010//基盤の国で_1

「すげぇ」

ポカンと口を開けて感嘆の声を洩らすグール。

「ほんとだー、超高層ビル!」

だだっ広い草原を抜け、ちらほらと現れ始めた集落を越えると、眼前に現れたのは突然の現代都市。

決して広くはない範囲が城壁のようなもので覆われており、その壁の内側だけ異様に文明が進歩しているのが見て取れた。

立ち並ぶ高層ビル群に街を縦横に走る高速道路―みたいなもの。今迄見たことなかったけど、この国には自動車もあるかも知れない。

「あの壁の内側がイェソドの首都、ウォートバランサー。…まあ、あそこだけがイェソドだと言ってもいいんじゃないか」

シールの説明を適当に聞き流しつつ、地に降り立ったKとa、グールの三人は天空へ続く線を見上げていた。

「でかいなぁ、そして高い」

一本だけ、ズバ抜けて高いビルを見上げてaが洩らす。

世界貿易センタービルを思い出したが、もっと高い。バベルの塔みたいだ。超高層ビルの先端は、雲がかかって見えなかった。

「アレがイェソドの中枢。『中央センター』と呼ばれる―…あ~―――――、政治機関、というか」

ざっくりと説明を終えたシールが振り返る。

「一日だ。何処を見る?」

「とりあえずシールの髪型変更の理由が知りたい」

一瞬の間。

今日のシールはいつもの髪留めを外して、前髪を下していた。

「髪留めに国紋が入ってるからな。他の国はともかくイェソドでは使えん」

そっか、そういや最初に会った時もこの紋がー、とか言ってたっけ。イェソドで使えない理由は解らないけどそんなに興味もないしまぁいいや。

「ヘアピンか何か貸そうか?」

使いもしないのに何故か異次元ポッケには入ってるのだ。

「別にあの髪型にこだわりはない」

とは言えシールはそもそも留めておけるほど前髪長かった訳で。それを全部下ろしちゃうと…

「暗く見えるよ?」

目付きが目付きなだけに、より一層。

あ。憮然としてらっしゃる。


「ところでおまえら、中では絶対に神と魔術の話はするなよ」

シールの前髪は分ける事で一段落つけた後、突然の謎の警告。その話題、Kとaから自主的に出て来ることはまず無いと思うけど。とりあえず解りましたと返しておく。

「おまえ、信仰はあるか?」

一度Kとaに視線をやってから、グールに尋ねる。

「信仰っちゅうか…シセラの加護なら受けとるけど…」

それを聞いたシールは途端苦々しい顔をした…いや、雰囲気を放った?

「…シセラ…深い信仰じゃないだろうな」

「いやまあ、特に信仰はしてへんのやけど」

この世界のカミサマは信仰してなくても加護が貰えるのか?? ――あ。貰えるみたいだわ。そういえばKたちもタクリタンの加護貰ってましたね。さっきのシールの視線とスルーはそういうことか。

「何、シセラってのはよくない神なの?」

「欲望の鬼神だ。イェソドとは相性が悪い」

何かで見た説明によると、各国にはその国の守護を担う聖霊がいて、その、カラ…カラとかいったかな? は、昔その国を建国した人達なんだそうな。国との相性といった時は、政治的や習慣的な民族性の違いの他に、その国のカラとの相性も含まれる場合がある、と。難しくてそのくらいにしか読み取れなかった。っていうか文字は読めないので映像資料で得た知識です。

「………まぁいい。入ってみりゃ解るだろ」



そして、青く輝く世界へ来た。

建物、服装、ペイント、空、壁、建物。すべてが青い。入国手続きを終えて壁を潜った途端、真っ青な世界が広がっていた。

「…青いよ…」

更にはとにかく人通りが多い。まさに都会…! 気分は「初めてのトーキョー」!

でも、歩いてる人々はかなり独特な格好をしている。司祭風、役人風、傭兵風。ボディペイントをしている人も少なくない。皆どこかに青と白の十字の模様を付けていた。イメージカラーって奴かな?


横でaが高いビルを見上げながら言う。

「あの高ッいのがセンター?」

「そうだ。樹と張り合ってるらしいぞ」

確かにでかい。今に樹も越されそうだ。てか普通高層ビルより大きな樹無いから。

「…グール?」

aの声に振り向くと、なにやらグールがぐったりしていた。

「なんや…キモ、悪…」

「えぇ? 大丈夫かい」

「あかん」

そのままずるずるとしゃがみ込んでしまった。

え──!

「ち。やっぱりだめか…」

「『やっぱり』っ!?」

背後でシールが小さく洩らした言葉を問い質す。

「イェソドのカラとツェク・マーナの相性は最悪なようだ。壁の内側はカラの影響力が強いからな」

カラという単語が解らないのだろう。眉を顰めたaが、それでも単語の意を確かめる事を諦めて尋ねた。

「どうするの?」

どうって…言われましても。特に考えるまでもない。

「「置いてく」」

台詞もタイミングも同じだった。

「なッ」

すっごく嫌そうな表情をしているが、見知らぬ異邦の地で体調悪いまま一人置いて行かれる不安VS隷属契約から逃げられるかもしれないチャンスの葛藤が見て取れる。

「そんなに時間もかかんないでしょ、きっと」

暫らく待ってなさい、とaが諭してる。聞き分けのない子供に言い聞かせてるようだ。グールが逃げることは考えてないのがaらしい。

「――――……」

捨て犬のような瞳でaをじぃ~~っと見つめるグール。どうやら不安が勝ったらしい。しかしこれはマズい。aを落とす時のKの常套手段だ。

「―――――~~~……」

逸らしきれないaの視線。駄目そうだ。

「――はぁ。解った、しょうがないなぁ。あたしも残るから」

大きな溜息を吐いて肩を落とすa。はいはい、読める展開でしたよ。

「じゃあaさん、ターミナル着いたら呼ぶから」

掌を示して告げる。

「OK。適当に待ってるわ」

「じゃあ行くぞ」

颯爽と襟巻を翻して歩き出すシール。K達のだいたいの能力は説明してあるから特に説明を求められる事もない。

「んじゃaさん後でね!」

爽やかに手を振って急いでシールの後を追った。

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