そして─

劣勢に立たされていた連合軍。そして勝利が目前の国王軍に突如、変化が起こった。


「た、大変です!連合軍の援軍がやって来ました!」


「何だと!?バカな!奴らにこれ以上の増援などあるわけが!?」


これに慌てたのは国王軍だった。突如やってきたのは騎馬隊であった!所属不明の騎馬隊は包囲網に突撃し、包囲網を分断した。そして、その騎馬隊がやって来た方を見ると、もっと多くの軍隊が近付いて来ているのが見えた。


「どこの軍隊だっ!?」


レオンハルトが叫んだ!


「あっ、あれは!あの騎馬隊の着けている紋章は隣国のシリウス王国の物です!」


!?


「何だと!内乱を機に隣国が攻めて来たのか!?」


確かにパーティー会場には他国の者が多く出席していた。この開戦日も知られている。


「いえ!?我々国王軍のみ攻撃を仕掛けています!クロスハート連合軍の味方のようです!」


バンッ!


目の前にある簡易テーブルを叩き付けるレオンハルト。


「我が国を売ったな?シオンめ!あいつこそ、正真正銘の売国奴では無いかっ!」


レオンハルトは怒りで気が狂いそうになった。


「国王陛下!まずいです!これでは我々が逆に包囲されていまいます!1度包囲を解き、こちらへ兵力を戻しましょう!」


騎士団長の進言にレオンハルトはわかっている!即座に兵を集めろ!と言いはなった。


攻めていた全線の国王軍も、敵の援軍に気付き後退していった。連合軍もそれに合わせて後退し、戦いは睨み合いになり、そして援軍が到着したのだった。


「援軍、ありがとうございます。オリオン・シリウス様!」


オリオン・シリウスは隣国の第2王子でありシオンの1つ年上の青年だった。


「シオン嬢には……おっと、今はクロスハート家当主でしたね。クロスハート卿の恩義に報いるため馳せ参じました」


「シオン嬢で結構ですよ。オリオン様!私が不甲斐無い為に民兵にも被害を出してしまいました。本当に感謝しています」


「これくらいどうと言う事はありません。それに感謝しているのは私の方です。数年前に我が国に流行った疫病を治してくれた貴女のお陰で、母と妹が救われました。そして数多くの民もです。これは恩返しなのですよ!」


オリオンは、連れてきた兵士達を見渡した。


「シオン様の為に剣を振るえる事を光栄に思います!」


「「「おおおおおーーー!!!!!!!」」」


一斉に声を上げる!


「ここにいる者達は、貴女の薬で家族を救われた者達なのです。本当はもっと多くの兵が志願したのですが、流石に本国を手薄にする訳にも行きませんでしたので」

「いいえ!十分です!重ね重ね、ありがとうございます!」


シオンは丁寧にお礼を言い、軍の編成を行うのだった。


「まずい事になりました。兵力差はこれで互角になりました」

「まだ負けた訳ではない!最悪、王城に撤退し籠城するしかあるまい。奴らに補給物質がそんなにある訳がないからな。撤退していくだろう」


レオンハルトは冴えていた。確かに行軍で急いで来たためシリウス軍には余り兵糧が無かった。


仕切り直しとなり、両軍とも緊張が高まってきた時、再度状況が変わった。


「あっ………ああ……そんな………」


国王軍の兵の1人が気付いてしまった。


「おいっ!どうした!?」


兵士が指を刺すと、シリウス軍が来たのと反対側から更なる援軍がやって来たのだ。


「たっ、大変です!更なる援軍がやって来ました!」


これから決戦という緊張感が高まった時にもたらされた凶報に、国王軍は浮き足だった。


「どこの軍だ!?」


少しして、軍旗を確認が取れた。


「軍旗の確認が出来ました!アルタイル帝国です!」


ざわざわっ!?

ざわざわっ!?


