悪役令嬢なの?
第4話 ここはどこ!?
(あのイケメンのお家かな?)
玲美はアイスブルーの瞳を思い出してどぎまぎした。もしそうなら、男性の部屋に泊まったなんて、玲美には初めてのことだ。
天蓋付きのベッドはピンクで統一されており、掛けられている布団には細かい刺繍が施されている。よく見ると部屋全体も可愛らしい家具で統一されていて、玲美の部屋よりは少し狭いが、どこかのお嬢様の部屋といった作りだった。
玲美には、とてもあの男の人の部屋とは思えない。
(ゲストルーム?)
こういうときには目覚めると病院というのが定番だと思っていたが、病院の特別室ともまた違う気がする。玲美はとにかく状況を把握しようと、恐る恐るベッドから抜け出した。
(動いても大丈夫そう)
玲美は立ち上がった瞬間にまた痛みだしたら、どうしようかと心配したが、特に問題なさそうだ。少し落ち着いた玲美は、まず自分の服装を確認して驚いた。
(え? ネグリジェなんて着てるんだけど?!)
パステルピンクのネグリジェは、スカートの裾にフリルがたっぷり使われていて、袖もふんわりと膨らんでいる。まさか、あのイケメンが着せたのだろうか? 玲美は一人で真っ赤になるが確かめる方法はない。
トントン
部屋をノックする音がして視線をそちらに向けると、玲美が返事をするより先に、扉が開いてメイド服を着た女性が入ってきた。
「ジュリアお嬢様?!」
20代に見えるメイド服の女性は、玲美を見て大きな声をあげた。
「あの……」
玲美が声をかけると、メイドは持って来たカートをその場におきざりにして、玲美の方に走ってくる。
「もう、お目覚めにならないかと思いました」
戸惑う玲美に構うことなく、メイドは玲美の存在を確かめるように抱きついてきた。玲美は状況が飲み込めず、なにも言えないまま固まるしかない。
メイドはぎゅっと玲美を抱きしめてると、落ち着いてきたのか、目に涙を溜めたまま、「すぐにお医師様をお連れします」と言って部屋を出ていってしまった。玲美が口を挟むすきもない。
「ジュリアお嬢様って誰?」
玲美は伝えることの出来なかった疑問を口にして、メイドが出ていった扉をポカンと見つめた。
玲美が寝ている間に誰かと間違えて、この部屋に連れてこられたのだろうか? いろいろ考えつくことはあるが、どれも当てはまらないような気がする。
それに……
玲美は先程から気が付かないふりをしていたが、左手の薬指に見慣れた指輪がはまっているのだ。
玲美は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
(どういうこと?)
玲美はとにかく指輪を視界に入れておきたくなくて、生ゴミでも扱うような手付きで指輪を外すと、近くにあった机の引き出しの奥へと放り投げるように隠した。
(私、まだ寝ているのかな?)
頬をつねってみたが、普通に痛い。とにかく、もう一度寝てから考えよう。玲美は考えるのを放棄してベッドに戻ろうとしたが、その前に机の上に置いてあった鏡が目に入って驚愕する。
(誰?!)
鏡の中にいるのは整った顔をした美しい少女で、玲美がひっくり返ってもなれるような顔ではない。
(落ち着くのよ、玲美。これは鏡じゃないのかもしれない)
玲美は部屋を見回して姿見の前まで走る。
大きな鏡に映っていたのも、先程見た可愛い女の子だった。玲美がため息をつくと鏡の中の美少女も同時にため息をつく。鏡に近づこうとすると鏡の中の少女も同じ動きをした。
「……」
玲美の姿が美少女になっている。それはもう疑いようもない事実のようだった。
玲美との共通点は、真っ赤で長い髪の毛だけだ。きっと鏡の中の少女は年齢も玲美より若いだろう。
玲美はこの子をなんとなく知っている気がして鏡を凝視した。真っ白なシルクのような肌に少しツリ目がちではあるが大きな瞳。気が強そうな印象なので、ふわふわしたデザインのネグリジェはちょっと似合っていない気もするが、大人になれば誰もが振り向く美人になるだろう。
(こんな知り合いいたかな?)
部屋の雰囲気から、それなりに金持ちの家の子だろう。お嬢様育ちの玲美には、このくらいの年頃の令嬢とも付き合いがあるが、思い当たる人物がいない。
(お父様の関係ではないとすると、高校の後輩かしら?)
哲郎と別れてからゲームばっかりしていたから、高校以外には行っていない。玲美はそこまで考えてハッとする。
(そうだ! ゲームだ!)
玲美は信じられない思いでもう一度鏡を見つめる。ここ最近、毎日画面越しに対面していた女性。今のように、驚いた表情をしているところはあまり見なかったし、ゲームより若い気がする。それでも、
(さっきのメイドも、ジュリアお嬢様って言っていたよね)
玲美は『王子様との出会いは学園で……』が流行して以来、たくさん出された関連小説の一つを思い出して青くなる。
玲美は読んでいないが、光里が『もし、自分が小説の主人公と同じ状況になったらどうするだろう?』とよく言っていたのだ。もし、この状況があの小説と同じなのであれば……
(もしかして、私……)
「悪役令嬢に転生しちゃったの!?」
玲美の叫び声でメイドや医師たちが慌てて部屋に駆け込んでくる。口々に『ジュリアお嬢様』を心配する声を無視して、玲美は呆然と鏡を見つめ続けていた。
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