駅長室、昼過ぎにふたり
サバンナで一夜を過ごしてから数日後、
私は警備隊の
コノハ博士は私を待っていたかのように出迎えてくれた。
「そろそろ来るとは思っていたですよ、クロサイ」
駅長室にはもとより携えてあった幾つかの本棚に博士がパークスタッフから譲り受けたと思われる本が多く並べられている、その内容は各動物の特徴を纏めた本やヒトの文化や特徴、歴史について記された本など種類は多義にわたる
「ところで今日はシロサイは居ないのですか」
「話が話だからな、流石に姫も一緒という訳にはいくまい、それに…」
「それに?」
「今朝姫に探検隊から招待状が届いたんだ。正式に隊員になってくれないかと、まだ入隊を決めた訳じゃないが1度どんなものか知りたいと言ってな、朝から出かけてるんだ」
「招待状ですか…もとより我々のリーダーは探検隊の副隊長、既に我々全員探検隊の隊員のようなものだと言うのに」
「だがそのお陰で今日こうして話す時間が取れた。それに探検隊と関わる事はそう悪い事でもない」
「ほう?」
「この前姫が探検隊とちからくらべをした時などとても楽しそうにしておられた、今回の招待を機にそういった機会が増えるのなら私も嬉しいしな。」
「………クロサイ」
「どうした?」
博士が睨む様な目でこちらを見つめている
「……もしお前にも招待状が届いたらどうするですか?」
少しも悩む素振りを見せず
「私は何処へでも姫と共に行きましょう」
「…………そうですか」
「なんだか物言いたげな顔だな、好きなフレンズと一緒にいたいと思うのはおかしな事では無いだろう。」
博士は依然として口を噤んだままである
私は続けた
「そういえばミミちゃん助手にも招待状が来たそうだな。この前ピーチパンサーに探検隊で頑張っていると話を聞いた事がある」
「……クロサイ、その辺にしておくのです」
「………そのとき隊長が言うには博士にも招待状を出していたと…」
「クロサイ!」
少しだけ、ほんの少しだけ博士の声に怒りが込められていた
「!」
「私には警備隊のまとめる係という役目がありますから、流石に2人とも抜けられてしまっては、おまえらが可哀想なのです」
「…すまない」
私はその先を口に出す事をはばかられた
「まあ、こんな事を言うためにお前も来たのでは無いでしょう、本題に入るのですよ。」
博士は細く黒い筒を取り出し、車輪の付いた白い板と、一冊の本をか用意し、予め付箋の貼られたページを私に見せてくれた。
私は文字は読めない、だが書いてある事は大方理解出来る、博士が前もって絵文字を多用した本を用意してくれたのだろう
「まあ…恋という物はこの…ヒトの体を得て初めて捻出された物と言えますから、混乱してしまうのも仕方の無い事なのです。」
そう言ってハカセはけものの頃には無かった五本の指を握りしめて窘めるように言った。
「そんな事は無いだろう、私が動物だった頃にも、番になるものや子供を持つ物は沢山いた。ライオンやキリン、ヌーにゾウだって、群れで活動し、子供を作っていたぞ」
「ヒトが番になるのは我々とは勝手が違うのですよ、確かに生命の本質として番になることの目的は未来のために子孫を残す事です。しかしヒトは、いや、我々は違います。」
「違う?」
「考えてもみるのです、我々フレンズはサンドスターによる単性生殖により生まれる存在なのです。求愛は勿論、交尾だって必要ないのですよ」
「サンドスターによる単性生殖…」
その時脳裏にはあまり宜しくないイメージが浮かんでいた
「言うなれば精子が動物、精巣がサンドスターという所…」
「我々と勝手が違う事はよく分かった。なら何故わざわざ番になる必要があるのだ?」
「そこがヒトの面白い所なのです、先程お前が言っていた…」
「一緒にいること」
「そう、それに尽きるのです」
私はあながち持論は間違っては居ないのだと心の中で自分の胸を撫で下ろした。
「ただ…ヒトは本当に不思議なものでお互いに愛し合う事、一緒にいること、そして愛を確かめ合うために交尾をする事…例え子孫を残す事が無くともひとつの番として成立する事があるのです」
