042//創造の地で
月、星は明るい。
でも人の営みの絶えた地に他に明かりはない。
参拝を終え『眼』の居なくなった上空からのんびりと見下ろすマスカルウィンは…いや、ゲブラーの地は、夜に飲まれて真っ黒だ。
やはり真っ黒な海を渡って高原に辿り着く。
絶えず風の吹くこの高原は、ベリアー高原というそうだ。
「ふーん」
「誰と話してんの?」
降り立った深夜の高原でテントを張りながら、受けた説明に頷いているとaから突っ込みが入った。
「え?」
グールとシールは先に張ったテントの中だ。グールの方はもう寝てるかも知れない。
「一人言がデカいんだけど」
「いや、え? 今の説明に返事しただけじゃん…ぅゎ何そのドン引き」
それとなく距離を置かれた。
「あの『眼』に挑むと発狂するみたいな噂は聞いてたけど…」
いやいや正気です!?
「今貝空がベリアー高原の説明をしてくれてたじゃん!?」
「は?貝空が…? 喋るの??」
おっと?
「ひょっとして、聞こえてない?」
aが頷くのが先か。
「これでいいか」
ふわっと。貝空の姿が変化する。大きな二枚貝から、長い髪の青年の姿に――
aもKも、暫し呆然とその姿に見入る。
「…タクリタン…」
「…さ、」
同じ姿。同じ顔だ。違うのは、地に着いた足。風に揺らぎ重力を受けている髪の靡き方。冷たい印象の表情とその瞳。
つまり
「触れるーー!!」
タクちゃんにダイブするスクラグスよろしく、貝空に抱き付く。
触れる!おおぉ!
タクちゃんに出来なかった分…と言わんばかりに抱き締める。貝空は特に反応なくされるがままだ。
まあとにかく。貝型の貝空の意思は契約主にしか伝わらないらしく、他にも伝えるためには人型をとる必要があるらしい。
Kの発狂容疑も晴れた処で、貝空は還っていった。なんか呼び出しも帰還も貝空は自分の意思で出来るらしい。召喚の神を核に取り込んでいるお陰かも知れない。知らんけど。
「ところでaさん。あの障壁、もう使えないの?」
「うーん、アレねぇ…」
aは少し目を逸らして、小さく頷いた。
「うん。今はね」
「そうなんだ」
それは少し残念だ。かなり強力な盾だったのに。
「アレは、『眼』を消し去りたいっていう遺志だったから」
「そっか」
無念が晴れて成仏した的な事なんだろうか。
aは曖昧な表情のまま就寝を促してきた。まぁそうだね。とにかく今日は疲れたし、もう寝よう。夜の高原、すごく寒いし。
眠りの際で、スクラグスの事を思い出した。
貝空を従えた後、本当はスクラグスに声を掛けようとした。
──消さずにすんだよ、と。
スクラグスは『眼』のことを『兄弟』だと表現した。消されることを望まれていたとしても、そう表現したものを消さずにすんだと。でも思い止まった。代償がタクちゃんなのだから。もし万一『眼』に情けをかけていたなら、これほど皮肉な展開はない。タクちゃんに会えなくなるくらいなら消えて欲しかった、なんて。思わせたくも気付かせたくも、口にさせたくもない。実際のところは解らないけど。
そんなことを考えながら、眠りに落ちていった。
朝の高原もすごく寒かった。
フェニックス君で暖を取りながら朝霧で濡れたテントをたたむ。
「結構な温度差を移動してるもんね。そりゃ風邪もひくと思う」
「ふたりが弱いのでは?」
aが丈夫すぎるんだよ。グールは野生動物だから論外。
「次は何処行くの? コクマ戻る?」
「昨日の今日だよ、まだダメじゃない?」
「そうだな。先にビナーに寄るか」
ビナーと言えばマリンレジャーで有名らしいが、残念ながら夏は過ぎている。温泉もあるって聞いたけどKは温泉好きじゃないので。
とはいえ、もう流石にまったり観光をきめたい。
今度こそ何も問題起こりませんように、と何にともなく祈って、寒空へ翼を広げた。
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