黄昏の空に

 

 何か言わなきゃ、何か。


 黙り込んでしまった間宮くんの隣で会話を再開する言葉を探しているうちに、「さよなら」の別れ道まで着いてしまった。


 いつもならすぐに「じゃぁ、また明日」と言って自転車に跨る間宮くんが、ハンドルの左右のブレーキをギュッと握る。

 

 間宮くんが立ち止まったことで、わたしのなかで迷いが消えた。


 このまま別れてしまったら、これが最後の「さよなら」になるかもしれない。


 想いを伝えるなら、この瞬間だ。そう思ったから、胸をドキドキさせながら浅く息を吸い込んだ。


「あ、あのね……」

「あ、あのさ」


 心臓まで一緒に出てしまうんじゃないかと思うほどに緊張して吐き出した声が、間宮くんの声と重なる。


 お互いの顔が怖いくらいにひきつっていることに気付いたわたしたちは、同時に声を出して笑った。


「間宮くんから、先にどうぞ」

「いや、庄野さんが先に言ってよ」


 お互いに譲り合っているうちにおかしくなってきて、また同時にふたりで笑う。


 ひとしきりに笑い合ったあと、間宮くんがふと真顔になった。無意識にハンドルのブレーキを握りしめたのか、自転車のタイヤが地面に擦れてキュッと鳴る。


 再びわたし達のあいだに訪れた沈黙に、気まずさはなかった。わたしも間宮くんも、お互いに相手が言おうとしていたことに気が付いているから。


 しばらく見つめ合ったのちに、間宮くんが先に口を開いた。


「あのさ、おれ────……」


 頬を赤くした間宮くんの声が、黄昏色の空に溶けていく。


 その声に大きく頷いたわたしは、少し泣きそうになりながら微笑んだ。



【完】

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放課後の通学路 月ヶ瀬 杏 @ann_tsukigase

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