「どうして他国の!しかも2国の国が敵の援軍に来るんだよ!」

「知らねーよ!勝てるのかよ!」


アルタイル帝国の軍が来ると使者がシオンの方へ駆けてきた。


「シオン・クロスハート卿の助力にアルタイル帝国皇太子ベガ・アルタイル!参上致しました!」


シオンはベガに感謝とお詫びを申し上げた。


「まさか本当に来て頂けるとは思っていませんでした。本当にありがとうございます!」


「何をおっしゃられるのです。クロスハート卿のお陰で、我が帝国の水源地が確保され大勢の民が飲み水や田畑の水に困らなくなりました。ここで恩を返させて下さい!」


クロスハート領を山を挟んだ隣にアルタイル帝国があった。しかし、水の少ない土地であり何度もクロスハート領と戦をした仲であった。

そこで、シオンは水不足に悩む帝国に話しを持ち込んだ。


山の中腹にある水源を帝国側へ流れるように、両方の人材を交えての工事を行ったのだ。クロスハート領は水が豊富で水害の被害も度々起こっていたので丁度良かった。これで長年のいがみ合いが無くなり、両方の友好関係を築いたのだ。


「ベガ・アルタイル殿、遅い到着ですね。シオン嬢には我々シリウス王国がすでに到着し、連合軍の窮地を救った所です。アルタイル帝国の方々の助力は必要ありませんよ?」


オリオンは、にこやかな顔でベガに毒付いた。


「これはオリオン殿、確かに遅れて到着したのは一生の不覚であった。では、これからアルタイル騎士団の実力を御見せするのでオリオン殿は休んで下され。烏合の衆である国王軍など、我々だけで蹴散らして見せますので」


ゴゴゴゴッ!


二人の間に、不穏な空気が流れる。


「おや、言葉が難しかったですか?大事なシオン嬢の窮地に遅れてくる無能はやんわりと帰れといったのですが?」

「貴殿もわからないのか?スピード重視で来たせいで騎馬隊と軽装兵のみでバランスが悪いぞ?兵に多様な犠牲を強いるのは無能な指揮官であるな。我々は重装兵に工作隊など籠城された時の兵も連れてきたのだ。どちらが戦果を挙げられるかわかるだろう?貴殿の役目は終わったのだよ?」


ぐぬぬぬぬっ!?


両者とも嫌味を言い合う姿に、シオンは苦笑いしか出来なかった。そして、国王軍側にも変化があった。


「も、もうダメだ!」

「正規の騎士団が2国もいるんじゃ勝ち目ないぞ!」

「逃げろ!!!」

「負けても領地と一部の権利を奪われるだけとの話しだし、再起はある!ここは負けを認めよう!」


王家とクロスハート公爵家が始めた戦争は、国王軍が負けても、戦いに参加した貴族には過度な罰則が無いと最初に言ってあったため、命懸けで戦うという者が国王軍には居なかったのだ。アルタイル軍まで連合軍側に手を貸した事により、勝ち目なしと早々に脱走者が現れた。

