第12話 学園生活
ジュリアとしての学園生活は思った以上に楽しかった。緊張気味だったクラスメイトたちも、ジュリアが無害だと分かると気さくに話しかけてくれるようになったし、エバとは親友と呼べるほど仲良くなった。
毎日、2人でどうでもいい話をしながら昼食を食べたり、放課後、教室に残ってだらだらおしゃべりしたり。
(目的を見失ってないかって? いやいや、2度目の人生だからって、楽しまなきゃ勿体ないでしょ!!)
サラにはすっかり嫌われてしまったようだが仕方ない。あとは、女ったらしのオリバーが絡んできてうざいとか、逆にアイザックはまったく婚約者のジュリアに絡んでこないとかはあるが、大したことではない。
何より、玲美時代優秀だったジュリアには勉強が楽勝だった。玲美のときには、哲郎に嫌われたくなくて、朝は早くに登校し、帰りも遅くまで図書館で勉強ばかりしていた。デートだって図書館ばかりで……
(昔の事を思い出すのはやめよう)
とにかく、プロローグで味わえなかったチートをジュリアは堪能していた。
(ずるとかじゃなくて、昔の努力だから問題ないはず!)
そんな平和な毎日の中、すっかり油断していたジュリアは、ゲームの中ではお馴染みだったシーンにでくわしてしまった。
昼休み、エバが先生に呼ばれているらしく、ジュリアは珍しく一人だった。一人で昼食を食べるのも平気なジュリアは、食堂に向かったのだが、あいにく満席だった。仕方がないので天気もいいし売店でパンを買って外で食べる事にした。
ジュリアが静かな場所を探して彷徨っていると、女性のヒステリックな声が聞こえてくる。
「あんた、生意気なのよ!」
「ついこの前まで貴族でもなかった癖に!」
ジュリアは『貴族でもなかった癖に』でピンとくる。貴族しか入学出来ない、この学園において、そういった経歴があるのはサラだけだ。サラが誰かに罵倒されているのだろう。
サラはアイザックともオリバーとも仲良く話しているので、どちらのルートに進んだのかは不明だが、光里から聞いた話によると、どのルートでも虐めにあう。
玲美が唯一攻略したアイザックルートなら、もちろんジュリアが、オリバールートなら別の悪役が用意されている事だろう。
ジュリアは声のした方にこっそりと近づいた。ゲームで見覚えのある木の影でサラが数人に囲まれていた。主犯になっていたのは、ジュリアの取り巻きになるはずだった、校内案内のときの子爵令嬢だ。
「王子様に色目を使うなんて、何考えているのよ!」
ジュリアは耳を澄まして聞いてみたが、一番大切などっちの王子様なのかについて言及してくれていない。アイザックルートを選んだのかどうか知りたいのもあるが、もし、オリバールートだった場合、ヒロインが助けてもらえるのか、ジュリアは知らない。
アイザックルートならば、アイザックがオロオロしながら現れる。たぶん、オリバールートでも、かっこよく助けるんだと思うけど。
ジュリアは周囲を見回してみるが、オリバーもアイザックも見当たらない。
そのうち、子爵令嬢の命令でサラが木に押し付けられる形で2人の女子に両腕を拘束された。子爵令嬢は木の棒を持っている。あれで叩かれたらかなり痛そうだ。
(流石に見てられない!)
ジュリアは隠れていた場所から飛び出して、サラの元に走る。
「ちょっと、あなた達! 何をしているのかしら?」
少し悪役令嬢を意識してジュリアが叫ぶと、虐めていたはずの令嬢たちがビクンと肩を震わせて怯えた目でジュリアを見た。
自分たちが虐めていたくせに、ジュリアに虐められたかのような反応をされると、なんとなく納得がいかない。それでも、ジュリアの説教なら聞いてくれそうだと少し安心もした。キツめな顔もたまには役に立つようだ。
「ジュ、ジュリア様、違うのです。サラさんと少しお話をしていただけですわ」
子爵令嬢が声を震わせながら言い訳をする。他の令嬢たちも青い顔をして頷いていた。
「こんな恥ずかしい真似はもうやめなさい。あなた達の品位を落とすだけだわ」
「申し訳ありません!」
サラに対してではなく、ジュリアに対して口々に謝罪をすると、子爵令嬢たちはペコペコと頭を下げながら走り去っていった。校舎近くで子爵令嬢がアイザックにぶつかりそうになって慌てて挨拶しているのが見える。やっとヒーローの登場だ。
(遅いよ……)
子爵令嬢がそのまま去っていくとアイザックがオロオロと、こちらの様子をうかがいはじめた。
きっと、ジュリアが虐めていると思っているはずなのに、すぐに助けに来ないところがアイザックらしい。ジュリアは心の中で突っ込みながら、アイザックの様子を眺めていると、オリバーまで現れてこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(え? どっちが本命?)
ジュリアが動揺しながら見ていると、いつの間にかサラがジュリアの目の前にいた。仁王立ちするかのように胸を張っているが、サラの足が震えている。
「大丈夫?」
サラはこちらを睨みつけているが、明らかにジュリアに怯えている。ジュリアは睨まれているのに心配になった。
「た、助けてなんて言ってない。よ、余計なことしないで!」
サラは怒鳴りなれていないのか、声を裏返しながら、一生懸命ジュリアに言った。とにかくサラの声が小さい。
(うん、もう少し声を張らないと牽制にならないと思うよ)
サラはビクビクしながら、それでもジュリアの反応を知りたいのかチラッとこちらを見て、フラフラとアイザックの方に歩いていった。アイザックは、サラがジュリアから離れた事で安心したのか、慌ててサラに駆け寄っていた。
ジュリアはその様子をなんとも言えない気持ちで見つめる。助けてあげたのにサラの態度はひどいとは思うが、あんなに怯えながら文句を言われては言い返す気にもなれない。
サラの様子から、選んだルートはどうやらアイザックルートだったようだ。婚約解消が見えてきて、ジュリアにとっても喜ばしい。
ただ、アイザックもオリバーもジュリアがサラと接触したタイミングで現れた。ジュリアが出ていかなければ、子爵令嬢からサラを守れなかっただろう。
あくまで、悪役令嬢であるジュリアからサラを守るために2人は現れたように思える。この世界にはゲームのシナリオの強制力が働いているのかもしれない。そう考えるとジュリアは悪役だ。ゲームの中のジュリアは怖がられており、取り巻き以外からは避けられている様子だった。入学当初なら気にならなかったが、せっかく仲良くなったクラスメイトが離れていったりはしないだろうか?
ジュリアはサラの視線を思い出して暗い気持ちになった。皆からそんな視線を毎日受けたら流石のジュリアでもこたえる。
「何かあったのか?」
ぼんやりしていたジュリアに話しかけて来たのは、オリバーだった。
「オリバー様、ごきげんよう。特に問題はありませんわ」
ジュリアはオリバーに淑女らしく挨拶する。
オリバーはジュリアとサラが一緒にいるのも見ていたはずだ。それでも、ジュリアに向ける視線には心配や気遣いの色しかなかった。ジュリアがサラを虐めたとは思っていないのだろう。
悪役令嬢になっても話しかけてくれる人はいる。いつもは質問ばっかりでうるさいオリバーだが、今のジュリアにはありがたい。
ホッとしたジュリアはオリバーに心の中でお礼を言って、昼食がまだだからと、その場を離れた。
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