アリスは有栖川?
翌朝の早朝私と白澤は図書室で間もなく来るだろう有紀を待っていた。昨日の悪夢を見ていたのが有紀なら友達として助けてあげたい。
「本当に夢の中のアリスは有栖川さんなの」
「あの時悪夢と会った時間の授業中に有紀は寝ていたって言ってたし。それに来週誕生日があるから間違いない」
「僕が夢に潜り込んだときの範囲もあの教室に限定していたから、そうかもしれない。同じような夢は同じ人でしか見ることができないからね」
「それでどうすれば、悪夢を追い払えるの」
「方法としては二つ、一つは夢の中で直接悪夢を追い払うこと。けど夢の中で悪夢を探す必要があるのとまた別の悪夢が再びやってくる可能性がある。もう一つは現実の世界で悪夢の原因となる悪いことを取り除くこと、こっちは嫌なことを根本的に取り除いて悪夢の再出現を止められる」
私が有紀の悩みを解決してあげる。そんなことできるか自信がない。
有紀はいつも相談に気軽に乗って、クラスのみんなから愛されているお話の主人公みたいな人で、私が逆に悩みを解決するなんて力不足もいいところだ。
時計の針がコチコチ動く音が聞こえてくると、胸がきゅうと苦しくなる。
「私、自信ない。有紀の悩みを解決するなんて」
「簡単なことから聞いてみよう。寝つきが悪くないとか。それでも難しいなら僕が代わりに話そう」
背中を押してくれてうれしいと思う気持ちが半分、自分が情けなく感じる。
そしてガラリと図書室の扉が開き、有紀! と思って席を立った。けど扉の向こうから現れたのは暁委員長だった。
「ちゃんと起きてるようね間さん」
「委員長、こんな朝早くどうして」
「間さんが寝ていないか見にきたの。誰も来ないことをいいことに仕事をさぼるなんてもってのほか。あとついでに本を借りに」
昨日のことで警戒されてる。ちゃんと仕事はしているのに信頼ないなぁ私。
暁委員長が文学コーナーの本棚のところに向かうと棚の隙間から手を伸ばして手招きした。
「間さん、ちょっと。『不思議の国のアリス』はもうないの」
「えーっと、その本なら今白澤君が貸し出してるよ」
「今ランドセルの中にあるから、教室に戻って取りに行くよ」
親切で答えたはずの白澤君に対して、暁委員長は目を細めて不機嫌にまゆを下げる。
「だめ。図書の本の又貸しは禁止って注意事項に書いてあるでしょ。間さんも貸した人の名前をなんで答えるの」
「えっ?」
「貸した人の名前を出したら、その人に本を直接借りに行く人が出るでしょ。それで本の所在不明になったら責任取れるの。情報を守るのも図書委員の仕事、わかってるの」
「ご、ごめん。親切のつもりで」
「親切のつもりでも、大きな事故につながるのそこをわかってないと図書委員の仕事なんてできないのよ」
「委員長今のは僕が間違っていたんだ」
「今は間さんに注意しているの」
白澤君が止めようにも委員等は止まらず「どうして、どうして」と詰められていく。悪気はないのに、今日の委員長かなり不機嫌だ。ぐいぐいと委員長が足を寄せて本棚にまで私を詰める。その時一本の腕が間を遮った。
「委員長そこまで。叶夢ちゃんがおびえてるでしょ。もう反省もしているみたいだし、今度から気をつけるでいいんじゃない」
「有紀、甘すぎ。図書委員として守るべき規則を忘れたなんて利用者が困ることにのるの」
暁委員長が腕を組んで不満を言う。
「うん大事だよ。でも二人が朝から嫌な顔して教室に戻るの、私一番嫌だなぁ」
有紀は手を合わせる手つきをして頼むと、委員長がバツが悪い感じになり一歩後ずさった。
「間さん次は気をつけるのよ。本が返ってきたら教えてちょうだい」
「う、うん。本は六月の六日までには返ってくるから」
そう言い残して図書室を出ていくと、緊張の糸が切れたように本棚にもたれかかった。
「うふふ。二人の時間おじゃまだったかしら」
