婚約破棄は、気高く美しく苛烈にするべきですわ♪

naturalsoft

良くある婚約破棄!

「シオン・クロスハート!貴様との婚約を破棄させてもらう!」


国王様主催のパーティーで叫んでいるのは、婚約者もどきのこの国第一王子レオンハルト・エトワールだ。んっ?【様】を付けろって?良いのよ。私の方が偉いのだから。


そして私はクロスハート公爵家当主シオン・クロスハートと申します。


今しばらくこのお話にお付き合い下さいませ。



国王様がまだ来ていないパーティーの初っぱなからこれですか?


正直、頭が痛いわ!こんなのが【契約上】の婚約者殿とは………


「レオンハルト・エトワール王子、理由を伺っても?」


レオンハルトは顔を歪めながら叫んだ!


「貴様はここにいるリリス・モリガンに酷い事をしただろうが!」

「レオン様………!私、怖くて……」


レオンに怖がりながらしがみつく、ピンクブロンドの小動物系の少女がいた。目ざとい典型的な女ですわね。こんな娼婦に私が【女】として負けるのは屈辱ですわね!(マジで!)



「王子、酷い事とは具体的にどういう事でしょうか?」


おいおい、酷い事ってなんだよな~


「黙れっ!貴様がリリスの持ち物を隠したり、ドレスを切り裂いたりしたのはわかっているんだぞ!さらに、リリスの命を狙った事もなっ!」


はぁ?何言ってんのこいつ???


「ちなみに、私がやったと言う証拠はあるのでしょうか?ここまで罵倒されて証拠がありません、その女の証言だけですと言われても納得出来ませんよ?」


どんどん私の目付きが鋭くなっていく。


「あるぞ!おいっ!アルフォード!」


アルフォードと呼ばれたのは、この国の騎士団長を務める者の息子で、レオンハルトの側近である。


「ドレスを切ったと思われるハサミがシオン嬢の机から出てきました。ハサミにはリリス嬢のドレスと思われる布地が付着していました!」


ざわざわっ

ざわざわっ


シオンは頭を抑えながら言った。


「………バカですの?そんなもの私が帰った後に誰でも入れる事が出来るではありませんか?それに凶器を自分の机に入れて置くなんて、余りにもマヌケな事を、この私がするわけありませんわ。私なら他人の机に入れますもの?」


うぐっ!とレオンハルトは言葉に詰まるが、続けて言った。


「そっ、そんな事を思い付くのは貴様だけだ!それにまだあるぞ!リリスの持ち物が盗まれた事件だ!」


事件ねぇ~?


「何が盗まれたのですか?」


まぁ、どうでも良いのだけれど………


「リリスが大切にしていた小物入れや教科書などだ!無くなるのは選択授業でいつも教室に居ない時に起こった。しかも、貴様が休みの日に限ってだ!どうだっ!?」


私は余りの事に脱力して膝を付いてしまいました。だってねぇ?


「………たかだか小物入れや教科書ぐらいで大袈裟な。そして、私が休みなのにどうして犯人になるのですか?」


脱力感に襲わて、膝を付きながらレオンハルトに尋ねる。


「休みと偽って、学園に来て誰も居ない教室から盗んだのだろう?わかっているぞ!」


私は地面が陥没するぐらいの脱力感に襲われ、両腕まで地面に付いてしまいました。


「私が学園を休んだ日は全て登城して、王妃様と面談しておりました。貴女のお母様である王妃様にご確認下さい………」


レオンハルトは脂汗をかきながら叫んだ!


「嘘をつくな!では、貴様以外の誰がリリスを傷付けると言うのだ!リリスはこの前、階段から突き落とされたんだぞ!?お前が嫉妬に狂ってヤッたとしか考えられないだろうがっ!」


知らねーよ!バカが!!!頭沸いてんのかぁ?


「もういいわ………時間を無駄にしたようね。ここまでこの私をコケにしたのですもの!王妃様との約束も破棄させて頂くわ!」


突然のシオンの怒気に辺りは静まり返った。


「母上との約束だと!?」


「ええ、バカのお守りはもう嫌だと何度も話したのですが、その度に土下座をされて見捨てないでとお願いされたのです。王妃様は自分の立場と状況を、しっかりとわかっていらっしゃるのにね~」

「貴様!俺がバカだと!?しかも母上が土下座など不敬にも程があるぞ!」


シオンはやれやれと、立ち上がり首を振って答えた。


「黙りなさい!我がクロスハート家の援助がなければ立ち行かないほど困窮している王家に、我が家に見栄を張ることなど出来ないでしょう?それに、賽は投げられましたわ!」


私はビシッと逆転裁判風に、バカ王子に指を差して高らかに宣言した。美しい金の髪を靡かせて、深紅の赤い色のドレスがフワッと浮かせた姿は、見る者をみとれさせた。


レオンハルトは戸惑いながら尋ねた。


「な、何をする気だ!?」

「そこの【娼婦】と一緒に私を【無実】の罪で貶めようとしたのです。身の程を分からせねばなりません!」


ゴクリッ!