それもシオンの計算であった。


「貴様達、逃げるな!戦え!!!他国に王家が攻め滅ぼされたら貴様らも破滅だぞ!」


声を高らかに叫ぶレオンハルトに、誰も足を止めなかった。唯一、騎士団長と親衛隊のみ国王陛下の側に控えて進言した。


「陛下、我々の負けでございます。籠城して敵の食糧を切らすまで耐えれば再起はあるかと………」


「黙れ!!!俺は負けていない!シオンなんかに負けていないのだーーーー!!!!」


子供の様に叫ぶレオンハルトに騎士団長は再度、進言した。


「王城には王妃様になられる御方もいます。危険にさらすおつもりですか!」


その言葉にレオンハルトは我に返った。


「クソっ!撤退するぞ!」


「御意に!」


瓦解した国王軍は一部は王城から離れて自分の領地へ戻る者や、王城の街へ逃げる者など様々だった。


「ちょっと面倒ね」

「確かに!」

「でもまずは王城を落として国内に連合軍の勝ちだと発表しないとな」


城攻めの為にシオン達は傷の手当てと、兵の再編成を行うのだった。



一方その頃─


急ぎ、城へ戻ったレオンハルトはリリスの元へ急いだ。最愛の人の姿を見ないと気が狂いそうだったのだ。


しかし、歴代の王妃の部屋の前に着くとリリス以外に誰か中に居るようだった。


「あっん♪気持ち良いわ♪貴方、最高よ!レオンの可愛い子供じゃイケなくて、ストレス溜まってたの♪」

「リリス様!リリス様!」


レオンハルトが命懸けで戦っているときに、リリスは顔の良い下男をつまみ食いしてたのだ。レオンハルトの脳裏にシオンの言葉が蘇った。


『そこの娼婦─』


レオンハルトの中で何かが弾けた。


バンッ!!!


ドアを蹴破って中に入るとリリスが驚愕した。戦っているはずのレオンハルトが居たからだ。


「レオン!違うの!?この混乱の時に襲われたのよ!」


必死に言い訳するリリスにレオンハルトは下男を斬り殺した。


「きゃっ!れ、レオンありがとう!」


血を浴びてひきつるリリスに、レオンハルトは剣を突き刺した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!」


「リリス………国王軍は負けた。俺はもう終わりだ………お前さえいれば良いと思っていたのに…………」


「れ、おん……助け……」


レオンハルトは血の涙を流しながら何度も何度も繰り返しリリスを刺した。


騒ぎを聞き付けて騎士団長が王妃の部屋に着くと、その惨状に目を開いた。


「こ、これは一体……!?」


裸の男の死体と、リリスらしき女の遺体を滅多刺ししているレオンハルトを見て恐怖を覚えた。


「………騎士団長か?俺には何もない。何も無かったんだーーーーーー!!!」


急に叫んだと思ったら持っていた剣で自分の心臓を貫き絶命した。止める間も無かった。


騎士団長は最後の忠誠とばかりに、直属の親衛隊をまとめ、連合軍へ降伏するのだった。


長い1日が終わりを告げ、レオンハルトの最後を確認するため王妃の部屋へ行くと、流石のシオンも吐き気を覚えた。しかし最後の役目と思い、レオンハルトの遺体を丁寧に埋葬するように伝えた。



数日後─


力を貸してくれた2国の軍にお礼をし、後日改めてお礼をする事で国へ帰って貰った。


国王軍へ参加していた貴族を召集し罰則を伝えた。元当主は引退し、こちらが指名する者を当主とする事。これには貴族達から猛反発があったが、シオンはすでに各領地の民衆に御触れを出して、領主が代わることを伝えた。


「別に良いのですよ?死にたいのならね?」

「そうやって強引に進めれば無用な敵を作りますぞ!」


シオンはそう言った貴族を愉快に笑って黙らせた。


「フフフッ、私が領主を変えるのは、無駄に高い税金を取っていた貴族の領地のみですわ。それに命の恩人に何て事をいうのかしら?死にたいならそのままその領地に居ればいいわ」


戸惑う貴族にシオンは続けた。


「無駄に高い税金のせいで領民は困窮し、先の戦で自分の騎士を出さず民兵を先に出して大勢死んだわ!貴方の領地の民はどう思うかしら?私を恨む者も居るでしょう。しかし、生き残った者が必ず言うでしょうね。俺達から最前線で戦わせられて死んだと………さて、死んだ民の怒りは何処に行くのかしらね?」


ワナワナ………


国王軍に参加した貴族の大半が震え出した。


「領地に戻って、家族が無事ならいいわねー?」


多くの貴族が膝を付き、慌てて帰ろうとした所で騎士達に阻まれた。


「王家の権威が失墜したのはお前達が好き勝手に民を食い物にしたからだ。私は多少の事なら目を瞑るが、私腹を肥やすしか能のないクズどもを許す気はない!」


玉座に座るシオンから怒気が発した。


「ノブレス・オブリージュと言う言葉の意味を胸に刻みなさい。貴様らは貴族としての特権ばかり享受し、義務を果たしていない。今まで虐げられていた民の苦しみを味わうがいい!」



こうして王家とクロスハート家の戦争は、国中の貴族を巻き込み、終結したのだった。







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