「ううん助かったよ。僕じゃ抑えられそうになかったし」
「う〜ん、幼稚園からの幼なじみパワーのおかげだからかな。といっても小学校で同じクラスになれたのは今年からなんだけど。穂希ちゃん昔はあんなにピリピリとした性格じゃなかったんだけどねぇ。ほら叶夢ちゃん本棚に寄りかかっているとまた委員長に怒られるよ」
手を引いて立ち上がらせてくれると、有紀の目が赤くなっていた。
「有紀、目どうしたの」
「ちょっと誕生日会のことを考えていたら夜更かししちゃって。それに私朝は苦手だからね。ふぁあ」
そしてあくび。朝が苦手な有紀だけど夜更かしをするなんて初めて聞いた。やっぱりあのアリスの夢は有紀なんじゃ。
「有紀あのね。何か、困っていることとかある? ……もし、あったらだけど」
意を決してのぞんだものの、声がだんだん小さくなってしまった。できることって何? 私いつも有紀に助けてもらっているのに、逆のことなんてできるの。そんなことが頭をよぎってしまった。それに対して有紀はにこりとほほえみを返した。
「ううん大丈夫。今年の誕生日会は叶夢ちゃん初招待だから、気にする必要はないよ。だから当日楽しみに待っててね。さてさて、今日の返却の本はあるかなぁ~」
風に流されたハンカチのようにするりとあしらわれた感じに有紀はカウンターの中に入って、返却棚の本の整理を始めた。
「だめだった」
「じゃあぼくが行く」
白澤君がカウンターの前に向かい、有紀に話しかけた。
「休んだ方がいいよ。寝不足だと授業中に居眠りするかもだし、いい夢も見られなくなる」
「夢占いさんのご忠告ありがとう。でもへーきへーき。朝が弱い図書委員ですけど仕事はまっとうしますよ。こっそり寝ていたら穂希ちゃんに二人は図書委員失格だなんて怒られちゃうもの。でもあえていうなら、こっちよりも叶夢ちゃんの方を手伝ってほしいなぁ」
カウンターから出ると白澤君の背中を押して、私のところに戻してまった。
「なかなか手ごわいね有栖川さん」
そう、有紀は手ごわい。一瞬悩みそぶりを見せても、ほほえみで返して交わしてしまう。本心をうまく隠し通してしまう、だから私が相談しようにも有紀は答えてくれない。私は有紀に守られて、頼りないから。
でも、もう一人の
「…………ねえ夢の中で直接アリスに現実で何か困っていることを解決できたりしないかな」
「それは難しい。
甘い考えだったか。
「じゃあやっぱり悪夢を直接追い払うしかないのか」
「実はそこにも問題があるんだ。昨夜の夢の中に入った時僕ティーポットになっていただろ。夢の中に入ると自分の意図しない役になって何もできない可能性が起きてしまって時間がかかるかもしれない」
えー! じゃあ現実では聞き出せず、夢の中だと役がまったく動かないモブになってしまう。それじゃあ有紀が悪夢にとらわれたままになっちゃう。と落ち込むと白澤君がぽろっと言った。
「間さんの力があれば」
「私の力があったら有紀を助けられるの?」
「え? いや、悪夢払いの修行を積んでいない間さんに手伝わせるのは、それに危ないし」
頭をふって断ろうとする白澤君の動きは、まるで主人公が助力を求めるモブキャラの手助けを断る感じだ。確かに私はいろいろ失敗しているし、すごくできる子じゃない。でも友達が苦しんでいて、それを助けられる力が自分にあるのを待っているなんてできない。
「あの。私すぐ眠っちゃうし、規則も忘れちゃうぐらいにあんまり役に立てないと思うけど、助けられる力があるなら…………助けたい!」
ぐいと前に出て嘆願する。白澤君はたじろぐも次の時には首を縦に振った。
「本当はこんな形で間さんを巻き込ませてたくなかったけど、今晩アリスの夢にまた行こう」
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