048//王冠の国で_1
帰って来ました。
最後の国、ケテル。
とは言っても馴染みのあるのは王都ゼクトゥズで、ターミナルのあるティアラは初訪問だ。
「ティアラって何処?」
「おまえ行ったことあるだろ、玄獣の丘。その向こうだ」
あー、前は止められちゃったけど、今なら行かせてくれるだろうか。
黒い針葉樹林帯を抜けると、整った街並みが見えてくる。完全に街に入ってしまう前に、少し拓けた場所へ翼を降ろした。
「何でしょう、視線が痛い」
ターミナル参拝前に街を散策中なのだが、住民の方々から蔑むような視線を感じる。痛い。超痛い。なにこれ。
「格好だな」
「は?」
格好って……服装?言われて見回すと、うわ、確かにカジュアルタイプが見当たらない。
「嘘でしょ」
セレブ街だった。ここは高級住宅地だった!
「…Kちょっと、丘行ってくる。皆は街見てて」
ぶるじょわじぃに負けた。
玄獣の丘。
広い草原。乱立する折れた柱。
風を受けて佇む、羽根を纏う少年。
「────……」
誰だろう。真っ黒の髪にピンクの目をした少年は、たぶんKより少し年下。此方に気付いて一瞬鋭い表情を浮かべた。
「なんだおまえ──って、カルキストの片割れか」
片割れ…。橙の髪は目立つのか、aより覚えられやすい身だ。そう言われるのは珍しい。
「カルキスト知ってるって、キミ誰」
「ハッ。雇い主の事くらい知っておけ」
雇い主だと?
「Kたちの雇い主はシールだよ」
「──おまえらを雇ってんのはゼクトゥズだ。シルータ兄貴個人じゃなくてな。つまり俺の下だろ」
「はぁ?」
……弟がいるとは言ってたけど、違いそうだ。何言ってんだ? と声を出しそうになったところで
「俺はヴァイス・ゼクトゥズ・マディメ。第26代ケテル国王だよ、カルキスト」
一瞬真っ白になる。
え? オーサマってシールのパパでは? は? でもこの感覚はオーサマ。お??
「おまえの会った王は代理だ。知らなかったのか? シルータ兄貴はその息子」
「……たぶん知ってた」
そう言えばシールが言ってた気がする。国王は代理だと。じゃあこれが、『可愛くない従弟』。道理で『勉強を教えさせて貰ってる』なんて妙な言い回しをする筈だ。相手オーサマか。
「で、オーサマが何故こんなところに」
どうみても麗らかな丘だけど、危ないらしいよ。
「いいんだよ俺は。おまえこそ──ああ」
一旦言葉を切って、嗤った。
「玄霊を降して調子に乗ったか」
ムカッときたが、反論できない。てか思い出したぞ。ヴァイスって、曠真爺とかaが口にしてた名前だ。なるほど、だいぶ強いらしい。
「まあほら、昼寝に良さそうな丘だと思って」
「昼寝ね。解るが」
笑うオーサマからまた羽根が舞う。薄青色の羽根。
「じゃあなカルキスト、覚えておけよ」
「そっちもね、オーサマ。Kたちの雇い主は、シールだからね」
「──フン」
最後まで偉そうにして去って行った。本当に可愛げのない。結局羽根も何だったのか解らないし。
「――完了だ」
光を放ち終わったターミナルストーンに背を向けて、シールは静かにそう言った。
「てことは、え? テマーネ完了?」
「そうだ」
「やっほう! 祝杯だ!」
「城に戻るぞー!」
「…マジか…態度デカいとは思っとったけど」
城に戻ると、グールが驚いたというより呆れた顔をして言った。
「ケテル本国の坊やったんか」
「え、知らなかったの?」
aも吃驚している。言ってなかったっけ。
「ケテルの王族っちゅーんは察しとったけど…」
は~~と息を吐くグール。なんやかんや、グールって意外と人間社会理解してるよね。食人鬼って、一般的にどういう生活してるんだろう。謎。
「でも良かったね、グールも部屋貰えて」
「………」
aの言葉にKは黙り込む。因みに今シールは報告に行っている。その間休んでおけと言われた。
「俺はいつ解放されるん…」
「なんだよーゲブラーの功労賞だろー。祝杯は付き合え」
「全部終わったら帰してやるからさ」
Kたちは還れるのかどうか…まだ解らないけど。
「とにかく、祝杯ね!」
「おぉぅ…」
ドレスアップさせられたKとaは、開かれたパーティーの盛大さに戦いていた。人多っ。規模デカっ。
