019//勝利の国で_4

ネツァクの最高神殿内中央ホール。そこには先日までは無かった大きなぎょくが飾られている。

その前で今Kは苦い面持ちで何者かの話を聞かされていた。

美人だがおしゃべりなこの人物は男…このネツァクの国のオーサマであるらしい。

「いやー素晴らしい! 是非我が国に欲しい!! あのオチガミを滅するとは! 神の力無しで一体どのように炎術を?」

この調子で話し続けるから、ほとほと参ってるんだけど…。

この間に新しく飾られた大きな玉はKがオチガミを焼き払った時に出来たものだ。Kの正気を護り、aやKに忠告をくれた兵士の意識を取り戻してくれた、あの玉のでかい版だ。まだ詳しい事は解っていないが、この玉がこれからオチガミから人々を守る手助けになるのかも知れない。もしも効果が永遠に続くのであれば、この神殿の人達は二度とオチガミに怯える事は無い筈だ。研究が期待される処だと思う。

「道をお空けなさい」

鈴の鳴る音がして、ロイザさんが現れる。

御付の人に睨まれてオーサマが小さくなってる。

「K様、今回は大変お世話になりました。見事な召喚術でしたわ」

ロイザさんが遂に様付きで呼び始めた。落ち着かないのでやめて頂きたい。

って言うかそれよりロイザさんの後ろで行われているオーサマと御付の人の遣り取りの方が気になってるんだけど。

『神の助けなしで召喚なんて人間の出来る事じゃないよ。彼女ヒトじゃないね』

「全くだ」

「ああ」

後ろから好き放題文句が聞こえてくるが、aの声は無い。

「…あれ?」

よく見ると今目の前に居るのは二人目のロイザさんだ。Kの視線に気付いたのか、ロイザさんはウィンクして見せた。

『姉がヨロシクと。2度も助けて頂いたそうで…有難う御座います』

「!」

こっそりと耳元で告げられた言葉に、色々理解する。多分男に生まれてしまったこのロイザさんは、護られているのだ。ロイザさんに成り代わる事で。ここはネツァク。男には生き難い国だから。

Kは黙って、笑みを返しておく事にした。重大な秘密を打ち明けてくれた人に対する礼儀として、黙って置く事を誓う笑みを。



『結局ボクも助けられちゃった』

神殿を出た後、火のカミサマが無念そうに言った。助けられる結果になった事が随分と気に入らないみたいだ。

『もう行くけど、何か出来る事あったら言ってね。いつでも行くから』

それでも借りを返そうという姿勢は可愛らしいので許す事にする。


「あ――疲れた――っ。次はゆっくりした国がいーなー」

大きく伸びをして感想を洩らすとシールが首に巻いた布を取りながらうんざりと言う。

「おまえが掻き乱してるんだ」

失礼な。今回どう考えてもKの所為じゃないし。

「なあ、あいつは?」

ひとり姿が見えない事を気にしていたらしい。

グールがあさってを見ながら訊いて来る。ふふん。

「aなら邪気にやられたのが許せないらしいよ。その辺でまだ暴れてんじゃない?」

ロイザさんが言ってた。魔徒と化した者は例え元に戻っても心と体に深い傷を負うと。堕ちた自分が許せなくて自害に走る者もいると。

そんな気持ちは理解しないけど、暴れてすっきりするなら暴れてくればいい。

「あれは…仕方の無い事だ。人間なら…」

下を向いたままシールが洩らす。

いつもの襟巻きを装着するが、化粧が落ちてない。

「…こいつは?」

グールが不審気な目でKを見る。だから、Kは玉触ってたんだってば!!

溜め息を一つ吐いて、視線すら向けずに呼びかける。

「aさん、そろそろ行こ――」

「へーい」

Kの隣に着地するa。突然前にaが落ちて来てグールは凄いビビってたけど。

また4人揃って歩き始める。

朝の光は気持ちよく行く手を照らしている。

「…もー俺だけ帰ろっかなー――…」

割と本気っぽく言うシール。

その背をペシペシ叩いて笑う。

「何言ってんのシールったら!! 駄目よ案内人なんだから!」

大体言い出しっぺなのに許される訳がないでしょう。

「俺は別に要らへんよな…」

「アンタは奴隷」

グールの呟きにaが容赦無く返して、グール撃沈。

沈み込む男性陣を尻目にK達は次の国を目指した。

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