036//知恵の国で_1
聳え立つ朱い塔。
寄せ来る荒波。
夕日は荒波の向こうの穏やかな水平線に沈んでいく。
ざざん
寄せる波の音が塔にぶつかって遥かに反響する。
ざん、ざざん、、、
高い高い塔の上で、その赤色の世界で、唯一薄黄緑の風が流れる。荒い風に弄ばれる事もなく、ただ静かにそこに
その内、何かに区切りをつけたのかその黄緑の風は流れ去り。
再び波の音だけが寄せては返す。
「え、参拝禁止?」
辿り着いたコクマの塔。しかしターミナルへ辿り着く前に、警備兵に止められてしまった。
「現在ターミナルへの参拝は禁止されている。こどものみとあっては尚更通す訳にはいかん」
aと顔を見合わせる。
「仕方ないね、出直そうか」
融通の利かなさそうな雰囲気たっぷりのその兵に期待が持てなくて引き返そうとした瞬間、
「仕事があるって聞いたんだけど」
何者かがKたちの後ろを通り過ぎた。
「なんだ貴様、魔術師か?」
魔術師??
「師の代わりに退魔に来た。フィルマクスター・テステル・リーエル・ファンダ・ドィス・マルベリーだ。通してくれるかな、そこ?」
「魔術師?」
塔の中腹にとった宿に戻って、早速シールに講義を頼む。
「そう言ってた。何それ?」
魔術師って、セフィロートじゃちょっと変な表現だと思う。なんたって、カミサマが大量にいらっしゃるのだ。皆割と何某かの神と契約してたりして神術とかいう物を使えるみたいだし、大体『魔法』や『魔術』なんて言葉これまで聞いた事がない。何度か使ってみても『神術』って訂正喰らうし。
ちなみに最初にシールに警告された通りターミナルが参拝禁止になっていた事も伝える。それには「だろ」と返すのみで、魔術師の説明を始めてくれた。
「コクマでは神術に頼らず学習と研鑽によって精霊を操る者たちがいる。コクマ外ではブタタールなんて呼ばれもするが…長ったらしい名前の奴だろ」
うん確かに長かった。一文字たりとも覚えてませんが、そんな事より。
「「はーい、相変わらず単語が解りません」」
ブタがなんだって?
「ブタタール。一般的には計算の神をさす。魔術師って奴らはややこしい計算を使って魔力を操る。数魔術なんて言ったりもするが…まあ名の通りって事だな。因みに」
色々聞きたくてKが口を開く前に、面倒臭そうなままの態度でシールが続けた。
「聞かれる前に言っておくと、一般に俺たちが使ってんのは神力。月で満ち欠けしてんのは煌力。世界に満ちて一般的に使われてないのが魔力な」
先読みされてしまった…。
「ホンマ大胆に略すな…」
グールも自分の知ってる情報ならシールの略しっぷりが解るらしい。いつもはKたちと一緒にへ~程度にしか聞いてないのに偶にこうやって突っ込むようになってきた。
まあでも、へぇ。魔術。ふーん。神術より親近感があるかも知れない。
脱いだコートを『穴』にしまいながら頷く。
「協会とかあって統率されてるらしいな」
シールの講義より気になるものが出来たらしく、横からaがどこかに眼をやったままKの腕を突付いた。
え、何。
「あれ、さっきの人じゃん?」
「あ。本当」
aの指差す先、窓の向こうで大層な悲鳴を上げながら落ちていく人影は、先刻ナンタラと名乗ったあの魔術師だった。
「あのくらい自分で何とか出来た!! 恩人気取りはやめてよね」
「や。してませんが」
落ちてきたから拾ってやった物体は、大層可愛げという物がなかった。
「落としてしまいません? これだから魔術師なんて者は…」
なんて、青龍ちゃんが言うくらいだからよっぽどだ。
「あー最悪だ、魔女なんかに助けられるなんて!」
あー、あーあー。
取り敢えずとはいえ部屋に連れ帰ったのが問題だった。見事にシールの機嫌が悪い。
グールも部屋に篭っちゃったし、aも眉間に皺を刻んでる。
「魔女ぉ?」
「北は男女差別ないんじゃなかったっけ?」
魔術師を指差してシールを振り返る。
「さあ。コクマとビナーには偶にあるようだな」
やっぱり、表情には出てないけど多分絶対機嫌が悪い。拾ってしまったKの責任なのか、この部屋の雰囲気の悪さは??違う、落ちてきたこいつが悪い!!
「いい加減出てけよ、皆機嫌悪くなったから」
直接本人にぶつけてみました。
「言われなくても」
「それで早くターミナル復活させてよね。早くマスカルウィンに再戦したいんだから」
あれ。その瞬間、部屋の空気がまた変わった。
「……マスカルウィン…?」
?
雰囲気の悪さに耐えかねてaの剥いたみかんを丸々奪う。一口では入らなかったので、半分に割って放り込む。あ、これみかんじゃないわ。さくさくしてる。
魔術師は驚いたように固まったまま動かないので、こちらから切り出す。
「何だか知らないけど、退魔っての手伝おうか?」
「いや、それは。オレの課題だ。盗るなよ」
あ、そ。
それで漸くフリーズが解けたみたいで、胡散臭そうな…違うかな、とにかく訝しむような表情で少し身を引いてKたちを見た。
「あんたたち…マスカルウィンの玄霊に挑む気なのか?」
「 ? うん」
aが素直に頷く。
「この前はオーバーヒートで倒れちゃったけど、今度は負けないもん」
今度は。今度こそは。
三人には本当迷惑掛けた。だから。
はあ、というなんだか大層勘に障る溜息で思考を戻された。
「玄霊は上級魔術師の最高課題だぜ? 魔女なんかに…」
「カルキストだ」
「は?」
コムカつく魔術師の台詞を遮ったのはシール。
「
珍しい事をする。シール人の話を遮ったりするんだな。
「それに、
「はぁああ?」
不審全開で大仰に聞き返す魔術師。
こっちとしても、照れるんですが…。aも結構赤くなってる。
それにしてもそれにしても、ブタタール如きときましたよ。
そこで、魔術師が何かに気付いた。
「ていうかあんた…ケテルの…?」
ああ、髪留めだ。本当に効果あるんだなケテル紋章。
それでも魔術師は臆す事なく、寧ろ嘲笑するように言った。
「―…成程、遂に動き出したってわけ」
相変わらず表情の読めないシール。それでも、例えばKなら眉を顰めてしまっているような、そんな雰囲気。
「七年前痛い目見たのは
嘲笑うその表情は今にも泣きそうな
「自慢の手駒で精々頑張んな。うちの二の舞踏まないようにな」
ばたんと大きな音を立てて扉が閉まる。完全に出て行ったようだ。
aが大きな溜息を吐く。
「はぁあ、やっかましい奴だったね」
「懲りたらもう変なの拾ってくるなよ」
犬猫じゃないんだから。
まぁでも、はい。すいません。
それより…Kとしては思う処があるんだけどねぇ…。
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