021//栄光の国で_1

何故こんな事になっているのか。

とにかくふたり並んで長閑な街道を歩いている。ふたりきり…という訳でもないが、aもシールもいないのだ。

「あーもー!! お腹空いたー!」

「喧し、土でも喰っとけ!」

「土なんか食べたらジャリジャリして気持ち悪いでしょ!!」

自分から言っておいて「そんな問題か」と突っ込みを入れるグール。

現在a・シール組みと逸れ、グールとふたりでホド国内を探索中だ。なかなかに最悪な組み合わせだと思う。さっきからずっと剣呑でスッキリしない空気が流れている。しかもシールと離れたKたちはお金を持っていない。

「はよあいつら探すぞ。ったく時越えしくじりやがって」

グールはそう言って大きく溜息を吐いた。

「出来ないのに文句言うなよ! 大体それじゃあKの技術不足みたいじゃん。アレはMP切れなの!」

結局自らのレベル不足を示しちゃったような気もするけどまあいいや。

つまりなんでこんな事になっているのかというと、時越えに失敗してみんなバラバラに弾き飛ばされたからなんだよね。いやぁ、生きてて良かった!

でもa達の方はどうなってるか解らない。事故直後から連絡が付かなくなっているのだ。

目的はターミナルなんだからそこに行けば会えるでしょって事で向かおうとしてるんだけど…問題がもうひとつ。

「それはともかく…何処なのよココ!?」

「おまけに人身事故!!」

「やめてよ轢いたみたいな!!」

よよよと泣き崩れるグール。

うぅ…巻き込んじゃいました一般人……

「あーマジ最悪。アタシが何した言うん…」

可愛いんだけど地味な印象のお姉さんで、得体の知れない気品がある。左頬に薄く小さな模様があり、それがこの地方のおしゃれなのかどうかは判断しかねる。

今の今まで存在を忘れかけていて、慌てて振り返った。

「お姉さんごめん、とりあえず名前と住所教えて」

「家はテラメルコや。リンカの辺り。名前なんか教えられへん。好きに呼んだら」

「じゃあグーラーで」

「グーラー」は「グール」の女性変化だ。女性型の人喰の事。特徴的な西言葉と、頬の模様。

安易に同族かな、という判断で。

「テラメルコ…ここ、カームベルトやろ?」

グーラーの言葉にグールが考える。

「さあ。Kにはさっぱり」

住んでる土地の事も覚えられなかったのに、来た事もない世界の地理が解る訳ない。自慢じゃないがKは方向音痴だからな。地図も読めない女だぞ。

「アンタもツェク・マーナ?」

グールの言葉イントネーションに反応してグーラーが顔を上げる。グールが肯くと頷いて暫し黙ってから

「最悪」

すっごい形相で睨まれた。

「ぅ…」

な、何で?? ハテナ出まくりだが、一つ解った事が…『も』って事は、やっぱりお姉さんも人喰いなんだね。グーラーで間違ってなかった!

「まぁそれで。Kたちホドの首都に用があるから…え~と」

グールに目を遣る。

「ホランダラット」

「そう」

そうって言っておいて記憶にないんだけど。

ホドの首都はホランダラットか。記憶している内に叫びに近い声が飛んだ。

「何やて!?」

飛ぶように詰め寄ってきて一気に捲くし立てる。

「真逆やんかテラメルコと! いきなり知らん土地に飛ばされて今度はホランダラットやて!? 何なん!? もう! はよ帰して!」

西言葉の迫力というか勢いに飲まれそうになるけど…

「別について来いとは…帰ったら?」

「無茶言うなぁ!? 2500km歩いて帰れて!?」

え、え? えーっと、徒歩だと、4km1時間で…2500/4は、625…え?625/24…26…27日。1ヶ月かかる?? ………う~ん…マジか。や、だって、そんなに離れてるなんて知らないもん。そんなに怒られても困るもん。

「しょーがないなー。じゃ、用がすんだら送ってくからさー」

とは言えKに土地感はないから、グールを見上げる。

「首都までどんくらい?」

「あーっと、ここがカームベルトやろ? …2500km?」

「えーっと、するとー、2.5で飛んで-大体…1時間か」

ぶつぶつ言いながら地面に計算を書き込む。

マッハ2.5で飛べば2500kmは大体1時間で行ける。フェニックス君の羽の大きさとフォルムを計算してみる。これならまあ大丈夫でしょ。収まる収まる。千切れない千切れない。

「よし、行くぞっ」

「えっ!?」

急に立ち上がったこととその言葉に驚いてKを見たグーラーは、今度はフェニックスくんの姿に釘付けになる。

「乗って」

「「え?」」

グーラーは完全に困惑して、グールは不吉な予感でいっぱいみたいな顔をして、フェニックス君によじり登る。

ふたりがちゃんと乗ったのを確認して、フェニックス君の背を叩いた。

「「えっ」」

ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!

