011//基盤の国で_2



「で、イェソドのターミナルは何処にあるの?」

「中央。ここからだと…大体2kmくらいか」

「2km?」

2kmってどんなもんだっけ。徒歩15分/kmくらいでしょ。30分?

「歩くの?」

「まさか。俺にそんな体力は無い」

うわ、言い切った。潔い。

「じゃあどうすんのさ」

「バスで行く」

「………バス…?」

やっぱりあるのか、自動車。


バスは、あった。

本当にバスだった。動力はK達の馴染んだ物とはかなり違うみたいだけど。

「魔動…?」

「言葉に気を付けろ。聞きつけられると厄介だ」

「はあ…。えぇと………」

思い付かない。K的にはこういう不思議な力は皆「魔力」なんだけどな。

なんか、力の種類がたくさんあるらしくて面倒臭いんだけど、イェソドでは魔力でバス動かしてるなんて言っちゃいけないらしい。

じゃあなんていうんだ、法力か?

このバスは外見は見知ったバスとほぼ同じで、金属塗装だしゴムタイヤだって付いてる。でもエンジンルームにはナントカいう石が詰まってて、その石に蓄えられたエネルギーを使って走ってるらしい。この石は有害廃棄物が一切発生しないのでとても「えころじかる」なんだとか。石炭燃やして走ってるみたいなもの――というよりは、たぶん電池に近いのではないだろうか。便利な燃料もあったもんだ。帝国に持ち帰っても使えるんだろうか?

10分程度で着くらしいから、速度もチキュウ産バスと変わりなさそうだ。

10分弱、黙ってるのも苦しいので適当に話をしてみる。

「そういや昨日の…聖石? っていうのはどういう石?」

「ああ、あれは魔祓師が作った浄化石だ」

要は人喰種の使う緊縛や魅了などのステータス異常を治すアイテムで、カミサマの加護が詰まったアイテムという事らしい。

「はへ~。不思議な力がいっぱいだね」

バスの車窓から大都会を眺めて言うのも妙な気持ちだが、流石ファンタジー世界。

「おまえはコクマに行ったら喜びそうだな」

「 ? 国?」

「国。あと6つ先」

「結構遠い」

順調に1日1国巡っても1週間後じゃないですか。

どんな国なのか教えて貰う前に、目的地に到着した。



巨大な建築物の前。高層ビルの頂点を見ようと天を仰ぐも、危うく首を痛めそうで慌てて戻す。

「っ。近くで見ると何処となく恐いね」

「だな」

壁の内側を中央センターと呼ぶが、正しくは中心に位置するこの超高層ビルこそがセンターという名の執政機関だ。

壁の内側は選ばれた民・栄誉ある中央市民の住む場所らしい。簡単に言うとたっかい住民税払える裕福な人のみが住む所だ。聖霊教会に収める布施の量も、というか布施の量が、待遇を大きく左右するんだとか。

「で、この中にあるの? ターミナル。入りたくないねぇ」

「同感だが残念ながら中だ。入国制限の厳しい国だからな。ターミナルを使った不法入国を避ける為中央の管理下におかれてる」

その対策は最もですけど。もっとラフなもんじゃないの、ファンタジーって。

「で、この中、旅人は監視付だったりするんだろうね?」

「そのくらいの予測はつくか。安心しろ、その通りだ」

ですよねー。



「何か…厳重じゃない? ……思った以上に」

こそっと隣に耳打つと、微かに肯いた。

「だな。何かあったか? ここまで厳しくはなかったと思ったが」

建物内という事を忘れてしまいそうな程開放的な空間には、しかし息が詰まる程の兵が配置されていた。警備兵か何兵か判らないが、驚いた事に女性が多い気がする。黒髪ストレートの知的な女性兵。Kのタイプにストレート!!