「そして、我々フレンズもそのヒトの習性をなぞっていくもはや好きどうしであれば距離や種族の差異などヒトの前では何ら問題にはならないでしょう」
「子孫を残す必要が無くても交尾をするヒトは兎も角、我々に子供は出来るのか?」
「それはまだ実例が無いのですよ、あわよくばお前らに第一号になって欲しいですが」
「笑えない冗談はよしてくれ…」
「ま、まとめると番になるという意味自体は動物の頃とさほど変わらないと思ってもらって構わないのです、強いて言うなら子孫を残す為でなく、愛し合う為に、ですかね」
「愛し合う為に…か」
「お前がシロサイを愛し続けるのは造作もない事でしょう」
「勿論だ」
「ですがお互いに愛し合うためにはお互いが好き同士…つまり両思いになる必要があります」
「うむ」
「なのでクロサイ、お前はシロサイに愛を伝える為のメッセージを考えるのです!」
「メッセージ?」
「つまりは愛の告白です、お前がシロサイを愛していると言う事を言葉にして伝えるのです、それでシロサイもお前と番になりたいとなれば晴れて番成立なのです」
「成程、それなら造作もないな」
それなら私にも自信がある、と言う素振りで胸を叩いた
「…なら試しにやってみるのです」
博士の言葉をうけならやってやろうと私は
大きく息を吸い込み
「姫!!!!大好きです!!!!!」
…
……
………………
「まあ、そんな事だとは思っていたのです」
「駄目か?」
「駄目ですね、クロサイ、お前にヒト流の愛の告白をレクチャーしてやるですよ」
そう言うと博士はまた違う本を取り出し、おもむろにページをめくった。
「例えばこれ、『貴方は私の理想の女性です』」
「女性…?」
「ヒト風に言うところの異性の言い方なのです、
「成程、そして理想…まさに姫のことだな」
「ですがこれはあくまでヒト風の言い回し、フレンズには不適切です。我々風に言い直すなら…」
「貴方は私の理想のメスです、か?」
「貴方は私の理想のメスです……になりますね、これはやめておきましょう」
うむ、と私も首を縦に振った
「なら次はこれです、『毎日味噌汁を作ってくれ』」
「このミソシル…とは一体何なんだ?」
「ヒトの料理というものですね、お前もジャパリ夜市で食べた事があるでしょう」
「バレンタインの頃か、あの時はセルリアンが出て大変だったな。」
「しかしこれも難しいですね、料理のできるフレンズは数が少ないですし、フレンズでも簡単に作れそうな料理に言い直すなら…」
「毎日ジャパまんの海水漬けを作ってくれ?」
「それです」
「いやダメだと思うぞ」
「……確かによく考えたら駄目かもしれませんね、まあ良いでしょう、参考資料はまだまだあります、ほらこの『今日は月が綺麗ですね』なんて良さそうですよ」
「どうして月が綺麗なのが愛を伝えるのに関係あるんだ?」
「ヒトはそういう言い回しが好きなのですよ」
「そうか…」
「じゃあこの『私と付き合ってください』は」
「槍で突き合うとは私達にピッタリではないかこれでいこう」
「意味が違うのです、これは…」
そんなやり取りを長い針がふた周りする程続け、気づけば外は赤くなっていた。
「…まあ結局は」
「ああ!やはり自分の言葉で愛を伝えようと思う、今日は世話になったな!このお礼はいつかさせてくれ」
「楽しみにしておくのですよ」
「それでは!もうじき姫が帰ってくる時間なのでな、これにて失礼する」
そう言うとペコリと頭を下げてその場を後にした。
博士はその姿が見えなくなるまでそこに立っていた。
「自分の言葉を伝える…ですか、本当に幸せ者なのです」
愛しの姫が帰ってくるという事が本能でわかる、理由などそこには無い。だが帰ってくるというなら迎えに出るのが従者と言うものだ
ああ姫、
今、私はあなたに恋をしています
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