第4話
水に濡れた煙草が、鍵だったらしい。
それが、目の前にいる。
人の身体を、
「ずっといたのか」
うしろに。分からなかった。
「ずっとみていました」
声は聞こえるが、どの口がしゃべっているのかは、分からなかった。
インカムを入れて、喋る。
「聞こえるか。見つけたぞ」
「無駄だ。電子機器は使えない」
インカム。応答がない。
「その煙草を返してくれ」
言われるままに。煙草を手渡す。
煙草が、手から離れた瞬間に、数発殴った。
「そんな意味のないことをしなくても」
効いた感じではない。というより、拳に感覚がない。
それが、煙草を吸って、吐く。火をつけていないのに、煙が出てきた。
「殺してほしい。殺してくれ」
「なぜ?」
「考えたことがあるか。勝手に、人から継ぎ接ぎされる気分を」
「なんの話だ」
「私は、人の考えた形になれる人だ。何者にもなれる。そういう人間だ。そして、こうなった」
「酷い見た目をしている」
「そう。酷い見た目だ。人間は、勝手に、思ったものを継ぎ接ぎしていく」
「お前の本体は、どこなんだ」
「ないんだよ。本体なんて。どこにも。しいて言うなら、この継ぎ接ぎされるという性質そのものが本体」
「継ぎ接ぎってのは、誰でもできるのか?」
「できる」
「俺でも?」
「できる」
「インカムで外部と連絡を取る方法は?」
「煙草をもう一度拾えば、私は、見えなくなる」
煙草。
たしかに、無数に落ちている。
「煙草は、落ちているのに。見えることはないんだな」
「待ってろ。殺してやるから」
水に濡れた煙草。
ひとつ、拾った。
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