勤労感謝の日

今日は勤労感謝の日。


「日々の勤労に感謝ァ!!!」

「日々の勤労に感謝ァ!!!」

「日々の勤労に感謝ァ!!!」


工場では労働者の感謝の声が響き渡り、部品が高速で組み上げられていく。


彼らは労働できるという喜びに心を打ち震わせ、1年で最も熱い情熱を持って深夜0時から働き続けている。


過酷な環境にその場で倒れる者や泣き出す者が続出するが、彼らの手が止まることはない。

脱落者は速やかに現場から運び出され、作業は何事もなく継続される。


工場だけではない。

オフィスでは圧倒的な成長を遂げるモダンでイノベーティブな労働プロセスのスケーラビリティについて真剣な会議がノンストップで行われている。

ホワイトボードには莫大な数の付箋が現れては消えていき、議論は白熱し、時には乱闘が起きる。


その狂乱の様子をガラス越しに眺める者たちがいた。

白衣を着た年配の男性と、私服の若者が数人。


「社畜病だ」


年配の男性がポツリと呟いた。

若者の一人がヒィと悲鳴を上げる。

男性は説明を続ける。


「昔はな、毎日のように8時間働くって言うのが当たり前の社会だったんだ。中には10時間20時間働くなんてとこもあったらしい」


青年が拳を握り締めて叫んだ。


「そんな! なんて惨い! 一日1時間の労働でも僕なら耐えらません! どうしてそんな残虐な行為が世の中でまかり通っていたんですか!!」


若者の中にはボロボロと泣き出す者や、気分を害してその場を後にする者もいた。


年配の男性は問いに答える。


「仕方なかったのさ。当時は今みたいに高度なAIを搭載した産業ロボなんてなかった。一部AIによって自動化はされていたが、人間が労働するってのは当たり前の世の中だったのさ」


別の若者が挙手をして質問する。


「で、でも、今は労働なんてしなくても社会は成立しています。何故、彼らは労働をしているのですか?」


「身体に染み付いてしまってるのさ。働いていた頃の習慣がな。一種の依存症でな、労働を長時間行わないと精神に不調をきたすんだ。令和世代は程度の差はあれ誰もが社畜症だって話もある。ここはそんな人たちが治療を受けるための施設なのさ」


集団過密労働治療。

年に一度これを行う事で、ステージ5の社畜症患者の症状が大きく改善する事が分かっている。


「なんて気の毒な……」

「でも……この人たちの労働が無ければ今の社会は作られなかったって思うと複雑な気持ちですね……」


青年は涙を滲ませながら年配の男性に礼を言った。


「ありがとうございます。施設の見学に着た私達に詳しい説明をしていただいて。たまたま居合わせただけだと言うのに」


「たまたまじゃねぇさ。これが俺の『仕事』だよ」


そう言い残すと年配の男性は奥のスタッフエリアに引っ込んでいった。


「……行こう。見るべきものは見た」


青年がそう言うと若者たちはその場をあとにした。

それぞれの胸の中に複雑な思いを懐いて。


ありがとう先人たち。

ありがとう労働者たち。

日々の勤労に感謝!

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