「嬉しそうだな」

「うん…ちょっとね」

キレイなオネーサンは、大好きです。

「で、何かあったんですか? 厳戒態勢ですけど」

気になったし案内してくれてるお姉さんに訊いてみた。

「もう大丈夫ですよ、心配はありません。市民の安全を守るのが私達の役目ですから。先程悪魔の進入があったようなのですが、追い払いました。現在はもう中央には居りません。本当はその場で仕留められれば良かったのですが…」

「そ、そうですか」

なんとも…居心地の悪い返事を貰ってしまった。

Kが恐がっていると勘違いしてだろう。お姉さんはもう大丈夫なんだと繰り返す。

「悪魔っているの?」

こそっと隣に訊いてみる。

「いない」

「でも今お姉さん…」

シールはウザそうにKを一瞥して後にしろと命じた。ここではマズイ、と。


途中、案内のお姉さんが上官らしい人に声をかけられて、少々ここでお待ちくださいと休憩室のような場所に通された。

「………」

仕方ないのでテーブルに着いて大人しく待つことにする。くれぐれも勝手に出歩くなと釘を刺されてしまったし。

「で? What is Devil?」

ぴくっと眉を跳ね上げて暫し無言のシール。まだダメなのか?

「あ~…種族について知ってるか?」

「種族?」

種族って、人型に限ってでいいのかな? 確かグールは違ったんだよね。細かい処までと言うと……

「おねがいします」

「めんどくせ。じゃあ簡単にな」

「うん」

いつも簡単な気がしますが。

「まずヒトは大別して三種類だ。ホーマサス、ツェク・マーナ、ミッシュリングルの三つな。因みに俺はホーマサス、グールはツェク・マーナになる」

「ふーん、じゃあK達もほーまさすかな」

人喰わないし。シールとたぶん何ら変わりないはずだし。

「まあどれかっつーとな。で、まだ遭ってないと思うがミッシュリングルは獣の血が入った種族だ」

「獣? ワーウルフとかワーキャットの類ってこと?」

「あ~…人型と獣型に変移できる、身体の構造を自在に組替えたり出来る奴らだ」

いるんだ獣人!!すげー見てみたい!!

「つまり身体能力的にホーマサスが一番劣るわけだ。それで自分達より強い種族を恐がるんだろ。外見も様々だし。イェソドは市民自体単一民族で構成されてる事もあって他種族には厳しい」

ははぁ。

「つまり人喰いや獣人は『悪魔』なんだ?」

「そういうことだ」

「なるほどねー」

他種排斥は生物的に間違った事じゃないけど、形が似てる上に互いに言語を操り、意思の疎通も出来る筈の知能を持った動物同士だと、なんか、引っかかるモノがある。

ところで―――――…

「グールじゃないよね」

落ちる沈黙。

「いや、あの様子からしてその心配はないだろ。逃げ切れるとは思えん」

「だよね。aさん付いてるしね」

言ってはみるものの、なんとなく落ち着かなくなってきた。さっきお姉さんは逃げられたっぽい事言ってたし、グールがあの状態で逃げ切れたとは思えない。だけど。そう、それはグール一人だったらの話だ。奴にはaが付いてた。

「aさんが……付いてたね、そういえば」

「…………」

話変わってきちゃった。

もし何かあって、ツェク・マーナを天敵とする…あれ、比喩にならなかったよ…イェソドの兵士にグールが見つかっちゃってたとしたら。グールに売られた喧嘩だろうが、aは間違いなく買う。でもグールダウンしてるし、逃げるしかなくなって? うわ~、ありそう…。

「まだ決まったわけじゃないし、危惧しても始まらん」

シールはサクっと思考を放棄した。

「まあねぇ。一応ちょっと確認してみるわ」

なんかあったなら連絡来てるかも知れないし。ちょっと集中してみる。特には、何も…感じないかな。

「ぅん…、なんにも……ないみたい」

「そうか。とりあえずは安心だな」

「うん」

そこで丁度戸の開く音がしてお姉さんが戻ってきた。はやく終わらせて観光へ行こう。


案内のお姉さんに連れられて、遂にターミナルまで辿り着く。勿論と言うか一階にあったんだけど、見事にセンター内に溶け込んでいた。マルクトみたいな独特な祠がある訳でもなく、ごく普通に建物内の一室に置かれているようだ。これもまた勿論と言うべきなのか、厳重な見張りが置かれている。室内も燐光を放つ青色で統一されていて、神秘的…というより…偏執的だ。

「さて、そろそろaさん達呼ばなきゃね…って、なんか呼んでる!」

aからアクセスが来てるようだ。

ここで転移を使うとちょっと騒がれるかも知れない。シールに目を遣る。

「…。仕方あるまい」

どうせ呼ぶんだったしね。

「じゃ」

見張りとして同室しているお姉さんを横目に見る。耳元に小型インカム。見事だ、イェソド国…。

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