「なるべく小規模にとは進言したんだが…玄霊を倒した者を祝うとあっては仕方ない」
シールは少しだけ申し訳なさそうにそう漏らした。そうだね仕方ない、オージサマの凱旋だもんね。仕方ない。
一応パーティー慣れしていないカルキストに配慮してくれてあるようだし、恐がってたほどのことはなかった。皆の前で挨拶とかさせられてたら死んでた。
最初にこのパーティーの趣旨の説明があっただけで、シールも喋らなかったし、軽く紹介されて頭を下げた程度だった。
あとは立食形式で自由にしている。個々の挨拶はそこまで恐くない。とは言えシールの側を離れられない。ひっきりなしに人が来るが、シールはうまくあしらってくれる。
グールはひとりプラプラとしているが、声は掛け辛いのか少し遠巻きにされている。まぁそうだ。城に人喰を客として招いてること自体異常だ。つまりそれだけの功があるということなんだけど。
「エケルット公!」
次の挨拶者は黄色い髪の偉丈夫。そのオッドアイには見覚えがある。
「カムシャ公」
「おめでとうございます! 成功なされたんですね」
「それはこっちの3人に」
シールの手を掴み取って祝辞を述べた後、誘導に従ってこちらにも笑顔を向けてきた。
「おふたりならばと思いましたよ」
「カムシャ公、『3人』です。」
「え?」
「だから、あっちの彼も。ゲブラーでの功労者は彼なので」
そう言ってグールの方を示すと、カムシャ公は戸惑ったように言葉を濁した。
「彼は……」
本当に眼中になかったらしい。初めましてと言わんばかりだ。
カムシャ公がグールに声を掛けるか掛けまいか迷っている間に、こちらには次の挨拶者が現れた。
「a様、K様」
華やかな薔薇の香りを纏って現れた女性――いや、うん、女の人。
「玄霊を倒したのがおふたりだと聞いて。祝辞を述べさせて頂きに参りました」
「ロイザさん」
「リステアから貴女方に」
「ありがとうございます」
立派な赤い薔薇の花束を受けとると、足元から「にゃうん」と聞こえた。視線を落とすと、大きなシャムネコがすり寄っていた。
「フェイリス!」
猫は声に応じてさっと主の腕に飛び込んだ。猫を抱いた長身の男。知らない人だ。シールに軽く挨拶した後、Kとaへしっかりと向き直った。
「魔術師協会より代表で参りました。この度の快挙、お祝い申し上げます」
「あっ」
忘れてた。弓を返すのを忘れてた!折角塔に寄ったのに、テストの所為で完全に忘れてた。慌てて弓を取り出して差し出す。
「……その弓ですが」
男は受け取ろうとせず、目を細めて弓を取り出す様を見ていた。
「生涯貸与、という決定が下りました」
「えっ……」
困った。此処で借りておいたらもう返せなくなる。Kたちは帝国へ還る予定なのだから。
「その弓は何処へ在っても還ってきます。必ず、我々の元へ。だからこそ『差し上げる』という表現が出来ないのですが」
「そういうことなら…」
実質貰えるということなら、断る理由はない。
「それでは」
ひとつ頭を下げて魔術師は背を向ける。抱かれたシャム猫がにゃあと鳴いた。あの猫…! 今気付いたが、たぶんあの時のニアミだ。
ボボボボッ、と灯りが一斉に揺らぐ。次の瞬間、ゴッ!と炎が渦を巻いて、火の神は現れた。
「ボクからもおめでとー!」
「スクラグス!??」
突如現れたカミサマに、パーティー会場は大混乱だ。その驚愕の様を見るに、ひょっとしたらカミサマって気軽に拝めないものなのかも知れない。シールとグールは「もう驚かないぞ」と言わんばかりの半眼だ。とりあえずKはaを盾にしてスクラグスを窺う。
「お祝いも上手に言えない子を連れてきたよ~」
「へ?」
再び炎が渦を巻くと、現れたのはぶすっとした表情の神秘の神。なにしてんだコイツ。プスッと嗤ってやると心底面白くなさそうに顔を歪ませた。
「祝儀だ。ひとつだけ、なんでもアリだ。よく考えて使え」
「っ!?」
痛みに似た違和感が二の腕を襲う。見ると、精密な紋様が刺青のようにそこに在った。
「…わぁ、また派手なシルシを…」
まぁでもコレで少し安心した。
帰り道の切符みたいなもんだ。
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