アリスの夢占い

「アリスの夢を占ってどうするの」

「夢の主が本当に求めていることを探るんだ。夢の主がクラスのだれか現状わからないのは夢の断片にまどわされるからだ。この夢占いで関係あるものとないものにわけて、真実を探し当てる」


 白澤君がメモ帳から新しい紙を四枚ちぎって用意し、私の前に差し出した。


「さっきと同じように昨日の夢で起きたことで、特徴的だったものを四つ書き出すんだ」


 鉛筆を再び持ち、あの夢で印象に残ったものとして『不思議の国のアリス』『バースデーパーティー』『ウサギ』『時間が同じ』の四つの言葉を書き出す。


「次は書いた紙の裏にアリスに対してどんな印象を抱いていたか短く書いてみて」

「二つだけでいいの」

「うん。簡単にどんな印象だったかを探るんだ」


 紙をひっくり返してそれぞれの場面でアリスの夢で感じた印象を書き込む。アリスの夢は全体的な印象でいえば支離滅裂でいろいろとオーバーだ。バースデーパーティーのことだって涙が海になりかけるぐらいに大泣きして、かと思ったら踊りだすぐらいに喜んでいた。ということは、


『バースデーパーティー』→特別。すばらしいもの

と書き写した。


 この調子で、


『ウサギ』→一緒にバースデーパーティーをしたい

『時計の数字』→自分の誕生日の日にち、下を向いていた。


 三つ目までは難なく書くことができた。


『不思議の国のアリス』→


 けど『不思議の国のアリス』のところで手が止まってしまった。


「どうしよう、最後のがわからない」

「どうしてわからないのか言ってみて」

「夢の主が見ていたのは『不思議の国のアリス』の夢で、夢の主はもちろん主人公のアリスであるはず。だけど、夢の主としての印象としてからめないの。「おかしい」という印象はあるけどそれは何か違う気がする」


 そもそも『不思議の国のアリス』自体がおかしな夢の話であるし、その夢の主はバースデーパーティーやウサギには感情がむき出しなのに、不思議の国の世界自体にはまるで関心がないぐらいに関わる感じの印象に残ってない。


「ということは『不思議の国のアリス』は夢の舞台になっただけの可能性がある。感情や印象が見えにくいというのは夢の主には嫌な記憶の原因が別にあって、それに不思議の国のアリスという舞台で整えただけかもしれない」

「つまり、意味はない?」

「だろうね。記憶の断片の中から夢の舞台装置として選んだだけだと思う」


 夢の舞台になっていたから意味があると思ってたけど、まさか意味がないなんて。

 不要になったワードの捨てて、新しく用意された紙の上に別のキーワードを考える。そういえばバースデーパーティーの話をしていた時「友達がいない」とアリスが話していたことを思い出して、それを記した。


 『友達』→孤独、さみしい


 四枚がそろったところで、白澤君がそれぞれの紙を並べ替えて夢占いが始まる。


「アリスはバースデーパーティーを特別なものと考えている。だけど誰も友達がいない、ひとりぼっちのバースデーパーティーのさみしい。それを補うためにウサギを追いかけていた。というのが夢の筋書きになる」

「じゃあ誕生日会がひとりぼっちになるのがさみしいからになるんじゃ」

「けど、夢の主と思っていた有栖川さんは今回の誕生日会は間さんだけを呼ぶ予定だった。ひとりぼっち説は違うんじゃないかな」


 あっ、確かに。最初から私一人だけを呼ぶのなら「さみしい」なんて思うはずがない。でもそれだと『ウサギ』も『友達』も意味がなくなってしまう。


「次はこの『時計の数字』を深掘りしてみよう」

「たしかウサギの持っていた時計の数字だったよね。でもそれはアリスの誕生日の日にちのはずってアリス自身が言ってたよ」

「その日にちは?」


 えっと、時計の針が下を向くのは五と六と七。それで針がぴったり重なる時間は……


「五と六、そして六と七の間にだけ針が重なるから、五月から六月の間もしくは六月から七月の間に誕生日があるんじゃないかな」

「いや、アリスは「ぴったり同じ下の数字に重なって向いていた」と言っていた。時計にそんな時間が実在するかな」


 もう一度時計の針を思い浮かべる。たしか同じ針が重なる時間は……そうだ十二時以外針は重ならない。


「ない。五から七の間で針が重なる時間は存在しない」

「ということはこれも夢を構成するときにあった断片を使っただけだ」

「じゃあこれは意味がないのかな」

「いや、視点が違うと思う。アリスはウサギの時計が同じところに重なっていたから自分の誕生日だと思って喜んでいた。つまり同じ日にちに対して思うところがあったと考えられる」


 二つのワードを紐解いていくがくっついていると思っていたものが、だんだんと特に意味がないものに変化していってる。


「う~ん共通点は見えてこないね」

「うん。この夢の主の夢はかなり複雑だ。ほかの記憶の断片が混じりすぎている」

「共通しているのは『ウサギ』と『友達』だけど、これは孤独でさみしい感情を埋めるためにウサギを追いかけているということなんだよね」

「それだけじゃないと僕は思う。間さんがさみしい気持ちになった時どんなことをしてる」

「えっと、私は一日ゲームをしたり、後は有紀とおしゃべりしたりとかでまぎらわしている」

「さみしいという気持ちを埋めるには誰かといたり逆にゲームをするように、さみしさを埋めるには手段が人によって異なる。夢の主の場合は誰もいない暗い森の中で迷っても帰りたいじゃなくウサギを追いかけることを選んだ。だからウサギはアリスにとって欲しいもの追い求めたいものの象徴と考えられる」


 白澤君の夢占いの結果で出たワードの内容を修正しながら、『バースデーパーティー』『同じ時間』『ウサギ』『友達』の順で自分で並び変えていく。


 夢の主の起点は誕生日なる。そして『ウサギ』を追い求めるのは『同じ時間』と『友達』が欲しいとか追い求めたいものを表している。けどそれは有紀じゃない可能性がある。

 『ウサギ』と『同じ時間』を二つ横に並べる。同じものそっくりなものを求める。


「ねえ、この二日で悪夢を見ていた夢の主は今どんな状態なのかな」

「ひどい睡魔に襲われる可能性がある。悪夢を連日で見ていると睡眠不足に陥っているはず」


 ……もしかして。誰が夢の主なのかわかったかもと白澤君に伝えようとしたとき、保健室の扉が慌ただしく開かれた。


「早くベッドに寝かせて、先生はご両親に連絡を」

「ねえ、起きて。もう学校は終わりだよ。目を覚まして」


 保健室の先生が慌ただしく保健室に生徒を抱きかかえてついてきた先生に指示を出していた。その子は先生の腕の中で揺られてもまったく微動だに動かず眠っていた。


 ベッドの上に運ばれても未だに眠り続けているを必死に起こそうとしているを目撃した。

 そう暁委員長こそが、夢の主アリスなんだ。

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