探検隊、 帰路と夕暮れにふたり

サバンナで一夜を過ごしてから数日後

太陽が少し傾いた午後三時

私は招待状を頂き、探検隊の施設を見学に来ていました。

「今日はよろしくお願いしますわ、隊長さん」

「ようこそシロサイさん、こちらこそよろしくね」

そう言うと隊長は頭を少し下げて会釈をした。

隊長さんは前にも少しお会いした事があるのですけれど、私たちフレンズと比べるとどうしても小柄で頼りない印象があります。しかし隊長さんは私達に的確な指示を出し、私達を輝かせてくれるお方です。

「あっちがベットで、こっちが広間、向こうにツリーハウスがあるんだ、気になる所とかあったら見に行ってくるといいよ、警備隊の知り合いとかもいるだろうし…あっこらドール、つまみ食いしちゃ駄目だよ」

隊長は視線の傍らでジャパまんに手を伸ばしたドールを静止していた。

隊長はこうして毎日沢山のフレンズと関わりながら生活している。それはとても立派な事だけれど当の本人はそれを誇る様な事はしない。とても素敵な人、だからこそ皆この人について行きたいと思っているのでしょうね

「ああごめんね、ドールがちょっと」

「大丈夫ですわ、隊長さんも毎日大変ですのね」

「みんな元気だからね…流石にギンギツネが二階でキノコを栽培しだした時は不味いと思ったけど」

「それは…大丈夫ですの?」

「なんとか」

隊長はその時の事を思い出したようで苦虫をすり潰したような顔をしていた

「……ねぇ隊長さん、少しツリーハウスの方に行ってみたいんだけどいいかしら」

「ツリーハウス…大丈夫だよ、掃除もしてあるし…僕は部屋で資料をまとめてるから何かあったら来てくれたら」

「分かりましたわ、隊長さん」

そう言って私は部屋を出て、少し歩いた所にあるツリーハウスへ向かいました。

階段がすこし窮屈に感じましたが、ヒトの体は便利なもので、難なく登りきる事が出来ました。

さて、と、息を整えてからツリーハウスの扉を開くと

「おや、お前にも招待状が来たのですね」

「ええ、お久しぶりですわ、ミミちゃん助手、フクロウは木の上にいることが多いと聞きましたので、ひょっとしたらここにいるのかと」

「なかなかの推理なのです、探検隊風にいうならはなまる、ですかね。ところで今日はあの黒いバカは居ないのですか」

「黒いバカ…ミミちゃん助手、クロサイをそんな風に言わないで下さいまし、確かに少し過保護で空回りする所もありますけど、クロサイは私の大切な仲間ですわ」

「それは失礼したのです、そういえばシロサイ…最近、博士の調子はどうですか?」

「コノハ博士の?特に変わりは無いように見えますけど、なんなら最近うるさいのがいなくなってやりやすいとか」

「それなら良かったのです。いや博士ったら私と一緒に探検隊に行きたがっていたのに変な意地を張って、まとめる係の仕事があるからとかなんとか言って、でもまあ、そうやって意地を張ってるうちはまだ素直になれていないみたいですね、博士も」

「随分な物言いですわね」

「随分な物言いと言いますか、私としてはむしろ博士に正直にものを言って欲しいのですよ。」

「博士が私を好きな事なんてとっくに分かってますし、私だって博士が好きです。博士が望むなら番にだってなってもいいんですけどね、ああ見えて結構強情なのですよ」

「…え?番ってそう簡単になるものですの?」

「言ってしまえばなんですが私のこれからの人生、博士以上に気が合うフレンズに出会える気がしませんから、むしろ何回生まれ変わったら博士のことを忘れられるか気になるくらいですよ」

……………

…これが一途な愛ってやつですの?

「そんなにコノハ博士の事が好きなんですのね」

「ええ、博士と色々してる時は最高に楽しかったですから、色んな調味料を探したり、アライグマをからかったり、チョコをプレゼントし合ったり…」

「そんなに大事なら会いに行ってあげたらどう?」

「会える分には会えますよ、現にこの前の夜だって会いました。あのヒトは優しいですから、ピクニックをこっそり抜け出しても見て見ぬふりしてくれますし、ログインボーナスの招待券ちょろまかしても気づきません」

私はそれはそれでいいのかと探検隊の意識を少し疑った

「あと普通に休暇もくれます、事前に申請すればですけど」

「色々凄い所ですのね、探検隊って…」

「ええ、ヒト文化ここにありです」

「まあ…探検隊に入ったら多くの事を学べそうではありますよね…」

「そういうシロサイはもう来るのを決めたのですか?」

「いや、私は見学ですわ、招待状が来たから悩んでしまって」

改めてツリーハウスの周りを見回す、視界には今まで見たことの無いようなものばかりが並んでいる

「……思う人がいるならあまりおすすめはしないのですよ、あなたにもいるでしょう?」

「思う人…ですか」

「ええ」

「……うん、決めましたわ、隊長さんには悪いですけど、今回は保留にさせてもらいますわ」

「1度帰ってよく考えるといいのです、きっとあの黒いバ…無鉄砲が貴女を待っていますから」

「…………まあ、今日ミミちゃん助手に会えて良かったですわ。本当にありがとうございました、このお礼はいつかー」

「今、なのです」

「今?」

面食らった表情で目が丸くなる

「ええ、まあそう難しいことではないのですよ、この手紙を私の“ 思う人”に」

そう言って助手はどこからか手紙を取り出しシロサイに手渡した

「……ええ、」

「宜しくお願いしますね、大切な人が大好きと言っていたと伝えて下さい」

もはや惜しげも無い愛の告白である

それを当人の前で言っているのか

とシロサイは思った


隊長に軽く挨拶をして、一度考える旨を伝え、お土産のジャパまんとフォトを抱え、その場を後にした。


思えば私の人生は出会いに溢れた人生だったと思い直す。クロサイ、スマトラサイと共に誇りのため戦い、えんちょーやサーバル、カラカルと一緒にセルリアンの女王とパークを守るために戦い、警備隊としてパーク開園のために戦い、これからは探検隊として皆を守るためにに戦おうとしている。それだけの出会いと別れの中で確かにクロサイがいた。今思えばそれはどれだけの奇跡なのだろうとお土産のジャパまんをかじりながら考えた

今まで1度も考えたことの無かったこと。

1人のフレンズを心から愛するという事。

そんな事を警備隊拠点に帰るまでの旅路、ずっと考えていた


「姫ー!!」

気がつけば遠くからクロサイが私を呼ぶ声が聞こえる

声の向くほうを見れば案の定クロサイが立っていて、こっちに駆け寄ってくる。

「お帰りなさいませ姫!お怪我などはございませんか!セルリアンにでくわしたりは…」

「大丈夫てすわ、クロサイ。まったく心配性なんですから」

「そうですか…それならよかったです…」

クロサイの様子がおかしい

それもまた、長く共に居たシロサイだからこそわかる変化であった

「クロサイ、私のいない間に何かありましたの?」

「いっいえ!何も…ただいざ伝えるとなると緊張してしまって…」

伝える?

「ゴホン」

わざとらしい咳き込みをしたその次の瞬間であった

「……姫!!唐突ですけど!!

私は!クロサイは!貴女のことが大好きです!ずっと前から!貴女に恋をしていたんです!!」

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