誰かの喉が鳴った。


「…………戦争ですわ!」


!?


「バカな!?正気か!?」


「この気高き、貴族の頂点であるシオン・クロスハート公爵に汚名を着せたのです!当然の結果ですわ!」


ざわざわっ!

ざわざわっ!


その時、バタッン!と王様と王妃様が入場してきました。


「これは何の騒ぎだ!?」


いやー!そうですよね~?国王様主催のパーティーで、【他国】の方々も大勢来訪している中での騒ぎですもの。


「国王陛下、お騒がせして申し訳ございません。そこにいるバカ王子に婚約破棄され、無実の罪を擦り付けられました。故に!宣戦布告をたった今した所ですわ!」


国王様と王妃様は驚愕して、レオンハルトに詰め寄った。


「どういう事だ!!!!」


レオンハルトは国王の剣幕に気圧されてしまい、しどろもどろに説明した。


「クロスハート卿!大変申し訳ありませんでした!!!!どのような事もお詫び申し上げますので!戦争だけはどうか!?」


国王様が大勢の前で頭を下げました。あらあらよろしいのでしょうか?


「いえ、もう決定事項です!王子の育て方を間違えましたね」


王妃様は力無く膝を付きました。国王様も項垂れ、一気に老けた感じです。


「父上、何をこんな奴に暴挙を許しておられるのですか!戦争などと令嬢一人に起こせる訳がありません!当代のクロスハート卿が許すはず無いでしょう!早く、こいつを国家反逆罪で投獄してください!」


国王様が目を開いて、こいつ何いってんの?ってな顔をレオンハルトに向けた。


「……貴様は何を言っている?クロスハート卿なら目の前にいるではないか!?」


「はぁ?何を言って………」


このやり取りが致命的となりましたわ♪


「お、お前!まさか知らないとは言わぬよな?シオン・クロスハート卿はすでに1年も前に家督を継ぎ、当主として活動していたと言う事を………」


!?


「そんな!?」


このエトワール王国の貴族社会で、貴族の当主を王子の一言で裁けるものではないのだ。しかも立場といえば、公爵家当主の私の方が上だからね。


「知らなかったのか………当主の仕事と学園での勉学にシオン卿は大変多忙だったのだ。貴様の浮気に構っている時間など無いくらいにな!」


レオンハルトは顔を真っ青にして脂汗をダラダラと流している。


「バカ王子との婚約は、恩義ある王妃様のお願いにより、クロスハート家に婿養子に来ていただく事で、しぶしぶ了承致しました」


「ちょっと待て!婿養子だと!?俺は王位を継ぐ………」


「黙れ!」


シオンの低い声にレオンハルトは何も言えなくなった。


「貴様の発言を許していない。マナーも守れないのか?まぁ、バカ王子だから特別に許そう。次は無い!」


先ほどとは違い、シオンから圧力が発せられガタガタと震えた。


「最初は確かに私が王妃となるべくの契約としての婚約であったが、貴様が余りにもバカ過ぎたため、クロスハート家に婿養子に来る事に話が変わったのだ。私が当主となり王族の血を引く子供を産む為の、種馬としてな?貴様にはお飾りの夫として、多少遊んで暮らせる特典を付ける予定であった」


口調が変わり、王妃の様に威厳ある言葉で王家との契約を話すシオン。


「しかし、無実の罪を擦り付けるほどのバカなど必要は無い!いつ毒を盛られるか分からんからな」


「シオン嬢!いや、クロスハート卿!レオンハルトは廃嫡する!だから戦争だけは許して頂きたい!」


シオンは考える仕草をして、微笑みながら答えた。


「戦端を開くのは1ヶ月後にしますわ♪私の領地から王都へ攻めますので、精々防衛に専念して下さいませ!」


ニッコリと笑うシオンに、国王様も膝を付いて倒れるのでした。






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