第2話

 食堂の方に向かうと、男の子―翼くん―が泣いていた。

 周りを見てみると、翼くんに他の男の子が1人、そしてその周りには昼食が散乱している。こぼしたのか?


「翼くん、シャワー浴びてから着替えてきましょうね」


 職員の人がそういって翼くんを男子側のお風呂場に連れていく。

 良く見ると、翼くんの洋服には何かが染み込んだ痕と、お味噌汁の具材のようなものがくっついていた。


 周りをもう少しの間見ていると、他の職員の人が翼くんの近くにいた男の子の手を引いてどこかに連れていっている。


 あの感じだと、男の子が翼くんにお味噌汁をこぼした、もしくは意図的にこぼした、っていうことかな? 謝らずにそのまま悪化した感じか……。


 とりあえず、掃除用具入れに入っている雑巾を取り出して床を拭く。誰かが転んだりするから危ない。


 いうもなら職員さんがいて代わったりするが、今は二人ともいなくなっている。常勤3人はいるはずなので、あと1人はどこかで用事があって離れているか……。


 とりあえず固まってるみんなに指示を出そう。


「みんあん、とりあえず手を洗って席に着いておいて。もし椅子が汚れてたりしたら教えて。交換するから」


 食堂の窓側には、大量の机と椅子が置かれていて、予備として使っているところを見たことがあるので、そのまま使わせても大丈夫だろう。


 一通り拭き終わる頃には、他の子は席に着いていた。

 男子側の洗面所に行って、雑巾用の場所で軽く洗って元の場所に戻しておく。

 いつもより念入りに手を洗ってから席につくと、ゆめさんが小声で「ありがとねー」と言ってきた。ちょっとドキッとした。


 そのすぐあとに職員がやってきて、各自食べ始めるように言われる。

 翼くんも戻ってきていて、他の服に着替えていた。けど、その目は少し赤くなっている。


 ゆめさんといただきますをして、ご飯を口に運びながら思い出す。

 あの時いた男の子は見たことがない顔の子だった。物心(前世の記憶)つく頃からいるのに知らないと言うことは、たぶん外から泊まりに来た人かな。


 この施設は、外からの受け入れもしている。短期から長期と幅広く、短ければ1週間、長ければ2ヵ月など、子供を預けることが出来るのだ。一日あたり300円台で、費用は食品しか必要ないのでお財布に優しくなっている、と前に外から来た人に聞いた。


 と、口のなかで違和感を感じた。

 苦い。今日の昼食にピーマン入ってる……。

 ちらっと隣を見ると、ゆめさんも苦そうな顔をしている。

 ゆめさんも気づいてこっちを見て、お互い苦い顔をしているのを見て可笑しくなった。


「ぷふっ」

「ふふっ」


 つい笑ってしまうと、ゆめさんも笑っていた。

 かわいい……ゆめさんあまり笑顔見せないから珍しさがある。あと、年齢は2歳しか変わらないけど大人っぽさがある。

 そういえば小学校どうしてるんだろ?


「ゆめさん、小学校ってどうしてるの?」

「小学校? ここで勉強してれば出席扱いになるんだよ~」


 なるほど。あの勉強で出席扱いになるなんてすごい楽だな。まぁ義務教育のみなんだけども。

 やっぱり、ゆめさんとは話しやすい。さっきの質問で、プライバシーについて聞いてる、だなんて勘違いをしない。本当に賢い。


 転生してる訳じゃないのに、話すのが上手い。才能なのかな。ゆめさんとかを見ていると、慢心せずに頑張ろうって思う。


 大きなアドバンテージがあるんだし、負けてられない。


 息を止めながら残りのピーマンを掻き込んで、飲み込む。


「どうしたの?」


 ゆめさんがそれを見て、不思議に思ったのか聞いてきた。


「ゆめさんには負けたくないなって思って」

「ふふっ、なにそれ」


 ツボにはまったのか、何度か「ふふっ」と笑っていたのが印象に残った。

 こんなお姉ちゃんがいたら最高だなぁって思った。


 ここ《施設》にいる人は家族のように思え、って言われたことがあったのを思い出した。

 そう考えると、やっぱりここは良い場所だった。

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転生したら安眠枕(人)になりました 凍てつけ @pocarice0228

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