020//形成の地で

「大まかに世界を分類させた時、イェソドからゲブラー・ケセド辺りまでをイェッツェラーと呼ぶ」

「「「ふーん」」」

ホドに向かう道すがら、シールの地理を受講している三人。

Kとaはともかく、なんでグールも初耳の顔してんのかね。

「ホド―ティフェレト間には世界最大の湿地帯がある。イェッツェラー大湿地帯は希少生物の宝庫だぞ」

「へー。何が居んの?」


そんな他愛もない会話を繰り返して進む内、何かを感じて立ち止まり、空を仰いだ。a達は気付かず先に進んでいく。

「無事だったようだな」

「タクリタン!」

ふんわりと舞い降りたのはタクリタンだった。

「生きていて何より。オチガミに遭ったと聞いた」

「うん。でもオチガミ自体はそう…」

一番苦労させられたのは魔徒と化したaだった。そもそも無敵と称されるような人間が暴走したら手に負える訳が無い。よく無事だったと思う。…殴られた背中はまだ痛い。青痣ばっちり出来てたし。

それを聞いてタクちゃんは笑った。タクちゃんの笑みはいつも微笑だ。ふんわりとしてて綺麗だと思う。いいなぁ、笑顔の綺麗な人…。

「とにかく無事で何よりだ。こんなところで消えられてはつまらないからな」

「はは、そりゃ頑張るよ」

すっとタクちゃんが目を細めた。

「今後もおそらく命にかかわるような困難が襲うだろう。それでも、テマーネを続けるか?」

「度合いにもよるけど、多分続ける」

本気で信じているワケじゃないけど、一応今の処唯一の『帰還への希望』なワケだし。

「そうか。…幸い、イェッツェラーは水属性だ」

「…? どういう意味?」

「そのうち解る」

さっぱり解んねー…。

タクちゃんの中でその話は終わっちゃったらしいので、これ以上聞きようもなかった。

「そういや、スクラグスとはどういう関係?」

「ラグ?」

ラグ…?

「だってスクラグス、タクリタンの事タクちゃんって呼んでたし。何か親しそうかなと」

「ぁあ、スクラグスとは同期だからな」

「同期って…」

「人間社会では何と言うのか…そうだな、『幼馴染』、とかいう言葉があるだろう、確か」

「成程、ふーん」

カミサマにもあるんだ、そんなの。

「すっごい仲良さそうだね、二人」

「そうか? …そう言えば昔、『いつも一緒に居る』と言われた事があった」

ぼんやりと呟くカミサマ。

「自覚無しと」

「感覚が違うからな」

なるほどね?

「さて――迎えが来たようだな」

タクちゃんはチラッとKの背後へ目を遣った。

「おーい、Kー?」

遠くからaが走ってくる。そう言えば静かだと思ったら本気で置いてかれてたとは!

振り返ると、タクちゃんは既に消えていた。

「K、急に消えてるから驚いた。どうかした?」

「ううん、タクちゃんがいたから」

シールとグールの影はもう随分と遠くに見える。

「あんなトコまで行っちゃったの? ちょっと気付くの遅すぎじゃない?」

イノクンで一気に追い着いた。ちゃんとaも連れてきたよ。ちょっと青褪めてるけど。


「あ、待ってよ三人とも! ここらでお昼にしてから行こう。折角いい天気だしいい緑だし」

って事でお昼時。

ネツァクで買ってきたデカイ黒パンを皆で齧る。因みにグールはパンは食べられないらしいので自力で調達して貰った。しかし…生なんですか、グールちゃん。まあいいとして。

「シール? パンの丸齧りが出来ないとか言わないよね?」

何故じっとパンを見つめているのです。

「言うか。そうじゃない」

じゃ、何さ。明らかに不服そうなんだけど?

「…黒パンだな、と」

「はあ?」

「黒パンですよ?」

呟かれた一言が余りにも不可解で、aと二人間抜けな声を出してしまった。グールは一人我関せずでうさこを齧っている。

「あ」

じっとパンを見続けるシール。何と無く解ったぞ。

「シール、黒パン苦手か」

「え」

「…あんまり得意じゃないな」

目を逸らしながら答えるシール。それを信じ難そうに眺めるa。

「何か違う?」

「違う」

何でも好き嫌い無く食べちゃうaには嫌いな物へのあの敏感さが理解出来ないのかも知れない。何故か物凄い解るのだよ、嫌いな物ってのは。

「K平気だけど。確かに独特な感じあるんじゃない? でもネツァクのパン屋に並んでたの大抵黒かったよ」

「確かに。黒くなくても結局ライ麦パンだったしね」

しかしバラといい麦といい寒い処ってイメージがある。その辺に生えてる植物たちは南国イメージに合うものばかりだったけど…。こういう小さな違和感が『異世界感』を忘れずにいさせてくれる。

「じゃ、こっちにしなよ。黒くないよ。イェソドで買ったのの残りだけど」

「そうさせて貰う」

素直に黒パンを放棄するシール。

パンが食べられないグールは本当どうでも良さそうにうさこを平らげた。

「はい」

aが見事なタイミングで食事を終えたグールにお茶を差し出す。

「サンキュ」

「…何、そこの永年連れ添った夫婦みたいな遣り取り」

「ぶ!」

超気に入らない。咽たaの背を呆れ顔で叩いてやってるグールとか本当気に入らない。

「なんかむかつくー!」

「こらK! 食事中に暴れんな!」

「にゃーっ、だってaさんがぁー!」

暴れるKと諌めるa。傍観するシールと我関せずのグール。

今日も平和に過ぎていく気がした。

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