激しい雄叫びを残してボクらは風になった。



「着いた! ちょっと暖かくなったね」

ネツァクが暑いところだっただけに「涼しくなった」といった方が正しい気はする。

振り返ると二名様ご愁傷だ。蒼い顔でよろめいている。一時間の高速空の旅はどうやら不評だったようだ。Kも本来乗物酔いはし易い方なんだけど、操縦者は平気ってヤツだろうか。

「何よ、今の」

吐き気を噛み殺したような顔で天を仰ぐグーラー。

「本ッ当気持ち悪い…一時間も…」

座り込んでしまった。

その後ろでは、何やら街の様子が騒がしい。明らかに上級兵の格好をした人達がたくさんいる。犯罪者でも探してるんだろうか。

いらっしゃったぞ、なんて聞こえたからもしかするとお偉いさんの来訪に備えて街を整備でもしていたのかも知れない。

「…何アレ」

「さぁ。どっかのお嬢様でも逃げたかね?」

騒動に巻き込まれるとまた文句言われちゃうので、なるべく関わらないようにしないといけない。適当に答えて首を回すと、近くに居たお婆さんが近寄ってきた。

「あれは公爵家の連中だよ。どうやら縁談の決まったお姫様が逃げちまったんだとよ」

「へぇ」

何か当たっちゃったカンジじゃん。

にしても女の人は幾つになっても噂好きよね。グーラーもそういった話はキライじゃないのか、からかうように笑った。っていうか誰か近付いてくる。兵の一人に見えるけど…。

「そりゃあ相手は面目丸潰れやなぁ!」

欠片も思ってなさそうに可哀想にと付け足した。

その背後で、近付いてきていた男が立ち止まる。

あわわ。

「お解かりでしたら速やかに城へお帰り頂きたいものです。ザクサス様がお待ちになられている」

背後から声を掛けられて背筋が跳ねるグーラー。

隙を突いてお婆さんは逃げていた。こういう所も見事だよなぁ、年寄り。

それより、こっちだ。

「は…」

言われている事が理解出来ずにいるグーラー。うわぁ…騒動の予感に胸が躍る。

漸く頭の働き始めたグーラーが叫んだ。

「はあー――!? 公爵令嬢ー――ッ!?」

大口を開けて自分を指差す。

だが男は容赦無く彼女の手を掴んだ。

「付き合っている暇はありません。さあ」

「っ! ちょっと!! 人違いだっつの!!」

あ…それはよくないなぁ。

「ちょ、いたいっ」

「女の子に無理強いはいかんねー」

止めに入ろうとしたKより、意外にもグールが動く方が早かった。グールが一払いで男の手を解くと、グーラーはすぐにKたちの後ろに隠れた。恐かったらしい。あーあー、こんなに怯えさせて。

男は此方へ厳しい視線を投げかけたが、グーラーの赤くなった手首に眼を移すと流石に斜め下を向いて謝った。

「…申し訳ありません」

だがすぐに顔を上げてグーラーに向き直った。

「しかし今は時間がない。とにかく城へ」

「だからぁ~、アタシちゃうって…ん゛んんっ、人違いですって」

ホーマサス社会でツェク・マーナとバラすと危ない。ホーマサスにとってツェク・マーナは人喰い―恐ろしい敵でしかない。その辺を考慮して言葉を直そうとしたんだろうが、相手は何せグーラーを公爵令嬢だと思い込んでいる。

「ツェク・マーナの言葉など何処で覚えていらっしゃった。お止めなさい、人目がある」

「あーも~この際や! せやからアタシはツェク・マーナやねんッ。公主ちゃうの!!」

「ですから、冗談に付き合っている時間はない」

「きゃーっ! やっ、ちょっと~――ッ」

がしっと肩に担がれて強制連行されていくグーラー。人目が凄い事になってるけど。

「あー、面白くなりそうだねー。でもKたちはaさん探さないとだから…」

「ああ安心した。おまえの事やからついてくとか言い出すかと思たわ」

む。本当は言いたかったソレ。

その間にもグーラーを担いですたすたと行ってしまう男。グーラーは涙目でKを睨んでる。

「あんたら、責任とってくれる言うたやろ~」

物凄い恨みがましい目だ。

「や、でも、人探し…」

「…」

む、無言のプレッシャー。

グールとアイコンタクト。う。こっちもすごい眼で見てる…。

なんだよ! 全部Kの所為かよ! しょうがないなぁ…。

「解った解った、一応着いては行ってみるけど!」

何が出来るかは知らないけどさ。

盛大な溜め息を吐いたグールには気付かないフリをした。

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