戦争の始まり!

シオンは会場を去る前に、パーティーに参加していた者達に問い掛けた。


「皆様、お騒がせして申し訳ございません。聞いての通り、クロスハート公爵家はエトワール王国に戦争を仕掛けます。我が貴族としての矜持を傷付かせた為です。何年ものバカ王子のお守りに対する精神的苦痛は、計り知れないものでした」


シオンは優雅に、演劇でもしているかの様に大袈裟に手を広げて話した。


「1ヶ月後、残念ながら血の流れる戦争が始まります。皆様も【どちら】に付くのか決めてもらわないといけません!」


ざわざわっ

ざわざわっ


パーティーに参加していた他の貴様達も驚いた。所詮は他人事だと静観していたからだ。


「王家かクロスハート家か、1ヶ月後までに私設軍を寄越しなさい!ちなみに、私は中立は認めません!もし私が勝利した場合は、援軍参加者には今まで通りの権利を認めます。そして、敵対しても自らの忠誠心を貫いた事を認め、一部領地の没収と一部権利の剥奪に留めます。


ざわざわっ!

ざわざわっ!


「しかし!中立などという卑怯者は私は許さない!己の血と血でぶつかって着いた決着に、己の血を流していないのに、権利だけを主張する者を私は認めない!」


ここでシオンは間を置いて再度、言った!


「故に、中立と称してどちらにも援軍を出さない領主はその後に潰します!一族郎党、全て斬首とします!」


そんな!?

横暴だ!?


「あら?この国の貴族なら国の為に尽くすのは当然の義務でしょう?私が気に入らないのなら王家に肩入れして援軍を出せば良いだけでしょう?国の為に働かない貴族を私は認めないわ!」


シオンの圧倒的なカリスマ的演説にパーティー会場は静まり返った。そして、貴様達の内心ではどちらに付くのが得なのか、算段するのだった。



1ヶ月後─



「まずまず集まったわね~」


王都を目前に、シオンは軍勢を見て呟いた。

王国全ての貴族の内、1/3がシオンに付き残りの2/3が王家に付いた。


理由としては、シオンに付いても旨味が無いからだ。シオンが勝ったら【現状の権利】を認めるというもので、多少の報償金は出るだろうが、パーティーで見せた女傑を考えると、媚びを売っても、何も取り立ててはくれなさそうだからだ。しかし、バカ王子に付いて適当におだてれば色々と、便宜をはかってくれそうだと計算したのが大半だった。


それがシオンの狙いとも知らずに………


シオンに付いたのは、全てでは無いが愛国心のある貴族が大半だった。バカ王子が国を継げばエトワール王国がどうなるか心配だからと言うのが大きい。シオンはこれを機に、国内の民をかえりみないクズ貴族を一掃しようと画策したのだ。


これで安心して叩き潰せる!


王都に続く道は整備され、大人数での移動を可能とした。国王軍も城内を戦火に巻き込まない様に野戦での勝負となった。


軍を率いるのはレオンハルト新国王だ。元の国王様と王妃様は責任を取る形でレオンハルトに王位を譲って、王国の片隅で隠居した。



「1番隊!槍衾を構えよ!後列弓矢の準備を!敵をギリギリまで引き付けてから放て!」


シオンは次々と指示を出す!一方、国王軍は騎士団長が指示を出して動かしているので、軍の形にはなってはいる。しかし、欲に目の眩んだ烏合の衆である。動きは鈍い。逆にシオンのクロスハート連合軍は、シオンが中央の本陣にて総大将が指示を出しているで、動きは速い!


先に仕掛けたのは国王軍だった。民兵に指示を出し突進させる。一方、連合軍は全線に騎士団を配備して民兵は後ろに下げていた。


専業職業である訓練された騎士団は突っ込んでくる民兵を、一斉に弓矢の雨を降らせ数を減らして、抜きでてきた民兵を槍で突き刺し屠っていく。あっという間に、死体の山が出来上がる。


「降伏する者は手当てをしなさい!最初に民兵をけしかけ、安全な場所から自分の身を危険にさらさない!そんな卑怯者どもを許すな!遊撃隊!突っ込めーーーー!!!!」


お互いに正方形の形の陣形を取っており、騎馬兵が左右側面から突撃を開始した!


