第3話 異変
さすがに乙女ゲームを高校に持っていくことはできない。そのため、玲美は次の休日に光里と二人でランチをする約束をした。ところが光里に急な用事が入ってしまい遅れるらしい。光里とは話題のパフェを食べることにして、玲美はその前に一人でカフェに入ってランチを楽しむことにした。
哲郎に『一人で外食する女には引く』と言われて以来控えていたので、久しぶりの一人ランチだ。もちろん、女性に人気のカフェなので、一人で休日を楽しんでいるのは玲美だけではない。
(やっぱり、哲郎と別れて良かった)
玲美は未だにちらつく哲郎の顔を振り切るようにランチプレートを楽しんだ。
(うーん、光里になんて言おうかな?)
カフェを出た玲美は、光里と待ち合わせをしている噴水へと向かった。鞄の中の小さなゲーム機が重たい。
(アイク姫がかっこいいだなんて嘘でも言えないし……)
玲美には頑張っても『アイク姫』を褒める言葉が浮かんでこない。結局、開き直って正直に話すことにした。大切な親友に嘘をつくのもよくない。元々、玲美は少し悪い男の方が好みなのだ。それは長い付き合いの光里もよく知っている。
(優等生の哲郎と付き合ったほうが例外だったのよ)
また、哲郎のことを思い出して玲美は心の中で舌打ちをする。これは早く新しい恋を探したほうが良さそうだ。
(どこかにイケメンが落ちてないかな?)
玲美は待ち合わせ場所に五分前に着いて光里の姿を探す。ついでにイケメンも。あくまでついでに。
玲美より早く来ることの多い光里だが、今日はまだ来ていないようだ。どこかで座って待とうとベンチを探していたところに光里から連絡が入る。
『ごめん、行けなくなった』
光里からはそれだけだった。いつもなら、理由もきちんと言ってくれるし、こんなに素っ気ない連絡が来ることはない。
『何かあったの?』
胸騒ぎがして慌てて返事を送る。しばらく待ったが、光里からの返事はこなかった。
(どうしよう?)
光里は普段から自分のことをあまり話したがらない。情けないがいつも相談をするのは玲美ばかりだ。しつこく連絡したら、光里は嫌がるだろうか。
玲美はどうするべきか悩んで、噴水の前に立ち尽くした。
ズキンッ
唐突に激しい胸の痛みが玲美を襲う。
(!?)
玲美は急に痛み出した胸を庇うように手でおさえた。これは恋かもとか冗談を言えるような痛みではない。
ズキンッ
玲美が動揺している間にも、脈打つような胸の痛みは徐々にひどくなっていく。立っているのも辛い。
(とにかくどこかに座ろう)
なんとかベンチまで行こうと、フラフラ歩くが近くにあるはずのベンチが途方もなく遠い。
ズキンッ
(駄目だ、倒れる)
目まで霞んできて、そのまま身体が前に倒れていく。玲美はまるで他人事の用に、石畳に叩きつけられたら痛いだろうなとぼんやり考えていた。
ドサッ
倒れたはずなのに胸の痛み以外に何も感じない。不思議に思って見上げると、綺麗な男の人の顔が目の前にあった。少し釣り上がったアイスブルーの瞳が心配そうに玲美を見つめている。玲美に向かって何か言っているような気がするが、胸の強烈な痛みが邪魔して玲美には何も聞こえない。
(アイク姫より、こういう悪そうな年上の男性の方が好みなんだよね……)
玲美はくだらないことを考えながら、見知らぬ男性の腕の中で意識を手放した。
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