第5話

「大臣は?」


「直に来るよ。お忍びだからな。化粧に時間がかかっているんだろう」


 ふたりで、並んで立つ。


「見える?」


「なにがだ」


 彼には、水に濡れた煙草は見えていないらしい。


「煙草だよ。水に濡れた煙草。目の前にひとつ、転がっている」


「お。ほんとだ」


 喋って説明すれば、見えるようにはなるらしい。彼が、それを拾おうとする。


「拾っちゃだめだ」


「なぜ。ただのごみだろうが」


「大臣が来てから説明するよ」


 少しして。

 ヘリが、音もなく現れた。

 大臣。ロープで降りてくる。


「新式のステルスヘリか」


「お忍びの移動にはぴったりなのよ。で。何。これからホテルでも行くの?」


 水に濡れた煙草を。拾った。

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