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「話しとちがっ、ぐぇっ!!?」


後ろの方へいた貴族達への直接攻撃に、陣形が崩れた。


「逃げるな!戦え!数はこちらが上だ!抑えこめ!」


腰抜けの貴族に仕える騎士達は、明確な指示が無く動けなかったが、隊長クラスが指示を出し持ち直した。この突撃で、レオンハルトの接近であったアルフォードは命を落とした。


「シオン公爵様!騎馬兵の突撃で相手の陣形を乱す事に成功しました!」


「ええ、見えています!持ち直す前に、第2波突撃ーーーー!!!!」


騎馬兵が突撃し、乱れた所に再度別の騎馬兵が突撃を開始した。シオンはそれと同時に、全線を押し上げ突撃を開始した。


すでに大量の民兵を失っており、兵の圧力は無く、敵の民兵から脱走者が出てきた。


「逃げる民兵は見逃せ!狙うは貴族とそれに連なる騎士団だ!」


敵の全線は崩れ、崩壊したかに見えた。しかし、王国騎士団長も王家に忠誠を誓った実績のある司令官である。自らの騎士団を展開し、敵陣深く入った連合軍を包囲殲滅しようと動いた!


「陣形の真ん中に、重装歩兵を配備していたのはこの為ですか!?流石は騎士団長だ!」


フルメイルの鎧に、鉄の大きな盾を持った歩兵は並の攻撃が通じず、勢いが止まった。


「シオン公爵様!まずいです!このままでは包囲されます!」


「慌てないで、騎馬兵を包囲の外に逃がしなさい!内と外から同時に攻撃を仕掛けます!」


「はっ!」


すぐに伝令が走り、シオンは後方に待機していた民兵に、包囲しようとする部隊の抑えをお願いする。


「ごめんなさい。あなた達は数を多く見せるだけに連れてきたのに………」


シオンは悔しそうに詫びた。


「シオンお嬢様、我々は逆に嬉しいのです!シオンお嬢様のお陰で、クロスハート領の民は近年飢える事が無くなりました。貴女のお役にたってみせます!」


民兵の士気は高かった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」


国王軍の騎士団も、民兵の気迫に気圧された。


「ぐはっ!?」


「シオンお嬢様の為にーーーーーーー!!!!!!!!!」


苛烈な民兵の攻めになかなか包囲網を完成する事が出来ずにいた。


「シオン嬢小飼の民兵か………しかし時間の問題だな。まだまだ兵力差はこちらが上だ!このまま押し潰してくれる!騎士団長!」


レオンハルトは騎士団長にトドメを刺すように指示を出した。


「重装歩兵の後ろにいる兵を動かして包囲網の兵を増員せよ!」


この指示に騎士団長は内心驚いた。バカ王子と呼ばれて久しいが、確かに重装歩兵の後ろの兵は遊んでいたので、左右の増援に適した指示だった。どうやらこの戦争で成長したようだと騎士団長は感じた。


「かしこまりました!」


騎士団長はすぐに指示を出し、奮戦している民兵を襲った。


「ここの指揮を頼みます!私は民兵の助けに向かいます!」

「シオン公爵様危険です!?」


「トップが身体を張らないでどうするのですか!」


シオンは外部層で戦う民兵を助けに、親衛隊を率いて突撃した。


「シオンお嬢様!?」

「ここは私に任せなさい!」


騎乗し、馬を巧みに扱いながら敵兵を屠ってい

く姿は、戦女神のように美しくみとれてしまう者がいたほどであった。そしてシオンの身体に攻撃がかすり、傷が付くと─


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!クソがーーーーーーーーー!!!!」

「我ら女神を傷付けた奴はどいつだーーーーーーーーーー!!!!」

「我らの女神を守れーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


連合軍全体の士気が上がり、数で勝る国王軍を押しかえし始めた。


「ちっ!忌々し!」

「国王陛下、一時的なものです。シオン嬢自ら全線に出て兵を鼓舞しています。それはもう余力が無いからです。すぐに息切れを起こします。それで一気に形勢が変わるでしょう!」


すでに半分ほどは包囲されつつある連合軍に、勝敗は決したかに見えた─





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