028//美の国で_3
―宵八時、ジズフ神殿―
「星すげー」
街を見下ろせる高台に鎮座ますジズフ神殿で、空と地上に溢れる星屑に息を飲むa。
「でも、何も居ないよ?」
皆で首を回らすが、見える範囲には誰も居ない。
「遅刻か?」
aがそう呟いた瞬間。
「お?」
不可思議な空間に転移した。
「何この…黒光舞う空間…」
「目ェおかしくなりそう…」
辺りは暗く輝いている。闇という光が散っている、明らかに通常にありえない空間と化していた。どうなってるかは解らないが、この空間には光る闇の他は何もない。床とか、上とか下とか空とかが存在しないようだ。
「――――何だ、チビども」
それでも自分を基準にすると頭上の方から、声が落ちた。すゎっと現れたのは灰色の髪の青い瞳のカミサマ。こちらを見下すように降りてくる。
「俺のモデルの割には品が無いな」
「なッ」
これが、ジズフ…
「失礼な奴め、オリジナルに対して!」
初対面でいきなりチビとか言うな。
こちらが並べ立てた文句を溜息一つで流して涼しげに言う。
「我鳴り立てるな。だから品が無いと言っているんだ」
む、むかつくぅ~コイツっ!!
「で、何だ。もう満足か? ならもう行くが」
え、早。
「確かに用は無かったけど。何、急いでんの?」
もう半分以上消えながら声を返すジズフ。
「ああ。そろそろ戻らないとケイが煩い」
ケイ? 同じ名前?
「そうだ」
ジズフは消えかけた身体を再構成して人差し指を立てた。
「『何が何でも荷物を放すな』『借りた物は返しましょう』だそうだ。伝えた」
「「え!?」」
突如ぽいっと放り出されたような感覚。
浮遊感――
「ぃでっ!」
「…っぅー…」
aとKは折り重なるようにして地に落とされた。衝撃はあったけどそんなに怪我はしてないから精々1mもない落下だったんだろうけど…くぁ、ジズフめ…。Kたちの落下を遠目から呆れたように眺めていたふたりが近付いてくる。
「おまえら…何処行っとったん?」
「はへ?」
「会えたか」
どうやらグールとシールはジズフに会ってないらしい。
「――…うん」
覗き込むシールを見て思い出した。
『借りた物は返しましょう』
「んじゃ…はい。ありがと」
シュルっとマフラーを引っ張って首から外す。出てきたら外が意外と寒かったのでシールに借りていたものだ。シールは手を差し出しながらも不可思議そうに首を傾げる。
「 ? 寒いんじゃないのか?」
「寒いけど」
有ってもそんなに変らないし。
「なら宿に戻ってからでいい」
不可解な奴、と伸ばしていた手を引っ込める。
「でもオツゲなんだけど…」
「まあまあ、今すぐにとは言ってなかったし宿に帰るまでは良いんじゃないか?」
うーん。まぁ、そうかなぁ。
「帰るまで着けとけ」
「…じゃ、そうするよ…」
皆がそう言うんじゃね…。
「そうしろ」
洟を啜ってマフラーを捲き直す。巧く留められずに四苦八苦しているとシールにギュッと締められた。
「ぎゅっ…くび絞ま…」
死ぬ死ぬ! 慌てて少し緩めてぜーはーしていたら、背後で一歩退いたグールと軽くぶつかった。
「何や? アレ…」
トンと軽く触れる肘。
「――――…悪意…」
aが真剣な声で構える。
「え?」
背後に不穏な気配を感じて振り返る。
遠くの空で、空間が歪んだ。
「―――――――――え」
北西上空に開いた金の瞳。
ヴ、ヴヴ…ヴッ…
「お?」
ヴヴッ…ヴ…ッ
「「Kッ!!」」
空には無限の銀の点描。
それすら翳む金の大眼。
「え?」
月をも飲み込むような悪意の塊がその眼を開いた瞬間に駆け抜けた、物理的ではない衝撃波で足を踏み外した。
浮遊感。
目の前は鮮烈な星屑。
恐らく背後には海のような街明かり。
随分長い事浮いていた気がする。
漸く始まる、落下感と焦燥感。
「―――――~~~!!!」
ぎゃーッ、落ちる!
