、それさえあれば完璧なのですが」
「ふふっ、逆ですよ助手、博士の元に助手が集うものなのです」
「そうでしたか、それは失礼、」
それから2人は少し喋った。探検隊の事、警備隊のこと、お互いの事を。
太陽が逸れ、少しだけ明るくなってきた頃に
「おや、もうこんな時間ですか、では博士、私はこの辺で失礼するのですよ」
「もう行ってしまうのですか…いえ、探検隊の仕事がありますものね。」
「ええ…でも博士、次に会うのはいつにするか決めておいた方が良さそうですね、また博士が手紙を送ってくれてもいいのですけど」
「あんな小っ恥ずかしい手紙はもう御免なのですよ」
「そうですね、なら…今日は半月、なので
“月が丸くなる夜に”また合いましょう、約束ですよ」
そう言うと助手は持ち前の大きな翼を広げ、朝焼けと共に空へ消えていった。
「助手」
呼びかけてもその声が届く事は無かった
距離を取られても、合うことが無くなっても心で繋がっているという安堵と、いつまでもそばに居たいという欲望、それを言葉に出来なかった後悔が混じりあった感情
今、そんな顔をしていた
助手は結局最後まで博士の本当の言葉を聞き出せなかったのかと残念気な顔をしていた。もっとも朝日も翼に阻まれそれを見ることが出来るものはいないのだが
助手の心中にあったのは、公開も失念も無い、いつか、いつか大切な人の心を開いてしまいたいという感情
“ 行かないで欲しい”でも
“ 私も一緒に行きたい”でもいい、
心からの本当の言葉を聞きたいという感情
そんな事を考えながら風と共に空を駆ける
サンドスターを散らしながら朝を進む
博士、きっとご存知でしょうが、私はずっと
貴女に恋をしているのですよ
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