転生したら安眠枕(人)になりました

凍てつけ

第1話

 ん、朝だ。

 職員さんが来る前に起きて、布団を片付ける。


 同じ部屋で寝ている翼くんはまだ起きていない。


「朝ですよー、起きてくださーい。朝ですよー」


 ここは廊下の一番奥の部屋なので、職員さんの声が遠くから聞こえた。

 遠くって言っても片側3部屋しかないけど。


 翼くんを起こさないように静かに部屋を出ると、他の部屋から出てきた先生と目があった。


「おはようございます」

「おはよう、かいと君。顔洗っておいで」

「はい」


 かいとというのは、僕が拾われたときに付けられた名前だ。最初は反応できないこともあったけど、今だと結構慣れてきている。


 廊下を少し歩くと、卓球台やマットが置いてあるプレイルームがあって、そこを抜けると洗面所がある。


 ……冷たい。でも目が覚める。


 掛けてあるタオルで水気を拭いて、プレイルームに戻る。

 部屋がある場所以外に、ソファーと本棚が置いてある場所があって、僕は大体そこで時間を潰している。


 見ると、僕より先に起きていた河野くんが目覚ましTVをつけていた。


「おはよう、河野くん」

「んー」


 朝の河野くんは大体こんな感じ。眠気が残ってるみたいで、良く船を漕いでいる。


 職員さんに予め頼んでおいた本をもらい、読み始める。

 外国の童話集で、転生してから読むようになったものだ。最初は読めなかったのに、数日頑張っていると段々読めるようになっていくのが楽しいので、色々な国の言語を勉強している。

 小さい頃の方が物覚えが良いのは本当だったみたい。

 それと、たまにくる職員の人で通訳をしていた人がいて、その人から発音やしゃべり方を教わっている。


 自動養護施設のような場所だけど、良い人が多くて助かっている。


 そうそう、今僕がいるのがその施設。親がいない子供や、家庭で問題があった子が泊まることのできる施設で、無断外出の禁止とかがあるけど結構充実してる。


 まあ中学卒業までしかここにいられないので、その前に里親を探す必要はあるんだけど……たまに来る大人の人が里親候補とか。まあどれも僕の里親候補っていう訳じゃなかったけども。


 里親候補が来ないのを良いことに、できる範囲で自由にやらせてもらっている。前世よりは充実している気がする。


「朝ごはんの準備ができたから食べましょう」


 プレイルームの扉からおばあちゃん職員が出てきて、食堂で手を洗う用に促す。


 気づいたら周りに起きてきた他の子達もいて、その子達の後ろについて僕も食堂にいく。

 中には走ろうとして怒られそうになって、はや歩きに変えている子もいる。


 いや、全員揃わないと食べられないんだけどね。


「おはよう、かいとくん」

「あ、おはようゆめさん。水出すよ」

「いつもありがとうね」


 挨拶をしてくれた人はゆめさんと言って、金属アレルギーがあるので不便しているらしい。らしいっていうか、不便なんだろうけど。

 それを知ってからは、近くにいるときには手伝うようにしている。

 この施設のルールで、ボディータッチはダメなので、手伝うのに不便なこともあるけども。

 いや、手伝うのに不便ってなんか変だな。まあいいか。


 他にも2つ大きなルールがあって、プライバシーを守ることと、「かいとくん、水止めてもらってもいいかな」「わかった」……まぁ、もう1つは職員さんがまた今度教えてくれるかな。正直覚えてないし。


「ゆめさん、手拭こっか?」

「ん? だーめ」


 適当なやりとり。毎日してるからお互い冗談だと思っている。

 それに、食堂で手を拭く時は使い捨てのペーパー? で拭くから、そんなこと出来ない。


 三列に並んだ机はいくつか繋がっていて、週に一回のペースで席替えをしている。お誕生日席は職員さんが座っている。


「今日朝のの当番は……かいとくん、お願いね」

「はい。……いただきます」

『いただきます』


 当番は職員さんの気分で決まる。やることは食事の挨拶と、食べた後の食堂の清掃……と言っても、軽く掃くだけなので楽。



「ごちそうさまでした」

『ごちそうさまでした』


 食べ終わってそう言うと、我先にと席を立ち食器を片し、洗面所ではを磨きに行く。

 みんなおもちゃや卓球、漫画の取り合いをしているのだ。僕は特に急ぐ必要も無いので、いつも一番最後に歯を磨く。


 卓球を打ち合う音や談笑の声が聞こえた辺りで食堂の掃除が終わって、手を洗ってから一息つく。


 前世よりは筋肉の付きや運動神経が良かったりする……というかゴールデンタイムを狙って運動しまくってる訳だけど……まぁそれでも、体格や体力で比べるとどうしても劣っているので、疲れてしまう。


「かいとくん、お疲れさま~」

「本当に疲れました。お茶ください」


 割烹着のおばちゃんがいたので、お茶をお願いすると出してくれる。


 冷えていて美味しい。


「ありがとうございます」

「はいはい」


 そういっておばちゃんはどこかに行ってしまった。

 なんおなくぼーっとしていたいので、食堂の端にある揺り椅子に座る。

 みんなが想像するような物ではなくて、球体の椅子を上から吊り上げて、そこにクッションを入れている感じ……まぁ心地がいい椅子ということだ。


 座って、ぼーっと休憩していると、ゆめさんが来た。


「かいとくん、ピアノ教えるよ。ほら、起きてー」

「あい……」


 ゆめさん、ピアノが弾けるので教えてもらっているのだけど、かなりスパルタなのできつい。でもその分身に付くものがあるので感謝の限りなのだけど、どうしても気後れしてしまう。


「じゃあ座ってー」


 男子用の部屋があるプレイルームとは食堂を挟んだ反対側に女子用のプレイルー見がある。プレイルームと言っても、あるのは本棚とマット、ピアノくらいだけど。


「よいしょっと」


 ピアノの前の椅子に座ると、隣にゆめさんが来る。

 これだ、これが気後れさせる理由。

 ゆめさん、距離が近すぎるのだ。


 前世でも今世でも、ゆめさんくらいまで近づいたことは無いので、いつも緊張してしまう。


 一つだけ年上だとしても前世を合わせればまだまだ子供にしか見えないはずなのに、恋愛対象も若返ったような気がする。


「じゃあ今日は――」



 1.2時間程練習して、色んな意味で疲れたあとは、勉強の時間がある。

 やるとしても日本語の読み書きなどの小学一年生にも満たない内容なので、適当にしている。


 職員さんたちも、僕が出来ることは知っているけど、特別扱いはしない決まりなので同年代と同じ授業を受けている。


 午前の授業が終わると、昼食の準備が終わっているので、それを食べるために食堂に行く。


「うああああん、ううっううううう」


 食堂で、なにかがあったみたいだった。

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