先程から、フェニックス君が招べないでいる。何故だか『穴』が開かない。
このままじゃ死ぬ…!
手が伸びる。
手が伸びる。
一つはマフラーを掴み、一つは細い腕を掴んだ。
「――ッ、」
「~――っ、ゴメングール…、引き揚げて…」
Kを追って手を伸ばし、ともに空に身を投げたaの腕をグールが支えていた。過重を受けたマフラーはか細く悲鳴をあげている。
ヴヴ、ヴ…
「布が…」
ヴヴヴヴッ、
「ぐぅ…死…死ぬ…」
マフラーを腕に捲きつけて負荷を軽減しているものの、絡んだマフラーで首が絞まった。しかもええっと、K、高いトコ好きじゃない…て事で早くこの状況を打破すべく『穴』を開こうとしてるんだけど…っ。
「布が、保たなぃッ」
ヴ ヴ ヴン!!
「「開いたッ」」
瞬間。
「「あ…」」
凄く気持ちの良い音を立てて、
「うぎゃあああああぁああぁ―――――――っ」
「マジ死ぬかと思ったマジ死ぬかと思った…何あの『眼』ッ」
飛び出したフェニックス君になんとか助けられて神殿中央で膝を抱える。小刻みに震える身体が止められない。
「つかれたぁ」
aが大きく息を吐く隣で、しゃがみ込んで覗き込んでくるグール。
「お前でも怖くて震えるなんて事あるんやな。かわいいトコもある?」
「うっさい」
疑問系にすんなよ、カワイイよ十分!
まぁ…でも…
「皆、ありがと。…助かった…」
ああああ、ちょ、ちょっと恥ずかしい。あんまり真面目に人にお礼言うのは慣れてない。
「「――…」」
aとグールも驚きつつも照れながら顔を見合わせた。
aが膝を叩きながら立ち上がる。
「まあ気にすんな。あの『眼』が悪いんだし」
「せやな。俺はコイツ助けただけやし」
「うんまぁでも、ありがとうだよ」
ちょっと落ち着いてきて、漸く気がついた。
「あ」
aの手に残った布の破片。借り物…破いてしまった…。
「あと、シールはゴメン。これ…破けちゃった」
「ああ、別に構わない。不可抗力だろ」
そうかなぁ…一応返すって手もあったんだし…でもまぁ、それが無きゃ死んでた。
「そっか、ありがと。助かった」
「俺は何もしちゃいない」
「いやいや。首絞まる程締め付けてくれたお陰で命拾いした」
「―…ジズフは何が言いたかったんだろうな」
そう言って、シールはフィっとKから視線を逸らした。思わず眉が顰まる。何その態度。
…いやまぁしかたない、こっちはマフラー破いちゃってるし。
しかし本当にジズフは何が言いたかったんだ?これが無きゃK死んでたんだよな…。
「ジズフ、K殺したかったとか…?」
「神が個人に殺意抱いたりせぇへんやろ。別のモン指しとんのと違う?」
「ほえ?」
別の物? 借りてるものでしょ?
「他に何かあるっけ?」
「そこまでは」
「だよねぇ」
神殿の階段を下り始めてるaから声が掛かる。
「もう帰るぞふたりともー」
「あ、はーい」
もう疲れたし、とりあえず帰ろう。
「はぇー、やっと着いたよー」
とっとと部屋行って寝てぇ。
と、その前に。
「えっと、どうしよっかコレ。一応返しとく?」
とってもボロボロにしちゃいましたが。
するっと外しかけると
「待て。部屋まで着けてろ」
「――――――…はぁ、もう…。あのさぁシール」
右に立つシールを睨み上げる。
「さっきからムカつくんだけど? それ」
ロクにこっち見やしねぇし。あれ以降著しく態度が悪い。意味解んない。
「――――」
一度口を開きかけて飲み込む。
「済まないがグールはそっちの部屋に居てくれ。おまえはちょっと来い」
「へ? わ…」
「「はぁ…」」
軽く一息吐くとaとグールに一言告げてKの右腕をとった。
「――…」
「…」
引き摺られていく途中でグールとaが無言で目を合わせてるのが見えた。
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