第2話
飲み会とは別に、定期的に開かれる女子会がある。ほとんどが例の飲み会に参加しているメンバーで、話題はいつも同じだ。仕事の愚痴、コスメの話、彼氏の事、それから……
「気になる人はいないの?」
学生時代からの付き合いになる
由香のその優しさは好ましく思う。ただ、こういうときどうすればいいのかわからない。由香の優しさを無碍にしたくはないけれど、恋愛トークが絡む今回ばかりは答えられる気がしないから。
由香は恋に生きる女だった。いつまで経っても彼氏を作ろうとしない私の事を気にしているらしく、誰が格好いい、とか誰が優しいだとか、そういうプレゼンをしてくるようになった。例の飲み会の発端は由香と由香の彼氏で、私を飲み会に誘ったのも由香だ。
「うーん……」
いつもは誰かに話を振って無理矢理話題を方向転換させて空気になりきるのだけれど、今回は逃がしてくれそうにない。全員の視線が私に集まっていた。
「理想が高すぎるんじゃない?妥協しなきゃ」
「そうそう、私達だって我慢はしてるんだよー?」
「うん。やっぱり嫌な所だってあるし。妥協しないと恋人なんて作れないよ?」
「気になる人がいるなら自分からいかないと!」
言葉につまった私をみて、友人達が口々に私の恋愛観についてやんわりとダメ出しをしていく。
『嫌なら別れればいいのに』
彼女達の愚痴を聞くたびに思っていた。嫌だ嫌だといいながら絶対に別れない彼女達の事がわからない。妥協して我慢して、それが幸せだという感覚が私にはわからない。
彼女達がいつまでも恋人をつくらない私の事を理解できないように、私にも恋に生きる彼女達の事が理解できなかった。
こうやって押し付けられる恋愛観に感じるのは嫌悪に近い。けれど、この場でおかしいのは圧倒的少数派である私なのだ。
「あ、でもね、無理に誰かと付き合う必要はないんだよ?」
困る私に見かねたのか、由香がやんわりと口を挟む。多分、暴走を始め私を責めるような物言いになり始めた友人達に対する牽制。しかし、言葉に火がついた友人達は遠回しな由香の制止には気付かず、未だ言葉を重ね続けていた。
申し訳なさそうに眉を下げ私を見る由香が目に入る。何だかんだと付き合いが長い由香の性格は良くわかっている。友人達に格好の話題を提供した形になってしまった由香も、こんな集中砲火になるとは思っていなかったらしく、ひたすら困った顔でオロオロしていた。
目があった瞬間に送られてきた『ごめん』のアイコンタクト。そんな由香に私も苦笑いで答える。由香が悪いわけではない。ただ、私に対するダメ出しを続けている彼女達の食い付きを予測できなかっただけだ。
「えっと……吉野くんとは、最近よく話をする、かな?」
いつまでも止まらない追求に焦った私の口は取り繕う為にポロリと飲み会で仲良くなった人の名前を出してしまった。吉野くんも飲み会の初期メンバーで、人見知りの激しい私に対しても気さくに話しかけてくれた人だ。彼からは一切の下心を感じることもなく話しやすい。
多分、今知り合いのなかで一番『気になる』に当てはまるのは彼だった。恋愛だとは思わない。だけど、周りをよく見てよく気が付く彼に、人間として好感は持っていた。
苦し紛れな私の口から漏れた名前に、友人達の目の色が変わる。その雰囲気に圧され後悔しても、もう遅い。
「彼氏が吉野くんと仲いいから、私が話をしてみるね」
゛私が゛を強調して紡がれた言葉。暴走を続け吉野くんまで巻き込みかねない勢いだった友人達の話し合いは、由香が声を張り上げた事ででようやく止まった。
「ごめん」
帰り道。家の方角が同じ由香と二人きりになった瞬間に謝られた。
「愛衣の話を酒の肴にするつもりじゃなかったんだけど」
「わかってる」
あまりにも申し訳さなそうに謝る由香に思わず笑みがこぼれる。
ビックリするような暴走妄想トークで盛り上がっていた由香以外の友人はまぁ、自分達が楽しみたかっただけなのだろうけれど。由香が本当に私の事を考えてくれていたのは分かる。
「あのさ。もし愛衣が嫌じゃなかったら……ダブルデートしてみない?」
「え?」
「実は、彼氏と吉野くんと遊びにいこうか、って話があって……。向こうが友達つれてくるなら私も友達いてくれた方が楽しめるかな、って」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます