041//峻厳の国で_4

「もっかい狙ってみるからaさん引き付けといて!」

言い逃げで青龍ちゃんに跨る。

「え゛ッ、嘘ぉ」

それでも「大役ね、頑張るッ」なんて叫んじゃうaが大好きさ。


一度シールの元へ飛び弱点を確認する。

「どの辺?」

「外すなよ、ど真ん中だ」

オッケー。

aが頑張ってる隙に空から『眼』を狙う。

弓をゆっくりと緊張させる。

aの攻撃が『眼』の中心に決まった。

瞬間グールが縛す。

「K!」

aの合図で目を開く。


バシュ。


「やった!ど真ん中HITッ!!」

「―――…」

「…マジかよ…」

もうやだぁ。

「…厳しいようですわね…」

びりびりびりびり。

やーん、怒ってるぅ。

大層大層お怒りの『眼』。放つ殺気が今迄以上に尋常じゃない。

襲い来る銀雨。aの防壁大活躍。ターミナルからの支援という話だが、本当に助かった。

「もう、本当にどうしようねー…」

「それなんだけどさ」

半分イっちゃってるaの元へ青龍ちゃんを駆る。

「シール言ってたよね。力の強すぎる奴は玄獣になっちゃうんだって」

「ああ、言ったな」

「―――…」

言う前から答えを予測されたのか、既にタクちゃんは驚き顔だ。

「だからさぁ、なんだっけ、玄力? それが高いのが玄獣なんだよね」

「――驚いた。キミ、まさか」

ここ迄でスクラグスにもばれちゃったらしい。流石カミサマたちはすげぇな。

「うん。だったらあの『眼』…使役獣にしちゃったり、できないかなぁーなんて」

「はぁ?」

おや、驚いてくれたのはa一人か。シールは「成程」と腕を組む。

「殺せないなら手懐けろ、か」

「出来んのか? そんな」

「やってみよう」

グールを遮ってタクちゃんが微笑む。いつもと違う少し男らしい、不敵な笑い。その傍らに寄り添ってスクラグスも笑う。

「玄獣を創り出す、かぁ。成功したら彼女たち、カルキストとして天才的だね」

「いや…その発想で既に、天才だろう」

そんな言われたら照れます。本当にできっかな。

「やるなら今だな。修復に専念し始めたみたいだし」

ジズフは割とさっきからどうでもよさそうだよね。

「だけど…どうやって?」

aがちょいんと首を傾げる。

「イメージしてみろ。強く。彼の力を抑制して従わせるイメージだ」

従わせる…アレを、ね。

「やってやろーじゃん」

えーと、抑える、抑える。

あの力が外に出ないようにするのかな。

ぐにゅ。

天の瞳が歪んでいく。

「お」

いい感じなんじゃない?

「―――時間が掛かりすぎだな」

誰にともなく呟かれたジズフのその小さな声が、Kに届いた。

「 ! 煌月…」

空には輝く不吉な月。

「夜が来た」

「直に満ちるよ。ボクも体が薄まってきた。…このままじゃ…」

地上に不安が満ちていく。

「難しいな。このまま煌天がくれば…」

そこで一旦言葉を切ると、

「終わらせよう、ここで」

たったそれだけの言葉には、強い決意の色が見えた。

ご。

一瞬にしてスクラグスがタクリタンの横に移動する。

「タクちゃん!? 何する気!」

スクラグスさえ透け始めたこの土地で、タクリタンは最早とても儚い輝きを放つのみ。

「私が彼を内側から抑える。彼女に外から契約を施して貰えば…」

「それって、そんな事したらタクちゃん…」

不安げに自分を見上げる長年の友に、タクリタンは優しい、そして恐らくはとても残酷な、美しい笑顔を向けてその頭を撫でた。

「ラグ。ありがとう」

瞬間、涙を眼いっぱい溜めた顔を歪ませて―

「――うん」

彼はその涙を拭うと顔を上げて笑顔を返した。

「タクちゃん、またね」

「ああ」

「ちょっと!?」

吃驚して後ろの二柱を振り返る。

「何の話? タクちゃん消えんの?それ」

随分と勝手に話が進められていたもんだ。

「このままでは皆死ぬ」

「いや、だからって」

「二度とは無いチャンスだ。玄霊化は何度も効かない」

だったら逃げればいい。またチャンスを作ればいい。

「誰かの犠牲の上の勝利なんて真っ平だね」

aの怒気を孕んだ声。そうだ。

「後味が悪いったらない」

「知ってる。それでも―」

あぁ―しまったなぁ。気付いてしまった。その沈黙の意味を、多分知ってる。

「私は結構、わがままなんだよ」

脳裏に知らない映像が過る。

―あいつほら、不器用だから。

本当だね。やってられない。

「それで、タクちゃんに後悔がないなら」

「K!」

「勘違いすんな」

声を荒げるaに、ジズフが告げる。

「そいつも神だ。消えるわけじゃない。ただ、玄霊の中で眠りにつくだけ。消滅するわけじゃない。早くしろ、煌天が来る」

「…」

納得は出来てないだろうな。それでも、タクちゃんの顔を見たらきっとaにも反対はできない。

「じゃあ、タクちゃん。よろしくね」

こんな時は笑うしかないんだな。

「ああ」

そう言って静かに消えてしまったKたちの保護者に恥じないように働きますか。



ぐにゅ。

ぐにょ。

玄霊は歪む。

大丈夫。中からタクちゃんも手伝ってくれてる。先輩の助けもあった。皆の助けもあった。カミサマたちまで手伝ってくれた。これで負けるわけ、ないでしょう。ねぇ。


「できたっ☆」

容を完全に失った玄霊。

「Welcome新しい召喚獣!」

この名を以て契約と為す。

「キミに『貝空カイクウ』と名付けるよ!」

収束していく光。新たな形を与えられ、再構成されていく元『眼』。

「ひゃっほー♪」

生まれ出たのは可愛い「貝空」。でっかい二枚貝だ。

「えー。そこはかとなく納得がいかない!」

なんでさ。可愛いのに。

「成功は、凄いんだけど。殻被せただけ…」

スクラグスまで。

「アイツの想像力なんてあんなもんだ」

ムカつく。ジズフがKの何を知っているというの!!

生まれたての貝空を手元に呼び寄せる。

「よろしくね、貝空」

でっかい。その殻の上に上半身を預けて移動する。硬質で、フェニックス君みたいな暖かみはないけど安定感があっていい。

「さっきまで憎い憎いと殺そうとしとった奴相手によぉできるわ…」

貝空に凭れ掛るKが納得できないらしい。

同時に、興味深げに貝空を覗き込む。

「だってもう違うものだし。そんな事言ったらグールだって生きてないよ」

「ぅ」

ぎろ。

貝空が大きい眼で男どもを睨む。びくっと固まるシールとグール。うーむ、どうやら男どもは貝空が苦手なようだ。


「―――ふぅ」

改めて玄霊の居なくなったマスカルウィンを見渡す。まだ何も変わった感じはしない。

「ご苦労様」

スクラグスが満面の笑顔で労ってくれる。

「当然だな」

ジズフはこむかつく。

「―よくやった」

…シールは笑う。

「早参拝終わらせて寝よ」

「確かに疲れたね。早く寝たい」

グールとaは大あくび。

そっか、ずっと視界の片隅にあったターミナルだけど、用を済ませてなかった。『眼』にすべて持っていかれて、最早当初の目的を忘れかけていた。

空を見上げる。

「青龍ちゃんとフェニックス君もお疲れ。ありがと」

「あー」

「いえ。マスターこそ、おめでとうございます」

おお、おめでとうときたか! 確かにそうだね。

「ありがと」

じゃあもう一回、目を閉じようか。

きっと彼に会えるから。

『やったな、すげえじゃん』

「―――うん。おつかれ、皆」

さて、さっさと参拝済ませて次に行きますか!


ありがとう、タクちゃん。

これから宜しくね、貝空。

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